考えすぎて「強迫観念」にとらわれていませんか?
どうしてそこまで「清潔」にこだわるのだろう―分かっているのにやめられないのはなぜ?
たとえば、手肌の汚れや鍵のかけ忘れ、放射能汚染などが気になり、1日に何度もそのことを考えてしまったり、その不安から逃れるための行動を繰り返してしまうことを指します。
本人は、その考えや行動にとらわれてしまうことの無意味さに気づいています。それでもやめられずにとても苦しんでいるのです。こうした症状が高じると、「強迫性障害」(強迫神経症)という心の病になる可能性もあります。「強迫性障害」については、「強迫観念がエスカレートしてしまう時」で詳しく解説されていますので、ご参考になさってください。
「強迫性障害」の状態になると、服薬や心理療法等の専門的な治療が必要になります。そうならないためには、強迫観念がエスカレートしないように、自分の考え方の傾向をよく把握していく必要があります。
不潔への恐怖が強迫観念化していった主婦のケース
専業主婦のF子(28歳)さんは、専業主婦生活を始めてからというもの、すっかり神経質になってしまいました。以前はプールや温泉にも平気で出かけていたのに、最近はなんとなく“他の人と同じ水の中”に入るのが、気持ち悪く感じられてしまうのだそう。それどころか、自宅の浴槽ですら、給湯口から菌に汚染されたお湯が出てくるような不安を感じ、入浴しても落ち着かないそうです。そのせいで、なんとなくシャワーで済ますことが多くなっているというF子さん。
彼女がこのような状態になったのは、「不潔」への恐怖と「清潔」への意識を煽る情報を見すぎていることが関係していたようです。
テレビをつければ、菌にまみれた体をイメージされる広告が流れ、雑誌をめくれば部屋のすみまで完璧に清潔にすることを奨励する記事が並んでいます。そしてネットを開けば、細菌汚染の恐怖を伝える記事や書き込みばかりが目について、次第に不安を煽る情報ばかり検索し続けてしまったようです。
情報化社会の現代では、不安を煽るような情報が巷にあふれています。特定の不安な情報を検索することで、次から次へと不安の深みにはまってしまうことは誰にでもあることです。特定の情報にとらわれてしまうことで、強迫観念はエスカレートしていきます。
密室の中、一定の情報にさらされるのは危険!
家の中で誰ともふれあわず、一人過ごしている…そうしたなか一定の情報ばかり見続けていませんか?
同じ情報でも誰かと一緒に聞けば、「この情報は極端だよね」などと笑い飛ばすことができます。しかし、密室の中で一人で一定の情報にさらされていると、“洗脳”のような状況が生まれ、一つの情報を過剰に信じてしまう可能性が高くなってしまうのです。
強迫観念の予防法…外に出て何かをする、そして人とふれあうこと
こうした事態を避けるためには、まずその密室空間から脱出することです。とはいえ、ショッピングや映画のように発信者の情報に受動的に触れるだけでは、あまり効果はありません。外に出て自分から何かを働きかけ、色々な人とのふれあいを持つことです。たとえば、仕事やボランティアに打ち込めば、自然にたくさんの人とふれあい、さまざまなものに触れることができます。「バイ菌が…」「汚れが…」などと心配する時間もなく、目の前の作業を次々こなしていかなければならないのです。こうした状況に身を置くと、それまで嫌と言うほど悩まされてきた清潔への強迫観念に、とらわれなくなっていきます。
このように、不安な状況にあえて身をさらすことで不安に慣れていく方法は、治療でも実際に使われており、「エクスポージャー」や「曝露療法」と呼ばれます。強迫性障害にこの療法を用いる場合、不安の種類と強度に応じて、段階的に不安を引き起こすものに身をさらしていきます。しかし、F子さんのように「病気」と呼ぶほどの状態ではないなら、生活習慣を変えるだけでも強迫観念は消えていくでしょう。
情報が溢れかえっている今の時代、「最近、思考が偏りすぎかも」「この考え方、少し強迫的になっているのかも?」と感じる方は、ぜひ生活習慣を見直してみてください。