柿澤勇人undefined1987年神奈川県生まれ。2007年に劇団四季研究所に入所し、同年『ジーザス・クライスト=スーパースター』でデビュー。『人間になりたがった猫』『ライオンキング』『春のめざめ』に立て続けに主演し、2009年退団。その後の舞台に『スリル・ミー』『アリス・イン・ワンダーランド』『ロミオ&ジュリエット』ほか。ドラマ『安堂ロイド』等、映像でも活躍。来年『海辺のカフカ』再演に出演。(C) Marino Matsushima

柿澤勇人 1987年神奈川県生まれ。2007年に劇団四季研究所に入所し、同年『ジーザス・クライスト=スーパースター』でデビュー。『人間になりたがった猫』『ライオンキング』『春のめざめ』に立て続けに主演し、2009年退団。その後の舞台に『スリル・ミー』『アリス・イン・ワンダーランド』『ロミオ&ジュリエット』ほか。ドラマ『安堂ロイド』等、映像でも活躍。来年『海辺のカフカ』再演に出演。(C) Marino Matsushima

最終頁に2017年7月のコメントを追加掲載しました!*

映画プロデューサーのフランクを訪ねる、旧友のメアリー。表面的には成功していても心は満たされず、夫婦仲も険悪な彼に、メアリーは人生観を巡って決裂したかつての親友、チャーリーとのかけがえのない日々を思い出させる。“自分はいつ、何を間違えてしまったのだろう”と、フランクは過去の記憶を手繰り寄せ始める……。
『メリリー・ウィー・ロール・アロング』左から柿澤勇人、ラフルアー宮澤エマ、高橋愛、小池徹平undefined撮影:渡部孝弘

『メリリー・ウィー・ロール・アロング』左から柿澤勇人、ラフルアー宮澤エマ、高橋愛、小池徹平 撮影:渡部孝弘

“現在”から数年ずつエピソードを遡り、最後にフランクがチャーリーやメアリーと出会った“20年前”に到達する『メリリー・ウィー・ロール・アロング』は、スティーヴン・ソンドハイム作品として81年に初演。近年の英米公演では中年の実力派俳優たちが演じ、好評を得ていますが、今回の日本初演にあたり、演出家の宮本亜門さんは敢えて20代の俳優たちを起用しました。これが功を奏し、若者たちが出会うラストシーンはきらきらと輝き、爽やかな感動を与える舞台となっています。

この舞台で、野心や名声、倦怠感にまみれた中年時代から、夢だけを抱いていた純粋な若き日まで、少しずつ余分なものをそぎ落とすように見事な変化を見せているのが、フランク役の柿澤勇人さん。安定感のある演技には定評のある彼ですが、青春時代を振り返る今回の役には、とりわけ思い入れが深く、日々様々な思いと格闘しながら演じているようです。

“人恋しさ”が募る作品『メリリー』

――中年役は今回が初めてなのですね。

「初めてです。年齢でいうと40歳ごろでしょうか。今も悩んでいますが、まずは形から入ろうと、声を低くしたり、かすれさせたりといったことを試みてきました。動きも、反射的にぴぴっと動く癖があるので、40歳なりの落ち着いた動きを研究しています」

――体の重心も傾けていらっしゃいませんか? 色気があって、こういう部分でも中年を表現できるのだなあと思って拝見していました。

『メリリー』中年時代のフランクを演じる柿澤さん。撮影:渡部孝弘

『メリリー』中年時代のフランクを演じる柿澤さん。撮影:渡部孝弘

「それはたぶん、僕の癖です(笑)。重心がいつもどちらかにずれがちで。でも、時間を遡るにつれて、何もしないようにとは心がけています。誰しも癖と言うものはあると思いますが、それをあえて見せないほうが無垢な感じが出るかな、と思うんです」

――内面的には“中年”の表現をどう工夫されていますか?

「僕はまだ26歳なので、イメージするしかないのですが、幸運なことに今回はショービジネスの世界の話で、どのシーンも身近に感じられますし、友情に関しても実人生で、例えば親友と思ってた相手とささいなことで何年も会わなくなったりということは経験していますので、それはリアルに感じて(演技の)助けにしています。この作品では、最終的にフランクがどうなるかは描かれていませんが、僕としてはたぶん、決裂した友人ともう一度会って、いい方向に行くんじゃないか……というほうに、(役を)作っています」

――本作はフランクの「いつ自分は生き方を間違えたんだろう」という悔悟の念が通奏低音になっていますが、そういう思いに共感されますか?

「友情や青春、仕事と、いろいろなことについて、今回はすごく考えさせられます。ふだんはそんなこと思いもせず、普通に生活していますが、今回は、例えば稽古帰りに仲間と作品のことをいろいろ語り合って、別れた後にふと、涙が溢れ出てくるんです。とても人恋しくなるし、人間が好きになる作品なんですね。面白かったのが、一度稽古で、(宮本)亜門さんが“20年前から現代まで、逆にやってみよう”とおっしゃって、作品を年代順に再生したことがあったんです。そうしたら最後のシーンで、フランクとして救いようのないくらいの絶望感を感じてしまい、物語の並べ方で、こうも違うものなのかと思いました。ロンドンやNYでは40代の役者が演じていて、中年時代の描写はものすごくリアルなんですよね。その分、終演後は観客は深刻な感じで帰っていくと聞きましたが、今回の日本版ではポジティブな気持ちで帰られるお客さんが多いようで、嬉しく感じています」

――宮本亜門さんの演出はいかがでしたか?

「『スウィーニー・トッド』でもお世話になりましたが、こんなに楽しい稽古場があるだろうかというくらい楽しかったです。今回が日本初演で、ゼロから作ったこともあったと思いますが、異次元からディレクションしてくれるのではなく、亜門さんは僕らと同じ次元というかサークルに一緒に入って、ああでもないこうでもないと言いながら作ってくれました。みんなで意見も言い合って、僕も“あのシーンはもっとこうしたい”等言わせていただいたんですが、それをあったかく受け入れて“そうだよね、俺もそう思うよ。それならこうしよう”と言いながら台本や曲にも手を入れてくれました。こんな貴重な体験はないなとずっと感じていました」

――ソンドハイム作品も2作目ですね。

『メリリー』終盤のフランク(柿澤勇人)とチャーリー(小池徹平) 撮影:渡部孝弘

『メリリー』終盤のフランク(柿澤勇人)とチャーリー(小池徹平) 撮影:渡部孝弘

「ちゃんとやれたことがないんじゃないかなというくらい、難しいです。昨日も実は音を一個外したことで、ちょっと狂ってしまったし。でも、「これほんとに歌えるの?」というほど第一印象は難しいけれど、気づいてみると歌えてしまう。キャラクターの心情に正直に作られているんです。他の作曲家と比べると、演劇的な作曲家という印象かな。例えばロイド=ウェバーやワイルドホーンは「私は今こんなに愛してる」「こんなにつらい」という感情の高まりを音に語らせる。一方でソンドハイムは会話や心情、心臓の音に至るまでをシンプルに音にしていて、体に入れれば入れるほど歌い易くなるんです。きれいな、通る声で歌わなければいけない曲はなくて、思ったことがそのまま歌になったイメージですね。難しいけど歌えて幸せです」

――千秋楽まで、ご自身の中ではどんな課題を抱いていらっしゃいますか?

「課題だらけです(笑)。出来る役者は例え20歳でも、凄い芝居をやれると思うので、もっともっと深めていきたいなと思います。でも何より、今回はカンパニーも仲がいいし、一回一回の公演が楽しいので、楽しみながら12月の千秋楽まで行けたらと思っています」