モデルルームと実生活の違い
「モデルルームとまったく同じインテリアにしたい」。そんな要望が稀にあるという。たしかに分譲マンションのモデルルームは憧れを誘うようにできている。しかし、実生活となると話は別。取り入れられるものとそうでないものを冷静に整理すべきだ。高級感のある分譲マンションの仮設モデルルームは、どれも似通った条件を持つ。まず、対象住戸が最上階・最高面積など最も金額の高い空間を再現するケースが多いこと。次に、床壁天井にオプション仕様を多用していること。見学者の印象に残るインパクトのある内装を求めるから。さらに、広さを体感できるよう家具・家電などのサイズや点数を抑制することも。プロのセンスを学ぶには最適かもしれないが、あくまで「参考にしたいサンプル空間」であると認識しよう。
そのように考えると、インテリアコーディネートのヒントは実際の住空間(つまり「実物」)で得られるノウハウのほうが実用的で即時性が高いといえそうだ。最近見た竣工済物件では「六本木ヒルズレジデンス」メゾネット住戸の希少価値」で取材した棟内モデルルームが印象的だった。上下2点画像参照
例えばリビングダイニングの必需品、ソファと食卓。欧州ブランドの大きなものがことさら主張するのではなく、住む人の数と使いやすさを考えてそのサイズを選ぶ。「ここに何を置けばいいの?」と思われがちなニッチ(すき間)には照明や置物を。イメージしにくいスペースほど「住む人らしさ(=個性)」が出やすい。住み替えの楽しみが膨らむ空間提案だった。
「間取り図を見て、空間内部を立体視する」
当該住戸を手掛けたメイズ社は、以前は外資系企業の日本駐在社員をメイン顧客とするアートや小物類を含めた家具家電一式をリース等で提供するインテリアコーディネート専門企業。現在では外国人に限らず、個人邸やモデルルーム等幅広く取り扱う。実績は年間700件以上。都内の倉庫に保管する家具類の数は2000点以上にもなるという。下の画像は、前述の大空間メゾネットとは異なり、夫婦二人暮らしを想定した中央区にある2LDKのマンション。一般的な都市型マンションは利便性を享受する代償に建物が密集しやすい(=建ぺい/容積率の高い)立地環境を受け入れさるをえない場面が珍しくない。専有面積60m2未満の住空間、都心ならでは隣接状況。しかしながら、その室内はホテルライクな洗練されたイメージで快適に過ごせそうなインテリアが完成していた。
外観デザインに優れた縦長の連続した窓には、夫婦互いの趣味を投影した小物やオブジェを並べる。サッシュを額縁に見立てたのだろう。計算されたと思われるそれらの高さは、ダイニングテーブルのフラワーベースやチェストに置いたスタンドとさりげなく揃っている。家具に小物、点数は多いが統一感があるため、落ち着いた雰囲気だ。手がけたコーディネーターに手順を聞いてみた。
「まず、間取り図面を見て、立地特性からここで暮らす世帯像をイメージします」(インテリアコーディネーターIさん)そこから必要不可欠な家具を漠然とイメージする。「次にライフスタイルや各空間の大きさから椅子の数やテーブル、ソファのサイズを絞り込んでいきます」(同)驚いたのはそのあと。
同時並行に複数の要素を盛り込みながら具体的なインテリアが頭のなかで一気に広がっていくのだという。「コンセプトを明確にします。例えば、わかりやすくいえばモダンなのかクラシックなのか。テイストを固めつつ、家具のフォルムやカラー、そして物件の個性・特徴から<ここに小物を置きたい>といった隅々に至るインテリアコーディネートが自ずと見えてくるのです」。いますぐにでも住めそうな実用的なインテリアに仕上げるヒントは?「図面を目の前にすると、頭の中では部屋の中を歩いているように見えます」(前出)。平面の間取りを立体視できるようになれば、プロの域に少しは近づけるかもしれない。
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