ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

昆夏美、好きという原点忘れず【気になる新星vol.29】

実写映画版『美女と野獣』(2017)美女役の吹き替えで、一気に全国的な注目を集めた昆夏美さん。その最新作は“ちっとも怖くないホラー”漫画を原作とする『アダムス・ファミリー』ミュージカル版、待望の再演です。14年の日本初演でも“お化け一家”の娘ウェンズデーをキュートに演じた昆さん、その素顔とは? ミュージカルをこよなく愛する彼女に、たっぷりお話いただきました。*観劇レポートを追記しました*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

昆夏美undefined東京都出身。洗足学園音楽大学在学中に『ロミオ&ジュリエット』オーディションでジュリエット役を射止め、デビュー。以降『ハムレット』『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『ファースト・デート』『グランドホテル』等様々な舞台で活躍。13年にはアニメの主題歌『わたしは想像する』でCDデビュー。17年には『美女と野獣』吹き替え版で美女役を担当。(C)Marino Matsushima

昆夏美 東京都出身。洗足学園音楽大学在学中に『ロミオ&ジュリエット』オーディションでジュリエット役を射止め、デビュー。以降『ハムレット』『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『ファースト・デート』『グランドホテル』等様々な舞台で活躍。13年にはアニメの主題歌『わたしは想像する』でCDデビュー。17年には『美女と野獣』吹き替え版で美女役を担当。(C)Marino Matsushima

最終頁に『アダムス・ファミリー』観劇レポートを掲載しました*

アメリカの人気漫画を舞台化、2010年にブロードウェイで開幕したミュージカル『アダムス・ファミリー』。ラテン系の情熱的なパパをはじめとするお化け一家のキャラクター設定はそのままに、アンドリュー・リッパ(『ビッグフィッシュ』)のキャッチ―な旋律と、娘ウェンズデーの恋人一家の訪問騒動というオリジナル・ストーリーを通して、アニメ版や実写映画版(91年)とは一味違う“普遍的な家族愛”ストーリーに仕上がっています。

そしてこの度、14年に白井晃さん演出によって初演、大きな話題を呼んだ日本版が待望の再登場。初演に引き続いてウェンズデーを演じるのが、今春公開のディズニー映画『美女と野獣』美女役の吹き替えで、全国的な注目を集めた昆夏美さんです。今夏~秋には『レ・ミゼラブル』で、当たり役の一つエポニーヌを演じ、充実の時を迎えている彼女に、本作への意気込み、そして“ミュージカル大好き少女”だった頃からの歩みを、たっぷりとうかがいました。

“お化けの女の子”の風変りな恋を
さらにパワーアップして演じる
『アダムス・ファミリー』

――昆さんは以前から『アダムス・ファミリー』をご存知だったのですか?
『アダムス・ファミリー』

『アダムス・ファミリー』

「(91年の実写)映画版は以前、観たことがあって、日本初演への出演が決まって改めて観なおしました。(サスペンス仕立ての騒動が軸となっている)映画版とは違って、ミュージカル版はウェンズデーが(子供ではなく)青春期で、人間の男の子に恋をしている、そして彼の家族がアダムス家を訪ねてくるところからストーリーが展開します。彼女の成長物語でもあるし、家族の愛や“普通って何だろう?”というメッセージを含んだ作品でもあると思います」

――日本初演にはどんな思い出がありますか?

「すごく楽しかったです。それまで私は笑える作品に出たことが無く、自分が死んでしまう役ばかりでしたので、客席から笑いが起きる芝居がとても新鮮でした。でもいっぽうでは、自分にコメディの引き出しがないので間の取り方一つとっても、どうやっていいかわからず、難しかったですね。白井晃さんの演出はとても丁寧で緻密で、お客様はどかんとした笑いはもちろん、くすっと笑ったり、ほろりとする部分、ほっこりする場面の一つ一つを楽しんでいただけたと思います。初日の幕が開くとだんだん皆さんアドリブが出てきたりしたのも楽しかったですが、私は常に“家族っていいな”という感覚を抱いていました。演じていると、自分の父との思い出も蘇るような温かさがありましたし、一言でいえば家族の話なのだと感じましたね」

――ウェンズデーはどんな女の子なのでしょうか?
『アダムス・ファミリー』2014年公演より。撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』2014年公演より。撮影:引地信彦

「基本的に(お化けなので)人間とは異なる感性、価値観を持っているのですが、人間の男の子、ルーカスに恋をすることで、それまで全く魅力を感じなかった“かわいいもの”“キラキラしたもの”に魅力を感じるようになります。視野が広くなったのかな。「Pulled(引っ張られて)」というナンバーの中に、ウサギがかわいく思えるという歌詞があって、それまでウサギと言えば食べ物としか思っていなかったのが、ルーカスによって“そういう見方もあるんだ”と気づかされ、“ウサギってかわいいかも”と、それまで自分に全く無かった感覚を抱くようになるんです」

――そもそもなぜ、彼と恋に落ちたのでしょう?

「劇中、ルーカスが出会いを語るシーンがあるのですが、それによると彼が道を歩いてたらハトが落ちてきて、ボーガンを持ったウェンズデーが現れた。それが衝撃だったというんですね。ウェンズデーとしては、普通に(食べるための)狩りをしているだけなのに、それを“すごい”という目で見てくれるルーカスに興味を持って、それが好意に変わったのかもしれません。自分のことをすごいね、かっこいいねと言ってくれると、こちらも相手のことが気になるじゃないですか。価値観が違う者同士が交わることで、お互いに好奇心が生まれ、それがピュアな恋に変わっていったのだと思います。

でも、それを演じるにあたっては、白井さんから“普通の女の子が感じるわくわく感ではなく、普通じゃない女の子のウェンズデーとしてどう表現するかが大事です”と言われて迷いました。お客様にきちんと共感していただけるよう意識しつつも、人間じゃないということをどう表現したらいいのか。白井さんといろいろキャッチボールしつつ、これじゃない、あれじゃないと試行錯誤しながら作っていきましたね」

――“濃い”方揃いのキャストの中で、自分を表現するのはいかがでしたか?
『アダムス・ファミリー』2014年公演より。撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』2014年公演より。撮影:引地信彦

「それは本当に難しかったですね。正解が分からなくて……。ウェンズデーのキャラは三つ編みしてメイクをすればビジュアル的にはわかりやすいのですが、稽古場では(扮装をしていないので)何も助けがない中で、ウェンズデーとして成立していないといけない。コスチュームに助けてもらうのは嫌だから、精一杯やるしかなくて。自分の考えと白井さんに出していただいたヒントをもとに、思いっきりやることで異質感が出るのかなと思いながらやっていました。彼女は引きこもり系ではなくて、“じと~”っと居つつも、存在感があるタイプ。そして歌うところではばーっと歌う、という押し引きを意識しました」

――今回の再演では、キャストが少し替わりますね。

「ルーカス役が柳下大さんから村井良大さんに替わるので、彼との関係性をまず一番に作っていきたいですね。もう一つ、今回はお母さんが真琴つばささんと壮一帆さんのwキャストになるので、真琴さんと私、壮さんと私と二つの関係性を別々に作っていけたらと思っています。一から作っていきたいですね」

――本作では、ウェンズデーがルーカスとの婚約を母には伏せたままディナーに招こうとすることから騒動が起きますが、ウェンズデーは「お母さんは厄介な人」、と思っているのでしょうか?

「いえ、お母さんのことも大好きではあるけど、ルーカスとの結婚を成就するにはまだ言わないほうがいい、まずはお父さんを味方につけて……と逆算して考えているんじゃないかな。そういう部分では緻密で、じとっと考えるタイプで、行動派の私とは真逆です」

――“お化け”を演じるにあたって、何か役作りは?
『アダムス・ファミリー』2014年公演より。撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』2014年公演より。撮影:引地信彦

「姿勢を工夫してみました。(弟の)パグズリーやフェスタ―おじさんはぷっくりした体型で見るからに異質なのですが、私は三つ編みと黒服ぐらいでそれほど目立つものがないので、首を前にしてちょっと姿勢を悪くして、すたすたーっと歩いてみたり。それが体にしみこんだのか、公演が終わって1か月経っても、ふと“首が前に出てるよ”と言われて直したことがありましたね」

――アンドリュー・リッパの音楽はいかがですか?

「実はウェンズデーのナンバー「引っ張られて」が、学生の頃から大好きだったんです。先輩が歌うのを聴いて“めっちゃかっこいい!”と思って以来、動画サイトで米国版キャストの歌唱も何度も観ましたし、私もいつか歌いたいと思っていたので、出演が決まるとまず“「引っ張られて」が歌える!”と興奮しました。心がわしづかみにされるメロディなんですよね。実際、歌っていて楽しいし、観てくださってる方にも、私としての楽しさとウェンズデーの好奇心が相まってお伝えできればと思います」

――お客様にどう観ていただきたいですか?

「『アダムス・ファミリー』は全く怖くないブラックコメディというか、大人から子供まで本当に楽しめる作品です。共感ポイントも様々で、家族愛もあれば、20代が観てもきゅんきゅんできる部分のある作品だと思います。私たちもさらにパワーアップしますので、気軽にこのファミリーに会いに来て欲しいです!」

*次頁からは昆さんの“これまで”をうかがいます。歌と踊りが大好きだった少女が“ミュージカル好きのOLさん”ではなく、“ミュージカル界の星”に成長したきっかけとは……?
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