ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

気になる新星インタビューvol.19 岡村美南

1974年の劇団四季版初演から42年、このたび新演出となった『ウェストサイド物語』に、アニタ役で出演する 岡村美南さん。生き生きとした演技で輝きを放つ彼女ですが、今回の新版はこれまでにない経験だったのだそう。演出のポイントとは? 米国で修業を積んだ“チャレンジャー”の半生ともども、大いに語っていただきました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

岡村美南undefined(C)Marino Matsushima

岡村美南 富山県出身。中学時代に劇団四季の『夢から醒めた夢』を観てミュージカルを志し、高校卒業後アメリカの大学でミュージカルを学ぶ。在学中に劇団四季のオーディションに合格し、翌09年の大学卒業後入団。『ウィキッド』『夢から~』『キャッツ』『クレイジー・フォー・ユー』等でヒロインを演じている。 (C)Marino Matsushima

シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』を現代のNYの物語へと大胆にアレンジ、1957年にブロードウェイで初演されたミュージカル『ウェストサイド物語』。人種差別や虐待、少年の非行問題といった現代的テーマを盛り込み、レナード・バーンスタインのダイナミックな音楽とジェローム・ロビンスの演劇的振付に彩られた作品は話題を呼び、61年の映画版は世界的な大ヒットに。日本でも74年に劇団四季版が初演、以来上演を重ね、140万人以上の観客を動員してきました。
『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

オリジナル演出版は長らく、手を入れる余地のない完成度と評され、劇団四季版でも初演から同じ形で上演されてきましたが、今回は世界に3名しかいないロビンス財団公認振付師の一人、ジョーイ・マクニーリーを迎えて新演出に挑戦。振付や台本はオリジナルを受け継いでいるものの、被差別サイドにあるシャーク団の鬱屈した姿などキャラクター描写を強調するいっぽうで、時代を特定しない、ややシンプルなセットを配することで物語の普遍性を浮き彫りにするなど、すみずみまで丁寧に検討され、作られていることが分かります。(稽古場レポート、演出家インタビュー、観劇レポートはこちら。

今回のこの舞台でひときわ輝かしい存在感を放っているのが、アニタ役の一人としてキャスティングされている岡村美南さん。09年に入団以来、その魅力的な歌声とダンス力とでたちまち『ウィキッド』エルファバや『キャッツ』ジェリーロラム=グリドルボーン等の大役をこなし、注目を集めていますが、今回のアニタ役ではその長身も生かし、自由なアメリカ生活を満喫する姿と、その後に起こる悲劇へのリアクションの対比が鮮やかです。岡村さんは今回の『ウェストサイド物語』出演をどうとらえているでしょうか。

「爆発的な感情」を求められた
新演出版『ウェストサイド物語』

――『ウェストサイド物語』は、岡村さんにとってどんな作品でしょうか?

『ウェストサイド物語』新演出を担ったジョーイ・マクニーリー。撮影:荒井健

『ウェストサイド物語』新演出を担ったジョーイ・マクニーリー。撮影:荒井健

「大きな挑戦でしたね。これまでは、まず言葉を聞かせるということを重視して演出された作品に多く出演させて頂きました。今回のジョーイさんから受けた演出は、その基礎は大切にしつつも、とにかく感情面を爆発的に全面的に出すというもので、これまでここまで爆発的に感情を求められるということが初めてだったので、私のみならず四季の俳優にとって大きな挑戦。毎日の稽古がすごく刺激的でした。それは今も課題です」

――稽古ではジョーイさんから“まだ出し切ってないぞ”と言われたりすることも?

「もちろんありましたね。逆に、“そうだ今のだ”と言われた時には“ここまでの爆発を毎日やるんだ…”と思うくらい、全てを出し切る稽古でした。ジョーイさんは最初に“今回は感情面を求めてる”とおっしゃっていましたし、テンポ感もアップしました」

――岡村さんは本作へは初出演ですが、(リフ役)松島(勇気)さんなど、二度目以降の方はどうとらえていましたか?

「新しい作品に出ている感覚だったのではないかと思いますね。そういう面白みがあったと思いますが、私は逆に、何も知らない真っ白な状態でジョーイさんの演出する『ウェストサイド物語』に飛び込むことが出来たので、経験がなくてよかったと思うこともありました。アニタについて固定概念みたいなものもありませんでしたから、すごく素直に入っていけました」

――今回は公開オーディションがあったのですよね。はじめからアニタ志望だったのですか?

「はい。自分の持っているダンス力を活かせるのではと。作品におけるアニタのポジションや役どころにすごく惹かれたというのもあります」

――オーディションには映画版を御覧になって臨んだのですか?

「子供の頃に観たことはありましたが、オーディションに際しては敢えて見ませんでした。
台詞審査のために、全く的外れの解釈で言ってしまってはいけないのでその該当部分だけは観ましたが。というのは、私はジョーイさんの求めるアニタ像を目指したかったので、変に固定概念を持ってはいけないかな、と思ったんです。昔観た時にアニタがとても素敵だった印象があって、それをなぞってしまってはいけないな、と」
『ウェストサイド物語』撮影:上原タカシ

『ウェストサイド物語』撮影:上原タカシ

――途中で出演シーンがないキャラクターもいるなかで、アニタは全編に登場し、ダンス力も歌唱力も求められます。本作のキーパーソンにも思えます。

「私自身もそういうところに惹かれてアニタを受けたいなと思いました。オーディションでは役柄についてはジョーイさんの中にイメージがあったと思うので、私はとにかくエネルギーを出し切る、ということを意識していました」

――アーサー・ロレンツが書いた台本にはアニタについて「さばけて、セクシャルで、頭がいい女性」とありました。今回もそこが出発点だったのですか?

「今回、ジョーイさんはアニタについて“とにかくポジティブ”ということを強調されていました。いろんなシーンで“ミナミ、ノー・ネガティブ”、“アニタは今が人生最高なんだ、アメリカに来て人生をエンジョイしている。ベルナルドという恋人もいて、彼女は最高にハッピーなんだ”と言われましたね。体育館で喧嘩がおきかけたときに、アニタが止めに行くシーンがあるんですが、そこでも男たちの勢いに飲み込まれずに君がポジティブに飛び込んでいってベルナルドを止めるんだよ、と言われました。

もう一つ、アニタは“愛そのものだ”ということもおっしゃっていました。彼女はベルナルドと喧嘩したり、マリアにも“ダメよ”と強い言葉で言ったりしますが、相手を心の底から愛しているからこそ、と。(リーダーの)ベルナルドに唯一ものを申すことができる、強い人でもあるんですよね」

――そんな素敵な女性が最後に…という展開には、心が痛みますね。

「アニタは自信に満ち溢れていて、ウィットに富んでいる女性であるだけに、そこを意識しすぎて嫌味な感じにならないように、というのは心掛けています。最後の展開については、それまでお客様がアニタに共感しているからこそ心が痛むのであって、もしアニタの自信に満ち溢れたキャラクターが鼻についたり、違う方向に見えてしまうと、“そうなっても仕方ない”というふうに見える恐れもあると思います。ジョーイの“ポジティブ”という言葉から外れていかないように、常に心掛けています。プエルトリコの女性なので、ラテン系の情熱的で太陽のような明るさも意識していますね。一方で、愛に溢れていたアニタが憎しみの世界に引きずりこまれ、憎悪の言葉を吐き出す心の痛むシーンは“暴力や憎しみは人間をどう変えてしまうか”という強いメッセージを感じますね。」

*『ウェストサイド物語』トーク、次頁にまだまだ続きます!

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