クリスティーヌの親友、メグ・ジリー役(ダブルキャスト)咲妃みゆさんインタビュー

咲妃みゆ 宮崎県出身。2010年宝塚歌劇団に入団し、14年に雪組トップ娘役に。17年、『幕末太陽傳』で退団。舞台『ラヴ・レターズ』『ゴースト』、コンサート、TVドラマなどで活躍している。18年にはCDデビューも果たした。(C)Marino Matsushima

咲妃みゆ 宮崎県出身。2010年宝塚歌劇団に入団し、14年に雪組トップ娘役に。17年、『幕末太陽傳』で退団。舞台『ラヴ・レターズ』『ゴースト』、コンサート、TVドラマなどで活躍している。18年にはCDデビューも果たした。(C)Marino Matsushima

インタビュー第二弾は、メグ・ジリー役を今回、初役で演じる咲妃みゆさん(夢咲ねねさんとのダブルキャスト)。マダム・ジリーの娘でオペラ座のバレリーナでもあった彼女は、前作『オペラ座の怪人』では親友クリスティーヌを献身的に支え、その明るく、優しいキャラクターが観客をもほっとさせる存在でした。

それから10年の時を経て、本作におけるメグ・ジリーはNYで舞台に立ちつつ、今度はファントムを支える存在に。しかしその内面はというと……。もしかすると本作で最も哀しいキャラクターと言えるかもしれないメグ・ジリーの人物像について、現時点でのお考えをうかがいました。
 
彼女の“複雑さ”は、前作の時点から潜んでいたのかもしれません
 
――『オペラ座の怪人』はご覧になっていましたか?

「はい、劇団四季さんの舞台と、映画版を拝見していました。言わずと知れた名作ですので、舞台を観る前から何度も音楽は聴いていました。その世界観がまさに今目の前に広がっているという感動と、物語の壮大さに圧倒され、終演後は客席から立ち上がれなかった思い出があります」
 
――そして続編にあたる今回の『ラブ・ネバー・ダイ』ですが、音楽的にはちょっと異なるテイストもブレンドされていますね。
 
「そうですね。でも、おおもとの『オペラ座の怪人』のメロディを反映させている部分もあって、やはり繋がっているのだなと、楽曲を勉強していて感じます」
 
――今回演じるメグ・ジリーという役をどうとらえていますか?
メグ・ジリー(咲妃みゆ)

メグ・ジリー(咲妃みゆ)


「この世に単純な人間は存在しないとは思いますが、彼女もまた複雑な過去を抱え、複雑な現在を生きている女性だと思います。

物語の中でいろいろな面があらわれてくるのですが、各場面の彼女の心情やカラーを明瞭にお客様にお届けできるよう、お稽古の中から丁寧に作り上げていきたいなと思っていますが、まだまだ未知の世界という感じです」
 
――『オペラ座の怪人』でのメグはクリスティーヌの親友で、出てくるとほっとするような気持のいいキャラクターでしたが、本作ではちょっと異なりますよね。
 
「もちろんクリスティーヌの親友というあり方は変わりませんが、ファントムに対するメグの思いが、かなり増幅しているなという印象は受けますね」
 
――ということは、ひょっとして『オペラ座の怪人』の時点で、彼女の中にはファントムに対してなにがしかの思いがあったのかも?
 
「それも感じます。さきほども(ダブルキャストの夢咲)ねねさんとこの話をさせていただいていたのですが、『オペラ座の怪人』のメグは一見、朗らかで優しくて可憐な女性ではあるものの、あの物語は彼女が(ファントムによって)残された仮面を見つめて終わるんです。

彼女が何かを抱えていて、その後もファントムに関わっていくのかもしれない……というラストがあったうえでの今回の『ラブ・ネバー・ダイ』ですので、そういう要素は非常にあると思います。一役者としてとても演じがいのある役をいただいたなと感じています」
 
――ファントムに対して、メグはどういうスタンスなのでしょうか?
 
「彼の音楽、その類まれなる才能に対する尊敬はもちろんのこと、パフォーマーとして彼のそばで過ごしていく中で、(彼の心を占める)クリスティーヌだけでなく自分の存在も認めてほしいという、女性ならではの気持ちもあると思います。その葛藤が本作の中ではいろいろな形で登場しますが、それは単なる“愛”ということではないと思いますね。

稽古で追求していきたい部分ですが、単に振り向いてほしいのではなく、彼の持つ空気感や環境、そのすべてに受け入れてほしいという、彼女の一種孤独な欲望がにじみ出ているのではないかと思っています」
 
――彼女はファントムのためにコニーアイランドで踊り子をつとめていますね。
 
「彼を支えるために身を粉にして働いています。ショーに出るということ自体は喜びだと思いますが、かなり明るく軽快なショー・シーンでも、明るいだけではない、彼女のうちに秘めた葛藤を表現できたらと思ってます」
 
単なる“嬉しい再会”ではない、親友との10年ぶりの再会
製作発表にて。(C)Marino Matsushima

製作発表にて。(C)Marino Matsushima

――世界中のバレエ・ダンサーの憧れであるオペラ座で踊っていた自分がコニーアイランドへということで、忸怩たる思いもあるでしょうか。
 
「ジリー親子は、できればオペラ座にとどまっていたかったでしょう。一方、クリスティーヌはフランスにとどまって、オペラ歌手として名声を得ている。

彼女とはそこで格差が生まれているわけで、かつて同じ衣裳を着て同じ踊りを踊っていた親友とは雲泥の差が生まれてしまっているということに、キリキリっとした思いがメグの中にはあると思います。
 
製作発表でも10年ぶりの再会のナンバーを歌わせていただきましたが、あのナンバーではただ単に嬉しい再会ではないということを、セリフではなく歌の中で表現しないといけないので、これは大変だと感じています」
 
――オーストラリア版のメグ・ジリーはかなり情念の滲む造型でしたが、今回夢咲さんと咲妃さんという可憐な女性がキャスティングされたことで、やや異なるカラーのメグ像が求められているのかなという気もしました。
 
「一女性としてそうおっしゃっていただけるのは嬉しいですが(笑)、今回は自分自身のカラーではなく、この物語に必要な人物として存在したいので、そこに可憐であったりキュートな要素だけが必要かというと決してそうではないので、力強い部分や、彼女のむき出しの欲望だったり、人間味あふれる部分をきちんと表現したいと思っています。

自分の中にも、彼女に共感できる部分がきっとあると思うので、彼女の心情に寄り添って役を構築していきたいですね。
 
実際のところ、情念系のお役は(宝塚に)在団の頃から演じる機会を何度か頂いておりました。今回も情念を燃やして役に没頭したいです」
 
――ロイド=ウェバーの音楽はいかがですか?
 
「たいへん難しく複雑で、音符をなぞるだけでは決して表現できない世界観が譜面の中にあり、これは練習を重ねていく中で少しずつ掴んでいくしかないなと思っています。

けれども同時に役作りも深めていきたいので、難しさにとらわれず、メグが今、こういう心境だからこういうメロディーになるということに意識を向けていきたいですね。彼女から生まれでてくるものがこの音楽なのだ、というのを大切にしていきたいです」
 
――今回はジリー親子は全員宝塚OGということで、安心感もひとしおでしょうか。
 
「安心感もありますし、ご相談させていただきながらお稽古を進めていけたら……と、淡い思いを抱いています。さきほども(母マダム・ジリー役)鳳さん、香寿さんとお話しさせていただいて、見守っているから頑張りなさいというあたたかいお言葉をいただきました。

有難い繋がりは感じつつも一役者として、素晴らしい役者さんに向き合っていくという気持ちで、“後輩意識”を舞台の上では持たないよう、意識していこうと思います。
 
実際の空気感は鳳さん、香寿さんでも異なる部分もあると思いますし、共演させていただきながら、その都度生まれる親子の空気をしっかり感じて、娘としてご一緒できたらと思いますね」
 
――どんな舞台になればと思っていらっしゃいますか?
 
「お客様お一人お一人に喜んでいただける舞台にしたい、というのが一番の目標であり願いです。もう一度観てみたいなとか、明日から頑張っていこうと思っていただける舞台になるといいなと思っています」
 
宝塚で学んだ“思いやる心”
 
――プロフィールについても少しうかがわせてください。咲妃さんがこの道に入られたのは、宝塚がお好きだったからということでしょうか?
 
「劇団四季さんやその他の舞台を幼少期から拝見する中で、憧れを抱いたのが女優のお仕事でした。好きなだけでは決して務まらないのは重々承知ですが、その好きという気持ちが今も私を鼓舞してくれています。進学校に通っていて周囲は勉強勉強という感じでしたが、そのなかで憧れをぬぐいきれなかったところで宝塚と出会い、人生が大きく変わりました」
 
――宝塚で得たもので一番大きかったものは?
 
「演技と直接結び付くかはわかりませんが、人を思いやる心です。目上の方だったり、慕ってくれる下級生、お世話になるスタッフの方、応援して下さるファンの方、すべての方あっての一役者、咲妃みゆなんだなということを学びました。ですから役者たるもの、感謝の心を忘れてはならないということは常々感じています。宝塚が教えてくれた、生きていくうえでもっとも大切なことの一つですね」
 
――先だって出演された『ゴースト』(観劇レポートはこちら)では、単に“守られるヒロイン”ではない、現代的なワーキングウーマンを演じていらっしゃいました。
 
「自分自身としっかり向き合いながら生きていくというのはどういうことかを、モリー・ジェンセンという人物を演じるなかで学ばせていただきました。私は私の意志をもって歩んでいっていいんだ、それが必要なんだ、と。振り返って、役からいい影響をいただいたなと感じています」
 
――今後どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
 
「私の芸の道は宝塚からスタートしましたが、私はこうありたいという枠を作り込みすぎずに、様々なことに挑戦していきたいと思いますし、ご縁をいただく方々に“咲妃にこういうことをさせてみたら面白いんじゃないかな”“この役をどう料理するかな”と、わくわく感を抱いていただけるような演者でいたいです。お芝居、歌、いろいろなことにチャレンジしていきたいので、これからの日々もチャレンジ精神を失わずに生きていきたいと思います」

*次頁でラウル役・小野田龍之介さんインタビューをお届けします!