ガーシュインの生涯を辿る朗読音楽劇『アメリカン・ラプソディ』

12月20~22日=座・高円寺
 
『アメリカン・ラプソディ』の見どころ
『アメリカン・ラプソディ』2015年公演より。撮影:宮内勝

『アメリカン・ラプソディ』2015年公演より。撮影:宮内勝

20世紀アメリカを代表する作曲家、ジョージ・ガーシュイン。ジャズとクラシックを融合させた彼はブロードウェイやハリウッドでも活躍し、その楽曲「アイ・ガット・リズム」「シャル・ウィ・ダンス?」等はミュージカル『クレイジー・フォー・ユー』『パリのアメリカ人』でもおなじみです。
 
ユダヤ系ロシア移民としてNYの貧しい家庭に育ったガーシュインが、どのように音楽と出会い、作曲家として世に出、39歳で夭折するまでに多彩な音楽を生み出していったのか。本作では彼の芸術的パートナーとなる女性作曲家ケイ・スウィフトと、世界的なヴァイオリニストのヤッシャ・ハイフェッツの往復書簡を通して、20世紀初頭を駆け抜けていった彼の“濃密な人生”を、劇作家・斎藤憐さんの筆によって描き出します。
 
朗読だけでも成立する内容ながら、本作では随所にピアニストによる生演奏・俳優による歌唱が差し挟まれるのが大きな特徴。ナンバー誕生のエピソードを耳にした直後に実際にその曲を楽しむことが出来るとあって、2010年の初演以来、毎年上演を楽しみにしているファンも少なくない作品です。
 
今回はケイ役を土居裕子さん、ヤッシャ役を福井晶一さんが担当。屈指の歌唱力を持つお二人とあって、今年は「サマータイム」「ス・ワンダフル」をはじめ、歌唱ナンバーも多くなりそうとのこと。

また初演からピアニストをつとめる国際的なジャズ・ピアニスト、佐藤允彦さんの演奏もふんだんに登場。特にガーシュインその人が乗り移ったかと思われる「ラプソディ・イン・ブルー」での迫力の演奏は聞き逃せません。

シンプルながら贅沢この上ないひとときを、クリスマス・シーズンのご自分への「ご褒美」にいかがでしょうか。
 

ケイ・スウィフト役・土居裕子さん、ピアニスト役・佐藤允彦さんインタビュー

(左)佐藤允彦・慶應義塾大学卒業後、米国バークリー音楽院に留学、作・編曲を学ぶ。帰国後は多数のアルバム制作に携わり、国際ジャズ・フェスにも多数出演。(右)土居裕子・愛媛県出身。東京芸術大学卒業後「音楽座」主演女優として活躍。その後『サウンド・オブ・ミュージック』等の舞台に出演、ディズニー映画『ポカホンタス』吹替え等でも活躍。(C)Marino Matsushima

(左)佐藤允彦・慶應義塾大学卒業後、米国バークリー音楽院に留学、作・編曲を学ぶ。帰国後は多数のアルバム制作に携わり、国際ジャズ・フェスにも多数出演。(右)土居裕子・愛媛県出身。東京芸術大学卒業後「音楽座」主演女優として活躍。その後『サウンド・オブ・ミュージック』等の舞台に出演、ディズニー映画『ポカホンタス』吹替え等でも活躍。(C)Marino Matsushima

ガーシュインの生涯とその楽曲を、心ゆくまで堪能できる舞台です

――お二人は本作のような朗読劇は、以前から手掛けていらっしゃるのですか?
 
佐藤「僕はこの作品だけですね。2010年の初演の時に、以前からお付き合いのあった演出の佐藤信さんに言われまして、即決しないとまずいかなと思って、“はい”と(笑)。今年で9年目になります」
 
土居「私は3年前の公演で初めて『アメリカン・ラプソディ』に出させていただいたのですが、ガーシュインの生涯を語ってゆくだけでなく、折々に佐藤さんのピアノの生演奏が加わるというのがとても素敵だなと思いました。だって「ラプソディ・イン・ブルー」全曲を聴く機会なんて、そうそうないですよね」
 
佐藤「実際は相当、縮めて弾いているんですよ。3分の1ぐらいに」
 
土居「それでも幸せな気分になれます」
 
佐藤「うまく弾ければね(笑)。自分としては1回も満足したことはないですよ」
 
土居「板(舞台)に乗っていながら、私は“ずっとこれを聴いていたいな”と思ってしまいます」
 
佐藤「この作品はね、(演奏を始める)きっかけを覚えていないといけないから大変なんです。(初演から)ずっとやってるからだいたい頭に入ってるけど、毎回、(佐藤)信さんが台本に手を入れるんですよ。曲を変えたり、演奏のきっかけを」
 
土居「それも全部ではないので、要注意な変わり方なのだと思います」
 
佐藤「信さんは俳優さんにも“(台本を)読んではいけないし芝居してもいけない”とおっしゃる。難しいものなんだなぁと思いますね。土居さんも福井さんも、普通の芝居より相当神経を使われるんじゃないかな」
 
自由に、のびのびとガーシュインを演奏

――台本の1ページ目の配役表を拝見すると、佐藤さんは“ピアニスト”の後に“(ガーシュイン)”と書かれています。ガーシュインとして演奏している、ということでしょうか?
 
佐藤「そんな意識はしてないですよ。だってガーシュインは若くて男前で、女性遍歴が凄まじい人物じゃないですか(笑)」
 
土居「ピアニストってずるいんですよ。ふだんはこうやって普通に話しているけど、ピアノを弾きだすと“ああ素敵”と魅了されてしまいます。ミュージシャンの魔力ですよね」
 
佐藤「ガーシュインが実際にどういう演奏をしていたのかはあまりわかっていなくて、『ラプソディ・イン・ブルー』にしても、かっちりした譜面はあるけれど、それにもいろいろなバージョンがあるんです。オーケストラと一緒のバージョン、ピアノ1台バージョン、2台バージョンとか。信さんは“自由に遊んでいいからね”とおっしゃるので、“ここまでやったら怒られちゃうかな”とか考えながらやっていますね」
 
――シンガーから見たガーシュインは?
『アメリカン・ラプソディ』2015年公演より。撮影:宮内勝

『アメリカン・ラプソディ』2015年公演より。撮影:宮内勝

土居「私はジャズの歌い手というわけではないので、エラ・フィッツジェラルドみたいなジャズの歌い方は難しいなと思っていましたが、そうではなく、例えば『サマータイム』であればオペラ『ポーギーとベス』の中の『サマータイム』でいいんだよと演出家がおっしゃったんです。それなら挑戦できるかなと前回歌わせていただいて、はまりましたね。
 
クラシックともジャズとも言い難い、ガーシュインが学んできたオーケストラ法にジャズとインプロビゼーションが融合しているのが楽しくて。もう一回やりたいと思わせてくれました」

ガーシュインと同時代の作曲家の相似点

――「サマータイム」以外にはどんなナンバーを歌われるのですか?
 
土居「私はガーシュインだけでなく、お兄さんのアイラが作詞してヴァイルが作曲したものも歌うんですよ」
 
佐藤「でも別の作曲家の作品なのに、全然違和感がないんです」
 
――同じ時代の作品だから?
 
佐藤「ええ。ヴァイルはナチス・ドイツに追われて30年代にフランスに逃げていったんですが、ガーシュインもお父さんがロシア系のユダヤ人で、帝政ロシア時代に、ポグロムというユダヤ人排斥に遭ってアメリカに逃げて来たんですね。ニューヨークの貧民街で育ったジョージ・ガーシュインの音楽には、ユダヤ人の感性が含まれているので、同時代のヴァイルの音楽を土居さんが歌われても、全然違和感がないんです」
 
――ロシア出身ということで、ロシア的な要素もありますか?
 
佐藤「ガーシュインだけでなく、30年代にはロシアの子守歌を思わせる旋律の曲を書いた作曲家が何人もいますよ。自分の中にDNAとして持っているんでしょうね」
 
土居「そうなんですか」
 
――被差別意識が芸術性に火をつけたということもあるでしょうか。
 
佐藤「ガーシュインはもちろん天才だと思うけれど、あの頃のアメリカにはものすごい人がいっぱいいますね」
 
――時代が押し出してきたのでしょうか。
 
佐藤「アメリカは国として若かったじゃない。そこにみんなでゴールドラッシュとかで押し寄せて、ものすごい活力があったんじゃないかと思いますね」
 
ガーシュインは今で言う“ツンデレ”⁈

――土居さんは台本を読み込む中で、どんなことを感じますか?
 
土居「まず、(ガーシュインは)すごい女ったらしだったんだなと(笑)。この作品にはガーシュイン本人は登場せず、私演じるケイと福井さん演じるヤッシャの台詞だけで彼がどういう人かを表していかないといけないのですが、一言で言えば、ガーシュインは今で言う“ツンデレ”ですね(笑)。上流階級で育ったケイは、そういうところにころりと魅了されてしまったのでしょう。
 
ガーシュインは彼女と歩む間にもいろんな女性と関係を持っていたけど、ケイとしては、彼の溢れるような才能を壊しちゃいけない、と自分を抑えていたのでしょうね。こんな才能のある人と深く関わったことがないので、自分だったらどうするかわかりませんが(笑)」
 
――本作は奔放でありながら才気溢れるガーシュインの人生を、ケイとヤッシャの往復書簡を通して描いた作品ですが、佐藤さんの生演奏でガーシュインの楽曲がふんだんに差し挟まれるのが特色ですね。
 
佐藤「10数曲演奏します。中でも、彼の若いころの作品『ラプソディ・イン・ブルー』はやはり素晴らしいですね。作品の中にものすごくいろんなエピソードが入っていて、自由奔放にいろんなものが組み合わっています。どこをとってもうまくまとまっていて、(3分の1に縮めても)うまく繋がるんですよ。
 
それに比べると、後年の『コンツェルト・イン・F』は同じモチーフが何度も繰り返されていて、イマジネーションがあまり感じられない。既にこのころ、脳腫瘍だったのかなと思いますね。もう1つ、『キューバ序曲』も彼自身、ちょっと困っているような感じがありますね」
 
土居「わかります」
 
佐藤「そういう大きな作品より、むしろ日常的な小さな曲の中に、素晴らしい、こんなメロディよくできたなというものがあります。それらはアメリカのジャズメンに愛されて、『グレイト・アメリカン・ソングブック』といった定番集にいっぱい入っています」

お気に入りのガーシュイン・ナンバーは……

――ガーシュインの作品の中でお気に入りを1曲選ぶとしたら?
 
佐藤「難しいこと言いますね(笑)。やはり遺作の『Our Love Is Here To Stay』ですね。すごくシンプルなんだけどね。遺作なんですよ。遺作と言っても、39歳。若いですよね。本当にぱっと駆け抜けて行ってしまった。その(人生の)密度はすごいですね」

土居「私のお気に入りは『ラプソディ・イン・ブルー』。このまえ『ボヘミアン・ラプソディ』を見たときに、この曲が浮かんだんですよ。フレディ・マーキュリーもオペラが大好きでいろいろ聞きまくって『ボヘミアン・ラプソディ』が生まれたそうですが、彼はペルシャ系のインド人(パールシー)で、民族的な匂いがある。かたやガーシュインも民族的な匂いがあるということで、この2つが私の中でリンクしました。
 
今回、『アメリカン・ラプソディ』をもう一度やりたいと思ったのも、(佐藤)允彦さんの『ラプソディ・イン・ブルー』を間近で浴びたいという気持ちがあったからです」

佐藤「練習しなくちゃ(笑)」

2018年版に向けての抱負

――今回、ご自身の中で何かテーマはおありですか?

土居「前回、ケイという役がすごく私の中に入ったんです。実際はそんな人じゃなくて、私のなかで勝手に作り出しちゃったのかもしれないけれど、“このキャラ、私の中にある”と思えたんですね。

その時からちょっと歳を重ねたので、もう少しケイという人を深めていけるんじゃないかなと思います。“こんな(奔放な)男と出会ってしまった”ということで、胸の中でもっとぐるぐるしてるものがあるんじゃないかと。

そのへんを出して信さんに否定されたらおしまいですけど(笑)、チャレンジはいいことだと思うので、“そこはちょっと”と言われるまでやってみようと思ってます」

――福井晶一さんとは初共演ですね。

土居「ヤッシャが実際どういう人かはわかりませんが、福井さんのヤッシャはとてもヤッシャらしいんですね。ちょうど年下で、実際の設定とも同じですし、ちょっと歌ってくださいます。ジャン・バルジャン役者の福井さんが“ちょっと”というのは申し訳ないんですが、デュエットさせていただけるので楽しみですね」

佐藤「僕の抱負は、うまく弾く以外ないかな(笑)。一生懸命やってます。実はお二人が朗読している間、僕はずっと静止していなくちゃいけないので、大変なんです。筋肉が固まるね。それでいきなり演奏しなくちゃいけない(笑)」

土居「たいていは袖にはけるのですが、今回はピアノが中央にあることもあって、ずっといてくださるんです」
 
――急に“100メートル走ってください”みたいな?(笑)

佐藤「そう、スタートラインもなしにね(笑)」

――どんな舞台になりそうでしょうか。

佐藤「ご覧になってのお楽しみ、かな(笑)」

土居「毎年ご覧になるファンもいらっしゃるとうかがっています。比べるのが楽しみな方もいらっしゃるかもしれませんね」

佐藤「僕はずっとやってきているので毎年(朗読を)聴いているけど、同じ台本なのに俳優さんによって、雰囲気が全然違うんですよ。面白いなと思うし、すごく勉強になりますね」
 

『アメリカン・ラプソディ』観劇レポート:大人の“ご褒美”と呼ぶに相応しい珠玉の音楽朗読劇

『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

舞台中央に一台のピアノ、その左右にテーブルとバーチェア。登場した土居裕子さん、福井晶一さんは佐藤充彦さんのピアノで軽快に「スワンダフル」を歌い、そのまま左右に分かれて朗読を始めます。
『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

15歳で楽譜屋のピアノ弾きとして働くようになったジョージ・ガーシュインは作曲の才能を発揮、大衆の人気を得るも、批評家にはその新しさゆえに酷評される。渾身の力を振り絞って取り組んだオペラ『ポーギーとベス』も失敗し、失意の中で39歳で脳しゅようのためこの世を去る。
『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

斎藤憐さんによる台本は、ガーシュインの作曲を助けた女性作曲家ケイ・スウィフトと、彼女にガーシュインを助けるよう依頼した世界的ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツの往復書簡という形式をとり、はじめはジョージと距離を置いていたケイが次第に彼の魅力に抗えなくなり、抜き差しならない関係となっていく様子を描きつつ、ヤッシャの言葉を借りてジョージの音楽を考察。
『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

観客は折々に差し挟まれる佐藤さんのピアノ演奏や土居さん、福井さんの歌を楽しみながら、ユダヤ系ロシア移民というルーツと当時アメリカに根付きつつあったジャズやブルース、チャールストンといったアフリカ系移民の音楽がジョージの血となり肉となって「ラプソディ・イン・ブルー」「ピアノ協奏曲」といった名曲が生まれていったことを理解していきます。
『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

『アメリカン・ラプソディ』撮影:宮内勝

真珠のように言葉を粒だたせながら読み上げ、「サマータイム」の歌唱では端正かつ献身的な歌声を場内に響かせる土居さんと、明朗な朗読にあたたかさの滲む福井さん。遺作となった「Our Love Is Here To Stay」を敢えてさらりと弾く佐藤さん。クリスマスの時期にふさわしい、大人の“ご褒美”と言える公演です。

公式HP
 

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