ラテンの歌姫の愛と栄光を描く『オン・ユア・フィート!』

12月8日~30日=シアタークリエ、その後福岡、愛知、大阪で上演

『オン・ユア・フィート!』見どころ
『オン・ユア・フィート!』

『オン・ユア・フィート!』

世界的なラテン系ポップスの歌姫、グロリア・エステファン。彼女の波瀾の人生を描いて2015年に初演、シカゴ・ブロードウェイ・オランダを経て現在全米ツアー中の『オン・ユア・フィート!』が、いよいよ日本に上陸します。

キューバ移民の家に生まれたグロリアは、音楽への情熱を祖母コンスエロに見抜かれ、音楽プロデューサー、エミリオに紹介される。彼女の歌声にほれ込んだエミリオは、自身のグループ「マイアミ・サウンド・マシーン」のボーカリストにグロリアを迎え入れ、グループはそのユニークなサウンドでたちまち頂点まで上り詰めるが……。

「コンガ」「1,2,3」といったラテンのリズムが強烈なヒット曲が次々と飛び出し、ライブ的な楽しさに溢れるいっぽうで、厳しい環境を生き抜いてきた家族の絆もしっかりと描かれ、普遍的な共感も誘うミュージカル。

今回は朝夏まなとさんがグロリア・エステファン、渡辺大輔さんがエミリオを演じるほか、一路真輝さん、栗原英雄さん、久野綾希子さんら実力派キャストがずらり。爽快にして心の琴線に触れる、贅沢なステージとなりそうです。

 

祖母コンスエロ役・久野綾希子さんインタビュー

久野綾希子 大阪生まれ。愛知県立芸術大学音楽科在学中に劇団四季研究所に入所、卒業後入団し劇団四季の主演女優として活躍。『エビータ』ではゴールデンアロー賞演劇賞を受賞、 「キャッツ」初演のグリザベラを演じ、1986年に退団するまで850ステージに出演。退団後は「王様と私」「ボンベイドリームス」等の舞台、映画、ライブなど幅広く活躍している。

久野綾希子 大阪生まれ。愛知県立芸術大学音楽科在学中に劇団四季研究所に入所、卒業後入団し劇団四季の主演女優として活躍。『エビータ』ではゴールデンアロー賞演劇賞を受賞、 『キャッツ』初演のグリザベラを演じ、1986年に退団するまで850ステージに出演。退団後は『王様と私』『ボンベイドリームス』等の舞台、映画、ライブなど幅広く活躍している。

サクセスストーリーであると同時に、家族愛がしっかり描かれた作品です
 
――グロリア・エステファンの存在は以前からご存知でしたか?
 
「今回、この作品に出演が決まって調べていく中で、以前彼女が歌っている映像を観たことがあったのを思い出しました。キャロル・キングのトリビュート・コンサートで歌っていて、とてもかっこいい女性だなぁと思ってみていたのが彼女だったんです」
 
――ラテン系ポップスにはもともと親しんでいらっしゃったのですか?
 
「(以前タイトルロールを演じた)『エビータ』がアルゼンチンのお話なので、ラテン系に慣れているとよく人に言われるのですが、あの作品は(作曲家の)ロイド=ウェバーさんから見たラテンなんですよね。今回は完全なラテンで、自分にとっては新たな世界です。

この難しいリズムはどうするの?みたいな(笑)。自分が歌うのは難しいんですが、聴いていると気持ちいい。そこに近づいていきたいと思っています」
 
――久野さんが演じるのはグロリア・エステファンの祖母コンスエロ。どんな人物でしょうか?
『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

「スペインからキューバに移住した人で、それほど貧しくはなくレストランを開いていた人ですが、時代的に夫には逆らえず、(一路真輝さん演じる)歌の上手な娘にやりたいことをやらせてあげられなかった。それが根っこにあるので、(朝夏まなとさん演じる)孫のグロリアの才能は開かせてあげたいと思っているんですね。

(状況)全体を見守りながら、(いざという時に)押していく。あの時の失敗は二度としたくない、という思いがあるんでしょうね」
 
――業界人に自ら孫をプッシュする行動派ですね。
『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

「そうなんですよね。たぶんおばあちゃんも歌が好きだったと思うんですよ。娘に対しては負い目がある分、孫に対しては好きなことをさせてあげようと。“孫のためならなんでもする”という台詞があるのですが、(実際に)やっちゃうんですね」
 
――後年、成功したグロリアが、ステージにおばあちゃんを引っ張り出すシーンもあって、おばあちゃんとしては嬉しいでしょうね。
『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

「おばあちゃんとしては照れ臭いんですが、グロリアに対しては“こんなことができるまで成長したんだね”という気持ちだと思いますね。その後、おばあちゃんは亡くなるのですが、体はそこにいなくても魂はいつも上から見守っているという描写があるんです。移民で大変な思いをしてきている家族だから、おばあちゃんにしてもお父さん、お母さんにしても愛情はひとしおなんですね。

特に娘と孫は口では喧嘩をしているけど、そこにはものすごい絆の深さがあって、自由でお互い関わらない今どきの家族より、ものすごく濃いものを感じます」
 
――サクセスストーリーであると同時に、家族の物語なのですね。
 
「そう思いますね。グロリアがここまで来れた背景には、半端ない家族愛がある。そして出会う人みんなが彼女に手を貸してくれる。それは彼女が一生懸命生きているからこそだと思います」
 
――稽古終盤のご様子はいかがですか?
 
「今回は(キャストもスタッフも)若い方が多くて、稽古場にはまるでオリジナルミュージカルを作っているような空気が漂っていますね。台本と音楽はあるけれど、それを使ってオリジナルを作っているというか、ピアノを囲んで演出家と音楽監督と歌唱指導の先生が、わきあいあいとアイディアを出し合っているのを見るのが、すごく好きです。クリエイティブな中で、いい舞台が出来上がるような気がしますね」
 
――グロリア・エステファン役の朝夏まなとさんはいかがですか?
『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

「すごいですよ。グロリア役は本当に大変で、曲は多いし、日本語・英語・スペイン語で歌うし、その全てに振りがついているのに、いつも元気だし周りが見えていらっしゃる。エミリオ(渡辺大輔さん)ともいいカップルだし、一路さんという優しいけれど芯のしっかりした母がいて、バランスが絶妙なんです。
 
そんななかで私も、“フィクサー”じゃないけど(笑)、人を動かしていけるおばあちゃんを演じられたら。とにかくいろいろなことがどんどん変わっていく稽古場で、振付もあっさり変わる。それにみんながくらいついていく。勢いのある稽古場で、毎日とても楽しいです」
 
“毎日が受験勉強”のようだった劇団での日々
『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

――久野さんといえば、劇団四季『キャッツ』の初代グリザベラ。“レジェンド”でいらっしゃる久野さんの“これまで”もぜひうかがいたいのですが、もともと音大で学んでいたのがなぜ演劇の道へ進まれたのですか?
 
「私は父が明治の生まれで、女の子は嫁に行った家に従えばいいから余計な知識はいらないということで、音楽以外許してくれなかったんですね。ピアノなら何かあったときに手助けになるということだったので、親元から離れられると思って音大に進みました。愛知県立芸術大学という新しい、きれいな大学だったのですが、みんな個室でおとなしく勉強をしていて。
 
それがひょんなことから劇団四季に興味をもって東京に覗きにいったら、みんなのエネルギーがまるで豆を炒っているようにぱーっとなっていたんです。ここでやってみたいなと思ったけれど、ダンスも台詞も未経験で、何も知らない。ただ歌だけは歌えるということで、がんがん詰め込まれながらたくさんミュージカルに出るようになりました」
 
――15年間在籍され、退団後も『マンマ・ミーア!』『異国の丘』に出演されましたが、在団中はどんな15年間でしたか?
 
「毎日受験勉強みたいな感じでしたね(笑)。『ウェストサイド物語』なんかは音域が高いので、台詞を喋ると歌が歌えなくなるのをどうしたらいいのか。当時はミュージカルの声の出し方を教えてくださる先生もまだいらっしゃらず、音楽監督の先生が“まだいける”とおっしゃるのを“どうやっていくの?”と思いながら聞いていました(笑)。
 
とにかく体だけは元気にしなくちゃと思って、睡眠と食事だけはきちんととっていましたね。当時のマッサージの先生には今もお世話になっていますが、スポーツ選手と同じくらい消耗していました」
 
手探りで身につけた“ミュージカル俳優の習慣”

――喉への負荷も大きいですよね。
 
「そうですね。夏でもハイネックを着て、風邪がはやる時期にはマスクをするのは、20代から変わらずですね。飲んだらしゃべるな、しゃべるなら飲むなというのと、睡眠が基本。それと誰に教わったわけでもないけど、舞台稽古の前は血の滴るようなステーキを食べていたら、みんなそうしているんだなというのがわかってきました」
 
――ストイックな生活をされているとお友達と会う時間がない、という話を聞いたこともあります。
 
「学校時代の友達はチケットばかり売るので離れていきましたが(笑)、当時の劇団はまだ小さく、どの作品をやってもだいたい同じようなメンバーで動いていて、一心同体で動いているようなところがありました。

この前、この稽古場の上の階で稽古をされている山口祐一郎さんとばったり会ったのですが、すごく久しぶりだったんですね。無言で3回、ハグしてくれました。何も言わずとも、お互い“まだやってるね”という気持ちで(笑)。私は戦友だと思っていますね」
 
――劇団を卒業されたのは、レパートリーを広げるということで?
 
「そのころ、自分の声がわからなくなって、1年くらい悩んだ末に、ボイストレーナーの先生の師匠にあたる方のレッスンを受けたくて、マリブとニューヨークに行くため(劇団を)辞めました。一から自分の声を見つめなおして、やっぱり自分は歌を歌っていきたいと思えましたね」

“おばあちゃん役”の極意

――最近は今回のように、おばあちゃんを演じられることの多い久野さん。『ビリー・エリオット』では庶民ではあるけれどどこかに品のある、かわいいおばあちゃんでした。
 
「『ビリー・エリオット』はロンドン版のおばあちゃん役の方が貫禄があって、私にはなかなかそれが出せなかったのですが、彼女は10年以上出演していたそうなんです。私もそんな(安定感ある)おばあちゃんが出来たらなと思ってやっていました」
 
――おばあちゃんを演じる際に大切にされていることはありますか?
 
「(世の中の)おばあちゃんに共通していることに、余計なことは言わないけど、ぼそっと言った一言に人生が凝縮しているということがあると思います。私のおばあちゃんはいつも仏壇の前に座っているおばあちゃんだったんですが、“一番怖いものはなに?”と聞くと、ぼそっと“舌”、言葉が一番こわいと言ったんですね」
 
――“口は災いのもと”だと?
 
「そうですね。おそらく年月を経るなかで、いろんなものがそぎ落とされてその人の生きてきたものが出てくるんだろうなと。そういう存在として演じていけるといいなと思います」
 
――今後について、心に抱いていらっしゃることはありますか?
 
「悲劇と喜劇が混在しているような役をやっていきたいですね。そして歌は、歌い続けたいです」
 

演出・上田一豪さん、音楽監督・小澤時史さんインタビュー

(右)上田一豪・84年熊本県生まれ。劇団TipTapを旗揚げ、オリジナル作品を作・演出。東宝演劇部契約社員として様々な大作にも携わる。(左)小澤時史 89年生まれ。東京音楽大学作曲家在学中から多方面に楽曲を提供。『キューティー・ブロンド』等の音楽監督も勤める。(C)Marino Matsushima

(右)上田一豪・84年熊本県生まれ。劇団TipTapを旗揚げ、オリジナル作品を作・演出。東宝演劇部契約社員として様々な大作にも携わる。(左)小澤時史 89年生まれ。東京音楽大学作曲家在学中から多方面に楽曲を提供。『キューティー・ブロンド』等の音楽監督も勤める。(C)Marino Matsushima

音楽だけでなく台詞からも“ラテン”が感じられるように

――グロリア・エステファンやマイアミ・サウンド・マシーンの音楽には、以前から親しんでいらっしゃいましたか?
  上田一豪さん(以下・上田)「彼女が一世を風靡した有名な歌手であったことや、マイアミ・サウンド・マシーンの“コンガ”を聴いたことはあったけど、こういう(波乱万丈の)人生を送ってきた人とは知らなかったです」

小澤時史さん(以下・小澤)「僕もです。彼らは80年代にブレイクしたけれど、僕は89年生まれで、リアルタイムで聴いていないんですよね」
 
上田「改めて聴いてみると、面白い曲がいっぱいあるんですよね。僕らの小さいころは“マカレナ”とかリッキー・マーティンが流行っていてそういうのがラテンだと思っていたけど、それより一つ前の世代で、ラテンのポップスってこういうのなんだ、と。かっこいいし、楽しいですね」
 
小澤「(聴き手だけでなく)演奏者も楽しい音楽だなと感じました」
『オン・ユア・フィート!』稽古場での上田さん 写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古場での上田さん 写真提供:東宝演劇部

――80年代のころの、ゆったり感というか、行間がある音楽ですよね。
 
上田「バラードに80年代らしさを感じますね」
 
小澤「シンセサイザーとかにね」
 
上田「哀愁を感じるというか。歌詞の面でも、(キューバ移民で)もともと英語圏ではない人が書いているからこその、ストレートな歌詞が多いです。ふつう、英語の歌って韻律を踏んだりして、こねくりまわした言葉が多いんですが、彼らの音楽は想いがまっすぐ書かれている歌詞が多くて、潔いんです。へんに抽象的でなくてわかりやすいし、悩まなくていい。何を言いたい曲なのか分からない、というのがあまりありません」
 
――翻訳もしやすい?
 
上田「いや、困りましたね(笑)。英語が第一言語でない人たちの話なので、ラテンなまりの英語でアメリカでは上演されているけど、それを日本でどう表現するか。ラテンのリズムは聴いている分には気持ちいいけど、そこにどう日本語を乗せるのか。8ビートのように“かっかっかっか”と刻まれるのではなく、“うかっか、うかっか”という、本来日本人になじみのないビートだから。本来はそこに日本語をのせるのは無理なのですが、みんなにすごく頑張っていただいています」
『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部


――小澤さんからみてラテンのビートはいかがですか?
 
小澤「(いつも演奏するミュージカル曲とは)違いますね。バンドのメンバーも、“1-2-3”のようなポップス寄りの曲は普通にできるけど、“コンガ”のようなラテン色が強い曲はかなり練習が必要だね、と言っています。

というのも、日本人は農耕民族だから“よっこいしょ”みたいな感じだけど、ラテンの人たちはオフビート。文化が全然違うんですよね。ミュージシャンもそれを超えて、きちんとラテンの世界観をお客様にお見せしなければいけない。苦労はもちろんあるけれど、やっていけば必ずできると思っています」
 
――さきほど久野さんが、ラテンのビートは“ずれる”という感覚とおっしゃっていました。
 
上田「バックビートが気持ちよくはまっていかないといけないんですよね。それは言葉にも通じることで、向こうの人は喋っててもバックビートを感じている。対して僕ら日本人は平たんだから、バックビートを感じながら(台詞に)自然に出していく作業が普通の作品とは違いますね。台詞においてもラテン感が出るようにしたいというのが本作にはあります。生きているうえでの感覚、物事を判断するタイミング、リズム感、タイムサイクルがおそらく違うと思うので、日本人が日本のお客様のために演じていても、感覚はなるべくラテンでと思っていますね」
 
グロリアの等身大の姿、大スターとなるまでの家族のドラマをしっかりと描く
『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

――オリジナル・ミュージカルみたいな稽古場、と久野さんがおっしゃっていました。
 
上田「それは我々だからね(笑)」
 
小澤「そうですね(笑)」
 
――ラテンの感覚以外に今回、工夫されている点はありますか?
 
上田「アメリカで上演されたときは、観客がみんなグロリア・エステファンを知っていて、ライブとライフストーリー半々のものすごく楽しい舞台で時間があっという間に過ぎていきました。

でも僕らの場合は必ずしもそうではなく、もちろん音楽の勢いはものすごく大事だけど、作品を通して何を描いているか、グロリアの少女時代、娘時代、大人になって交通事故で大けがを負って、(壮絶なリハビリを経て)復活して……と、どんなドラマがあって今の大スターになっていったかを、お客様と一緒に味わっていく時間にしたいですね。

楽しい時間ではあるけれど、(有名人である)彼らの心情がどれだけ大スターであっても自分と同じか。恋に落ちたり、些細なことで喧嘩もすれば意地も張り合ったりと、等身大の人間として共感できるように、と思いながら台本を手直ししていきました。日本のお客様にも受け入れられるよう、ドラマとして仕上げていきたいですね」
 
――音楽面の工夫はいかがでしょうか?
 
小澤「基本的に譜面は(決まったものが)届くものなので、それほど手を入れたりはできないのですが、演奏者はみな僕の知っている方々で、それぞれがキャストの演技に触れながら、この人の歌いいな、この演技があるからこの曲が次に来るんだなというように、その時感じたことを演奏に反映してくれると思います。ある程度の音楽的なリクエストはするけれど、あまりこうじゃなきゃいけないですと決めつけるつもりはないですね。

ある程度の材料を演奏者に渡して、それぞれが感じたことを膨らませていってくれれば、僕が感じている以上になるし、新鮮というか、その公演でしかできないものになると思います」
 
――ポップスのアーティストのナンバーを使ったミュージカルですが、オリジナルの歌手の歌唱や声色はどの程度意識されていますか?
『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

上田「グロリア・エステファン役の朝夏まなとさんは、声を作り込んで歌う方ではなく、自然体で歌ってくださるので、その時々の感情によって自然と声色も変わってくるんです。だからまったく心配してないし、僕自身、基本的に声を作る歌唱というのはあまり好きじゃないんですよ。グロリアだからこうしてほしいというようなことは言っていません」
 
小澤「朝夏さんがグロリアでいてくださればいいんですよ」
 
上田「僕自身がそこまでグロリアに思い入れがあるわけではない、というのもあるかもしれないですね。僕はクイーンがすごく好きなので、これがもしフレディ・マーキュリーのミュージカルだったら“ここはこういうふうに歌ってほしい!”というのがあるかもしれないけど」
 
”空耳アワー”ばりに⁈語感が似た訳詞にも注目

小澤「僕も小学生の時にアバが好きで、お小遣いでCDをいっぱい買ってましたね。歌詞カードを持っていなかったけど、一緒に歌いたくて聞こえたままに自由帳にカタカナで歌詞を書いたりしてました」
 
上田「わかるわかる!(笑)」
 
小澤「今回、上田さんの訳詞を聴いていると、意外と英語の歌詞と近いんですよ」
 
上田「けっこう頑張ってるんですよ(笑)。ポップスだから、なるべく語感を似せようと思って」
 
小澤「ちょっと“空耳アワー”みたいな感じの部分もあったりして(笑)」
 
上田「『キューティ・ブロンド』の時には意味重視だったけど、今回はポップスなので語感重視で」
 
小澤「それいいですよ、ずっとそれで行ってほしい(笑)」
 
上田「演目によるんです!(笑)」
 
――ちなみに、“コンガ”の早口のサビの部分は英語のままで歌う感じですか?
 
上田「そこは悩んでいるところで、日本語の訳詞も作ったんですけど、昨日の稽古で英語でいけるかなと思っています」
 
小澤「稽古すればするほど、逆に原語のほうが歌いやすいということが分かったんですね」
 
上田「あと、日本語はどうしても母音を響かせるので息がきれがちだけど、(英語で)子音で喋るとリズムで力を使わず喋れる、というのもあるんですよね」
 
――どんな舞台になりそうでしょうか?
 
上田「楽しい時間を共有できるものになっていると思います。僕らの願いとしては楽しさの中に、心に届くものにしたいですね。あそこの気持ちに共感できたよねという、ひっぱるものがあるから余計楽しくなる、という作品に向かっていると思います」
 
――ご自身が共感する場面は?
『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『オン・ユア・フィート!』稽古より。写真提供:東宝演劇部

上田「自分に娘が生まれてから父親としていろんなもの感じるようになったので、親子を描くシーンには感じ入るものがありますね。自分と娘との間にこんなことがあったらどうなるんだろうとか。誰にでも起きうることなのかなとお客様が感じられるようにしたいなと思います。親子の場面は特に丁寧に作っています」
 
小澤「ラテンとはなんぞやというのを僕らの音楽面がかなり担っていると思うので、ダンスナンバーを盛り上げるというのが第一のミッションかと思っていますが、ずっと上田さんと一緒に仕事をしてきて、彼がどういうのが好きか分かってるつもりです。
 
本作ではバラードでパーカッションとかブラスが意外に入ってくるんですよね。元気よく、ではなく優しく入ってくるんですが、うまくいかないと邪魔しちゃうときがあったりするのでけっこう細かく、ここで切るとか、どういうニュアンスで吹いてほしいかお伝えしています。日本人って繊細なところを丁寧に作れる民族なので、派手な部分もありつつ、今回の日本版は繊細さもある演奏になると思います」
 
――小澤さんは今回、ピアノは弾かないのですか?
 
「今回、すごく久しぶりに演奏は兼ねず、音楽監督に専念しています。8年ぶりに自分が音楽監督をした上田さん作品を客席で観ることが出来るので、それも楽しみな部分です」

公式HP

*次頁に『オン・ユア・フィート!』観劇レポートを掲載します!