流麗さと躍動感に包まれた『パリのアメリカ人』稽古場取材レポート(12月22日)

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「パラダイスへの階段」小林唯(中央)(C)Marino Matsushima

12月22日、あざみ野。アップを終えた出演者たちが集まる廊下には、『ウエストサイド物語』や『JCS』稽古取材時の緊迫感、『アラジン』の時の高揚感とは一味異なる、柔らかな空気が漂います。稽古場に入り着席すると、取材会がスタート。
 
タイプの異なる3つのナンバーを披露
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。斎藤洋一郎(アダム)(C)Marino Matsushima

本作の演出家・振付家クリストファー・ウィールドンの挨拶に引き続いてまず披露されたのは、物語序盤のナンバー「I Got Rhythm(アイ・ガット・リズム)」。劇団四季のレパートリーの一つ『クレイジー・フォー・ユー』でもお馴染みの楽曲ですが、本作では第二次世界大戦後、パリに残ることを決意した元・米軍兵士のジェリーとアダム、そしてフランス人アンリの、カフェでの出会いを描くシーンで歌われます。
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。酒井大(ジェリー)(C)Marino Matsushima

パフォーマー志望のアンリが、作曲家志望のアダムに書いてもらった曲を歌ってみるがどうもノリが悪い。歌いなおしているうち、みるみるうちに心浮き立つようなナンバーとなり、通りかかった往来の人々も加わって大ナンバーに。

一人ひとり緻密につけられた振付によって台詞と歌、ダンスが一体化し、流れるような運びが何とも小粋なシーンです。劇団四季に初登場のジェリー役、酒井大さんの自然な台詞まわしには頼もしさも。
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「アイ・ガット・リズム」(C)Marino Matsushima

続くナンバー「I’ll Build A Stairway To Paradise パラダイスへの階段」は、ナイトクラブでのアンリのパフォーマンスのナンバー。緊張感からか、はじめは失敗ばかりの彼がピアノを弾くアダムに「集中しろ!」と激励され、徐々に自信を持って歌い踊るまでに至る過程を、アンリ役の小林唯さんが滑らかな動きと歌とで見せていきます。

後半では女性ダンサーたちが『クレイジー・フォー・ユー』でもお馴染みのふわふわの羽を持って登場、かなり華やかなシーンに仕上がりそうです。
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。バレエ「パリのアメリカ人」より。酒井大、石橋杏実(C)Marino Matsushima

そして最後に披露されたのがビッグ・ナンバー「An American In Paris(パリのアメリカ人)」の後半。基本的にはリズとジェリーのパ・ド・ドゥなのですが、リズのパートナーがナンバー終わりに別の人物になっているのがポイントで、このナンバー披露の前に報道陣の前に立ったウィールドンは「なぜパートナーが変わるのか。それはぜひ本番で確認してください」と悪戯っぽくコメント。

かなりリフトの多いナンバーですが、ジェリー役、酒井大さんのスムーズな動作には9月の製作発表時に比べてさらに磨きがかかり、石橋杏実さんも端正な動きの中にリズの恋心を覗かせ、ロマンチックな一場に。
 

演出・振付クリストファー・ウィールドン囲み取材会

3曲の披露の後、隣の稽古場にてウィールドンの合同インタビューがスタート。45分間、質問が途切れるまで丁寧なQ&Aが続きました。以下、各社からの質問とそれに対するウィールドンの回答の全てをご紹介しましょう。
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

クリストファー・ウィールドン 英国生まれ。ロイヤル・バレエ・スクールで学び、英国ロイヤル・バレエ、ニューヨーク・シティ・バレエでダンサーとして活躍後、振付家に。『パリのアメリカ人』で2016年トニー賞振付賞を受賞。世界各地のバレエ団、映画等で振付を行い、2020年には再びブロードウェイで新作ミュージカルの演出・振付を行う予定。(C)Marino Matsushima

ブロードウェイの華やかさにバレエが加わった、魅力的な舞台です
 
――本作の演出・振り付けのポイントを教えてください。
 
「映画版『巴里のアメリカ人』の精神性はリスペクトしつつも、全く同じレプリカは作らない、ということを重視しました。ガーシュインや(映画版に主演した)ジーン・ケリー、(映画版の監督)ヴィンセント・ミネリが現代に生きていたら、どんな作品を作るだろうと考えたのです。

作品に歴史的な意味での真実味を与え、当時パリがどういう場所だったかを描こうと考えました。映画版ではパリはすべてがハッピーで美しい、太陽と花々の都だったけれど、現代ならどういう場所として描けるのか、と。
 
ロマンティックなスピリット、新たな友情をはぐくむ喜びと対比させるためにも、時代的な暗さが必要だろうと考えました。オープニングのバレエにみられるような、幕開けのパリの暗さと、開放されたことによる喜びを描こうと。

終戦によって混乱はすぐ消えたわけではなく、ナチスは深くいろいろなところに爪痕を残しました。戦時中に生まれた愛や不安はずっと市民の心の中に残っていたのです」
 
俳優とダンサーがインスピレーションを与え合う現場
 
――あなたはバレエを中心に創作をされていますが、ミュージカルとどのように作り分けていますか?
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「アイ・ガット・リズム」(C)Marino Matsushima

「(違いではなく)両者の共通項からお話しましょう。私はバレエにおいても“物語ること”を重視し、自分をストーリーテラーだと思っています。ミュージカルには“台詞”があり、それはとても贅沢なことですね。

初めて演出するにあたっては、それまでステップ、身体表現によって物語を伝えることに慣れていたので、言葉で物語を伝えるとはどういうことかを習得していきました。
 
面白かったのは役者とダンサー、それぞれの取り組み方の違いです。ダンサーは振付家の言うとおりに取り組むことに慣れているが、俳優は質問が多く、ディスカッションを好む。それは興味深いことでしたし、両者がインスピレーションを与え合っている姿に感銘を受けました。

俳優はダンサーたちの(素直な)立ち居振る舞いに注目し、ダンサーたちは役者たちがしゃべること、動くことに関して全て動機や意味を考えているということに気づく。両者が融合していくことに感動しましたね」
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

合同インタビューで語るクリストファー・ウィールドン。(C)Marino Matsushima

――振付でどうキャラクターを表現しましたか?
 
「それは(初めから設定するというより)発見していくものだと思います。バレエを見慣れない方にも届きやすい伝え方をしたいと思いました。作りながら、この部分を言葉を使わずに伝えるにはどうしたらいいかと考えるわけなので、決まったテクニックがあるわけではありません。

ちょっと頭を動かしたり腕を伸ばすだけで表現できることもあれば、長いコンビネーションでないと伝えられない物語や思いというものもある。動きだけでは伝えきれないものもあるので、ミュージカルにおいては、伝えるべき情報の半分までも台詞で伝えられるのは助かりますね」
 
――(具体的には)ジェリーやリズのキャラクターをどのように振りで表現したのでしょうか。
 
「それは物語のどの地点か、にもよります。序盤、リズに関しては純粋さ、美しさを表現しようとクリーンな動きを意識しました。

ジェリーに関してはもっと地に足のついた、どっしりした動き。なるべくその人物がどういう人か、何を思っているか表現したいと思っていますが、ジェリーの場合はGIですので、骨盤を使う重い動き、リズは洗練された動きを意識しました」
 
様々なダンススタイルを探る醍醐味
 
――バレエとタップの融合はいかがでしたか?
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「パラダイスへの階段」(C)Marino Matsushima

「本作が魅力的に感じられた要因が、様々なダンススタイルを探る可能性を秘めていると思えたことでした。先ほど披露した3つ目のナンバーは一番バレエらしいのですが、抽象性が高く、オペラハウスで上演するような古典的バレエとは全く異なります。またオープニングのバレエでは、人物紹介・状況を説明するということを大事にしました。
 
そして本日、2曲目に披露した『パラダイスへの階段』は、ブロードウェイ・ファンタジーと言うべきナンバー。僕自身あまりタップに関してボキャブラリーがあるわけではないので、演出補のドンティー・キーンにここはおおいに助けていただきました。

しかしタップの中にもなるべくバレエ的なラインが出てくるよう意識し、ラジオシティ・ミュージックホールで上演されるような洗練されたタップナンバーに仕上げています」
 
――ガーシュインという作曲家について。
 
「私が6~7歳の頃、両親が初めて連れて行ってくれたコンサートがガーシュインの音楽のコンサートで、その時から僕はガーシュイン音楽にほれ込んでいます。

またニューヨーク・シティ・バレエで踊っていた頃は、バランシン振付のガーシュインの曲『Who Cares?』を踊るのが好きでしたし、そこで僕は一度『パリのアメリカ人』を振り付けたことがあったのですが、満足することがありませんでした。

今回ミュージカルで再びこの作品にアプローチでき、自分としては成功できたかなと思っています」
 
――劇団四季との仕事について。
 
「素晴らしい場所だと思っています。ブロードウェイにだってこんな施設はありません。大きく美しいスタジオ、素晴らしいスタッフ。舞台への集中度。新国立劇場で『不思議の国のアリス』を振り付けた時も思いましたが、日本の人々は舞台への献身度が素晴らしい。他のどこにもない場所ですね」
 
日本版にあたっての微調整
 
――ブロードウェイ版から時間が経っていますが、日本版にあたってブラッシュアップする部分は?
 
「アメリカ、英国でのツアー版でブラッシュアップはできていると思いますが、日本での一番のチャレンジは翻訳。日本語という美しくも複雑な言語で上演するにあたり、どうアメリカニズムを取り入れていくか。これは興味深いプロセスとして初日まで続くことだと思っています。

微調整をするという意味では、パフォーマーの個性、声域によって微調整したり、俳優の体型に合わせて振付を再考することもあるかと思います。英米でほとんどのブラッシュアップを済ませていることで、日本では最も完成した形の舞台をお見せできると思います」
 
個人的に愛着があるキャラクターは……
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「パラダイスへの階段」小林唯(アンリ)、斎藤洋一郎(アダム)(C)Marino Matsushima

――本作においては主人公カップルだけでなく、アンリやアダムが作品の成功を左右するほど重要に思えますが、ご自身の中で特に愛着あるキャラクターは?(質問・松島まり乃)
 
「子供の中で一番のお気に入りを選ぶようなもので、難しいですね(笑)。誰も関係者が聞いていないという前提で言うなら(笑)、(作曲家志望の)アダムが好きです。

脚本家のクレイグ・ルーカスがこの役を本当に素晴らしく描いていますし、“若きガーシュイン”を投影したような部分があるんです。またアダム自身が作品の中で描こうとしている“光と闇”に親しみを感じます。この作品のテーマでもあるし、僕自身の芸術性にも近いのでアダムに親近感を感じますね。
 
と同時に、いつかラジオシティ・ミュージックホールでタップダンスをしてみたいと妄想したりもするので(笑)、アンリにも憧れるところがあります」
 
手・腕を多用した特徴的な振付の意図
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。バレエ「パリのアメリカ人」(C)Marino Matsushima

――振付の中でしばしば手や腕で特徴的な形を作っていらっしゃいますが、その意図は?(質問・松島まり乃)
 
「腕で様々な角度を作るということを考えています。当時主流であった(セルジュ・)リファールの振付や、(19世紀末~20世紀前半に活躍した抽象画家)モンドリアンの作品を想起させるという意図によるものです。
 
興味深いことに、リファールはナチス占領下時代にパリのオペラ座で振付をしており、ナチスがバレエ団に寄付をしていたという背景がありました。そのことでフランス人は後に、リファールに対して、(占領下も)バレエという芸術を生きながらえさせてくれたと感謝すべきなのか、ナチスとの交流があったことで追放するべきかと相反する感情があったようです」
 
――新国立劇場でも振付をされていますが、日本の観客についてどんな印象がありますか? また、本作は日本でどう受け止められると思いますか?
 
「日本の観客はバレエを非常に愛してくれていると感じます。ダンサーとしても愛情を感じましたし、世界一のバレエファンは日本にいると感じましたね。

アメリカでは観客は声を出してくれますが、日本では礼儀正しい、静かな方が多いため上演中は喜んでいただけているかわからないけれど、演目が終わると感謝の言葉であったり、あたたかな反応をいただける。上演中は集中して観てくれているということなのではないでしょうか。
 
本作はガーシュイン音楽を使っていますが、日本ではガーシュインが人気と聞いているし、劇団四季の『クレイジー・フォー・ユー』も人気演目だそうですね。今回はアメリカの華やかなミュージカルらしさとバレエが組み合わさっていますので、勝算はあります(笑顔)」
 
出演者全員に“三拍子”を求めています
 
――あなたの振付は複雑で難しいと言われます。本作で最も難しいのは?
 
「僕自身よく思うのが、“難しく思われなければOK”ということです。それが僕の指標ですね。ダンサーをストレス責めにはしたくないが、楽もさせたくありません。多くのものをダンサーに求めたい。
 
本作でお客様が最も素晴らしく思ってくれるのはジェリーやリズ役だと思います。要求されるものが歌と芝居だけでなく、かなり高度なダンス・コンビネーション、それも古典バレエのテクニックです。

もっとも全員に、アメリカで言う“triple threat(三拍子)”を求めています。ダンス、歌、芝居のすべてができなくてはいけません。本作は逃げ道のない作品です」
 
――映画版についてどんな部分をリスペクトし、舞台に取り入れていますか?
 
「私自身、本作のファンでした。主演のジーン・ケリーとレスリー・キャロンは本当に偉大だと思います。若いころ自分もダンサーだったので、お芝居の部分は飛ばしてダンスシーンを何度も繰り返し観ました。

ジェリーの振付をするにあたり、ジーン・ケリーの身体性を取り入れた振りがあります。ただ映画から振りを完全に取り入れることも、映画版の振りを完全に無視することもなく、原作映画からさらに新しいものを育てたと感じていただけたらと思います。

映画を舞台で再現しようとする試みは僕もいくつか見てきましたが、偉大なジーンやレスリーを再現するというようなことは、やはり無理があると思うのです」
 


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