ウェストサイド物語』 2月14日~5月8日=四季劇場[秋]

『ウェストサイド物語』

『ウェストサイド物語』

【見どころ】

『ロミオとジュリエット』的悲恋物語に人種の対立という社会的テーマを含ませ、1957年に初演。そのリアルで衝撃的な主題に、レナード・バーンスタインの圧倒的かつ抒情的な音楽とジェローム・ロビンスのクラシカルにしてシャープな振付もあいまって大きな反響を得、ミュージカル史の流れを変えたと言われるのがこの『ウェストサイド物語』です。

日本版を手掛ける劇団四季では74年の初演以降、たびたび公演を重ねてきましたが、今回、「新演出」による上演を発表。世界で3名しかいない本作の公認振付家の一人で、以前から四季版には振付家として関わっているジョーイ・マクニーリーがその演出にあたります。「新演出」ということはもしかしてあの振付が変わったりするの?と気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回、新しくなるのは主にセットや衣裳といったビジュアル面。50年代のエッセンスは残しつつも、特定の時代のみに物語を限定せず、普遍性を持たせたものになる模様です。

振付や音楽、台本は初演からのものを使いつつ、「そこに新たな情熱を吹き込みたい」というジョーイ。先だってオーディションで選ばれた卓越したダンサーたち、四季のスタッフたちとともに目下作業中とのことで、「21世紀ならではの『ウェストサイド物語』」がどのような姿で私たちの前に現れるのか、大きな期待が寄せられます。

【稽古場&演出家・出演者会見レポート】
体育館パーティーでの迫力のダンス。(C)Marino Matsushima

体育館パーティーでの迫力のダンス。(C)Marino Matsushima

初日を2週間後に控えた2月1日。訪れた稽古場では出演者たちがそれぞれに体を温めつつ、振りを確認していました。ゼッケンに「Riff」役と書かれた松島勇気さんはじめ、男性キャストたちの鍛え上げられた肉体が、目の前で躍動。定刻になると前月中旬から来日中の演出家ジョーイ・マクニーリーさんが「今回は、既に知られているストーリーを次世代に誇りをもって渡してゆけるよう、新たなエネルギーを注入しています」と挨拶。今回のキャストにもとても満足しているということで、期待の募る中、1幕のハイライト上演が始まりました。
『ウェストサイド物語』のアイコンとも言える振付は(もちろん)健在。(C)Marino Matsushima

『ウェストサイド物語』のアイコンとも言える振付は(もちろん)健在。(C)Marino Matsushima

白人のジェット団とプエルトリコ系のシャーク団がストリートで遭遇し、小競り合いから派手な乱闘へと発展してゆくプロローグ。方や家族による虐待、方や人種差別への不満のはけ口として非行に走る彼らですが、松島さん率いるジェット団には少年ならではの尊大さが漂うのに対して、萩原隆匡さん演じるベルナルドらシャーク団は微妙にうつむき加減で、(物語の当時の)被差別民族としての怒りと屈折を全身で表現。
リフ率いるジェット団(C)Marino Matsushima

リフ率いるジェット団(C)Marino Matsushima

明らかな対比の中、こちらで一人が蹴られ、あちらでもう一人がモノを投げつけられ、と「真似事」ではない、リアルな暴力が展開。これまでになく踏み込んだ描写で観る側も痛みを感じずにはいられない、ショッキングなオープニングに胸を鷲掴みにされます。
トニーとマリアの束の間の幸福なシーン「ひとつの手、ひとつの心」(C)Marino Matsushima

トニーとマリアの束の間の幸福なシーン「ひとつの手、ひとつの心」(C)Marino Matsushima

続いては体育館でのダンスパーティーでトニーとマリアが出合い、トニーの「マリア」独唱、そしてマリア宅のバルコニーで「トゥナイト」を歌う一連のシーン。喧噪の中で目と目が合った二人が急速に恋に落ちて行く過程を、トニー役・神永東吾さんとマリア役・山本紗衣さんが初々しく、純粋に演じ、続いて結婚式の真似事をする「ひとつの手、ひとつの心」では恋人としてのつかの間の幸福を微笑ましく見せ、思いがけない悲劇が起きる1幕幕切れとのコントラストを強調。基本的にはこれまでの『ウェストサイド物語』演出を踏襲しながら、より生々しく「体感」させる舞台に仕上がるのでは、という予感を抱かせました。
ベルナルド率いるシャーク団(C)Marino Matsushima

ベルナルド率いるシャーク団(C)Marino Matsushima

続く合同インタビューにはジョーイさん、松島勇気さん、萩原隆匡さんが登場。今回の新演出について、ジョーイさんは「私は2000年のスカラ座版以降、世界各国で本作の新演出を行っていますが、本作は(古典であるがゆえに)過去にとらわれていると思います。演劇は古臭くなってはいけない。だから今回、劇団四季さんから新演出のオファーをいただき、とても嬉しく思いました。変更点は(ドラスティックではなく)微かなもので、トニーとマリアの関係性がより感情的になったり、全体的に暴力描写が激しくなったりというものです。場面転換の暗転を極力省き、若いキャストを起用することで「すべてが36時間の間に起こる」本作の疾走感も強調しています」と説明。
左からジョーイ・マクニーリーさん、松島勇気さん、萩原隆匡さん(C)Marino Matsushima

左からジョーイ・マクニーリーさん、松島勇気さん、萩原隆匡さん(C)Marino Matsushima

松島さんは「より心の動きが明確になり、感情的に演じるようになりました。以前御覧になったお客様も初めて『ウェストサイド物語』を観た気分になっていただけるのでは」、萩原さんは「僕ら俳優はとかく「見え方」と気にしてしまいがちなのですが、ジョーイさんの演出はリアルな感情を引き起こし、それが行動に繋がってゆくことを再認識させてくれます。彼が自分の体でやって見せてくれる姿は本当に感動的で、泣きたくなるほどです」と手ごたえを語り、本作の魅力について「時代は変わっても非行や差別、虐待といった問題はなくなりませんが、減らすことはできるのではないか。そう気づかせてくれる、社会的なメッセージを持つ作品だと思う(松島さん)」「いろいろな衝突が描かれる中で、トニーとマリアの愛はジョーイさんが「コンクリートに咲く花」とおっしゃるほど純粋なもの。今回は特にこの「愛」を強く感じます(萩原さん)」と熱く語りました。
『ウェストサイド物語』セット模型(C)Marino Matsushima

『ウェストサイド物語』セット模型(C)Marino Matsushima

その後、今回のセット模型やデザイン画を見せていただきましたが、ジョーイさんは今回、「時代を限定したくない」ということで、なるほどNYの空気は漂いつつもシンプルで、特定の年代を想起させません。これが大きな舞台で俳優たちのエネルギッシュな演技と組み合わさり、どんな作品に仕上がるのか。2週間後に現れる全貌が待ち遠しく感じられます。

【観劇レポート】
全編を丁寧に洗い直し、「ミュージカルの金字塔」と呼ばれる
ゆえんを存分に見せる新演出版

『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

開幕と同時に始まる、ストリート上での不良少年グループ、ジェット団のダンス。松島勇気さん演じるリフを中心に、7人の若者たちはまるで一つの物体のように一体化して跳躍、団結のほどを鮮やかに描き出します。

次に現れるもう一つのグループ、シャーク団の面々は登場の瞬間からうつむき加減で、陰鬱なオーラ。後にそれは彼らが受ける理不尽な人種差別によるものと分かりますが、この「社会のひずみ」を背負った二グループが出合い頭に喧嘩を始めると、音楽と完璧に調和した「ダンス」であると同時に、観る側も痛みを覚えるほどリアルな「立ち回り」が展開、たちまち観る者を引き込みます。
『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

その夜、体育館では両グループが参加するパーティーが行われ、互いに独自のスタイルを見せつけるダンスがスタート。速度と華麗さを増しゆくラテンのリズムを正確にとらえ、放出しながら踊るキャストの中でも、どんなに激しく動いても“芯”が崩れない松島さん、長い手足を生かしてダイナミックな動きを見せるアニタ役・岡村美南さんが目を奪います。
『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

この喧噪の中でふと視線を合わせ、恋に落ちるのが元・ジェット団のトニー(神永東吾さん)とシャーク団リーダー・ベルナルド(萩原隆正さん)の妹、マリア(山本紗衣さん)。バルコニーで思いを確かめ合うデュエット「Tonight」での神永さん、山本さんの純粋、かつまっすぐな歌声はそれまで作品を覆っていた衝突・対立の緊張感を和らげますが、それもつかの間、シャーク団との決闘を前にジェット団がフィンガー・スナップをしながら爆発寸前の激情をもてあますナンバー「Cool」で、作品世界は再びアグレッシブに。従来よりアップしたテンポと生演奏で刻まれるシンバル音が若者たちの血気を浮き彫りにする今回のこのナンバーは、キャストのシャープなダンスも相まって、全編を通して出色です。
『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

翌日、マリアの懇願によってトニーは決闘を止めに行くも、誰も予想しなかった悲劇が勃発。若者たちは制御不能の憎悪と復讐の渦の中に巻き込まれてゆく…。

『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

場面間の暗転が極力短縮され、まるで映像の長回しのように一気に進行する今回の公演。登場人物のキャラクター、意識の流れがより細やかに、鮮やかに示されることで、今回の『ウェストサイド物語』は異文化(異民族)の衝突と和解という普遍的なテーマを浮かび上がらせ、観客に今、世界各地で起きている事例を想起させます。“復讐の連鎖”という、人類には解決不可能な根深さを持つ問題にこの作品が投げかける一つの可能性が、女性の視点。ベルナルドの恋人アニタは本作の中で大きな感情のうねりに翻弄されながらも“許し”を試み、“少女”から一日にして驚くべき精神的成長を遂げるマリアは、暴力の連鎖に“愛”により歯止めをかけようとする。60年前に初演された作品の核にあるものを、演じる岡村さん、山本さんは真摯に追求、力強い演技に結実させています。
『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊

セット、衣裳、照明といったヴィジュアルは今回「時代感」を抑え、突出したイメージを抱かせない控えめなデザインに変更(ベルナルドの赤シャツなど、従来通りのものも有り)。若者たちのエネルギッシュなドラマをくっきりと引き立てる体育館の黒いアーチが印象的です。

ジョーイ・マクニーリーの熱のこもった演出を受け、尋常でない気迫とともに開幕した今回の公演。本作がミュージカル史における最重要演目の一つと呼ばれるゆえんを確認するうえでも、時代を超越し、作品の本質を前面に押し出した今回の舞台は、幅広い層にお勧めできる仕上がりとなっています。

(*筆者の鑑賞時の配役について執筆。トニー、マリア等いくつかの役はダブル、トリプルキャストを予定)





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