ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

『ラブ・ネバー・ダイ』めくるめく愛憎劇をひも解く(2ページ目)

あの『オペラ座の怪人』の“10年後”を描いた究極の愛憎劇が、5年ぶりに再演。A・ロイド=ウェバー渾身作の魅力を、出演者インタビュー、製作発表&観劇レポートで多角的にご紹介します。記事は順次追加掲載してゆきますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

ファントムの擁護者、マダム・ジリー役(ダブルキャスト)鳳蘭さんインタビュー

鳳蘭 兵庫県出身。1964年に宝塚歌劇団に入団、70年に星組トップスター就任。『ベルサイユのばら』『風と共に去りぬ』等に主演し、79年に退団後は女優として『屋根の上のヴァイオリン弾き』『ラ・マンチャの男』『レ・ミゼラブル』『王様と私』『シスター・アクト~天使にラブソングを~』等数多くの作品で活躍している。(C)Marino Matsushima

鳳蘭 兵庫県出身。1964年に宝塚歌劇団に入団、70年に星組トップスター就任。『ベルサイユのばら』『風と共に去りぬ』等に主演し、79年に退団後は女優として『屋根の上のヴァイオリン弾き』『ラ・マンチャの男』『レ・ミゼラブル』『王様と私』『シスター・アクト~天使にラブソングを~』等数多くの作品で活躍している。(C)Marino Matsushima

インタビューのトップバッターは鳳蘭さん。半世紀以上にわたって日本のミュージカル・シーンを牽引し続けるスターですが、本作ではファントムの過去を知る元・オペラ座のバレエ教師役を演じます。

『オペラ座の怪人』ではミステリアスだった彼との関係が、『ラブ・ネバー・ダイ』では明らかになるばかりでなく、その感情の爆発が悲劇の発端にもなることに⁈ 日本初演でこの役をパワフルに演じた鳳さんに、これまでのキャリアについても振り返りつつ、語っていただきました。
 
“半音のずれ”に苦労した前回公演

――日本初演で一番印象に残っているのは?
 
「それは何と言っても、音楽ですね。『ラブ・ネバー・ダイ』(の旋律)はどれも、次はここに行くだろうという音から、半音ずれているんですよ。歌うのが大変でした」
 
――たくさんの作品を演じてこられた鳳さんをもってしてもですか⁈

「そうですよ。それと、クリスティーヌ役の平原綾香さんが、ミュージカルが初めてということで、はじめ“何がわからないかがわかりません”とおっしゃっていたのが印象的で。いろいろなジャンルから集まったメンバーが、一生懸命に作り上げた舞台でした」
 
愛とは哀しいものなのです
『ラブ・ネバー・ダイ』マダム・ジリー(鳳蘭)(2014年公演より)写真提供:ホリプロ

『ラブ・ネバー・ダイ』マダム・ジリー(鳳蘭)(2014年公演より)写真提供:ホリプロ

――前回に続いて演じるマダム・ジリーを、どういう人物としてとらえていらっしゃいますか?
 
「ひたすらファントムを支える人物ですね。(10年前、オペラ座で居場所を失った彼を)ひそかにNYへと逃がし、彼のためにコニー・アイランドでショーを上演しています」
 
――オペラ座のバレエ教師という身分を捨て、娘のメグとともにNYにわたるというのは、彼女にとっては大きな決断だったと思うのですが。
 
「それだけファントムの音楽的な才能を理解し、このままにはしておけないと思ったのでしょうね。メグが彼と結ばれるようにとか、そういう簡単な思いではないと思います」
 
――それほどの恩人を差し置いて、ファントムは常に心の中を占めていたクリスティーヌをNYへと呼び寄せてしまう。ジリー母娘としてはなんとも報われないですね。
 
「哀しいですよね。ええ、愛は哀しいものなんです」

舞台上ではストレスフリーです
マダム・ジリー(鳳蘭)

マダム・ジリー(鳳蘭)


――1幕終わりにはマダムの怒りが爆発するナンバーがありますが、前回の鳳さんの歌唱は圧倒的でした。あのパワーで連日、歌っていらっしゃるのかと……。
 
「私は(宝塚歌劇団の)男役出身ということもあって、こういう役ばかりなんです(笑)。自分ではなんの違和感も無いですよ。むしろ日常生活より舞台のほうが発散できます。現実世界は子供も孫もいて大変。舞台の上だけストレスフリーです(笑)」
 
――本作はダイナミックで複雑な舞台美術も特徴的ですが、怒りの爆発シーンでのマダムの、意外なところからの登場にはぞっとしました。
 
「あの空間は、とても狭いんです。私はそこに隠れて、登場までの間、ずっとファントムとクリスティーヌのやりとりを、息を潜めて聞いている。そう思うと、さらに怖いでしょう?(笑)」
 
――怖いですねぇ(笑)。ところで、今回のメグ・ジリー役は夢咲ねねさんと咲妃みゆさん。どちらも宝塚の後輩ということで、先ほども製作発表でとてもお話が盛り上がっていました。素敵な親子感が醸し出されそうですね。
 
「“同じ釜の飯”の経験者ということもありますが、宝塚って上下関係を厳しく刷り込まれるところなんですよ。後輩は先輩を敬うし、先輩は後輩を思いやる。マダムの、メグに対する無償の愛も自然にあらわれてくると思います。そういう意味で、今回は絶妙のキャスティングかもしれません」
 
――再演にあたって、今回、鳳さんの中でテーマとされていることはありますか?
 
「ファントムとクリスティーヌ、その二人をしっかり支えていきたいですね」

後輩たちに伝えたい“華”

――プロフィールを拝見すると、鳳さんが宝塚歌劇団に入団されたのは1964年。ということは、既に芸歴は半世紀以上になられるのですね。振り返ると、長い年月だったでしょうか。あっという間でしたでしょうか。
 
「あっという間ですね。宝塚を退団して結婚となったとき、私はこの(彫りの深い)顔立ちで映像向きでもないから、もう演じることはないと思っていたんです。それが、ちょうど東宝が盛んにミュージカルを上演するようになって、次々にお声がかかるようになったんですね。一つ一つをこなしていくうちに、気が付いたらここまで来ていました」
 
――最近は俳優育成にも力を入れていらっしゃいますが、若い人たちに一番伝えたいことは?
 
「“華”ですね。でもこれが難しいんですよ。“笑顔が大事よ”と言うと、みんなその瞬間は笑顔を作るけど、すぐまたもとに戻ってしまう。形だけではだめで、結局内面にサービス精神があるかどうか、ということなのでしょうね。“人に喜んでもらいたい”というサービス精神があればこそ、(努力の過程で)“華”に結び付いてゆくのだと思います」

*次頁でメグ・ジリー役・咲妃みゆさんインタビューをお送りします!
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