ボウモアの名を、アイラ島の名を高めた女性
クリスティーヌ・ローガンさん
クリスティーヌさんはモルト蒸溜所巡りでアイラ島を訪れた人ならば誰でも知っている、そして誰もが彼女のことを好きになる、世界中のウイスキー・ファンに愛されているといっても過言ではない素敵な女性である。わたしも何度かお世話になっている。
アイラ島生まれで、ポート・アスケイグの実家近くにあるカリラ蒸溜所に10年ほど勤めた後、妊娠、出産の時を経て、ボウモア蒸溜所で25年間(1981~2006年)ビジターセンターのマネージャーを務めた。現在のボウモアのビジターセンターは彼女がプロデュースし、充実させていったものである。
わたしの思い出のひとつに、取材や撮影ロケで訪ねた際の彼女の見事な対応とともに、毎日午後3時になるとピートが燃える暖炉のあったかつてのゲストルームに必ず紅茶、コーヒー、焼きたてのスコーンやクッキー、サンドイッチを用意してもてなしてくれた姿がある。とにかく笑顔が印象的だった。よく笑い、よく話をし、よく耳を傾ける。素晴らしいホスピタリティに感服した。
彼女は現在、ガイド会社を運営しながら、アイラ島の魅力を伝えつづけている。今回のセミナーでは島の歴史・風土・文化とモルトウイスキーとの深いつながりを語りながら「ボウモア スモールバッチ」と「ラフロイグ セレクト」の香味特長についても、初恋のときめき、はじめてのキス、といった彼女独特の表現で解説してくれた。
「日本人とスコットランド人、とくにアイラの人々とは共通点がある。一度こころを開けば、ずっと長い絆を結びつづけることができる」
アイラ島でもそんなことを彼女は言ったような記憶があるが、今回の来日ではその思いをより強くしたようだ。
人と人のつながりが生んだアイラ親善大使
大阪でのセミナー
エスクァイア誌日本版(すでに廃刊)2000年4月号において、『アイラ親善大使、島へ還る』と題して、ヴァイス・クランチーフ岸久氏(東京「スタア・バー・ギンザ」)とともに島や蒸溜所を巡りながら、岸氏と島民との触れ合いや親善大使結成の経緯を語った記事を書いた。
アイラ親善大使結成は、1997年に早川氏や岸氏ら10名のバーテンダーがスコットランドを旅し、アイラ島を訪ねたことがきっかけだった。その10名とは当時皆30代で、数々のカクテル・コンペティションでライバルとして戦いながらも意気投合した仲間である。
ボウモア蒸溜所を訪ねたとき、岸氏が当時ボウモアのブランドマネージャーだったジェームズ・A・マッキュアン氏に「1990年に訪れた際にデビッド・ベル爺さんに温かい言葉をかけられた」と話したことで、10人のその後、現在に至る道筋が生まれた。
会場で挨拶するアイラ親善大使
最後には「君たちで、アイラの親善大使をやってくれないか。特別なことはしなくていい。アイラのウイスキーはこんな土地で、こんな人たちによってつくられていると伝えてくれるだけでいい。そうすればスコッチウイスキー全体への興味へと広がっていくはずだから」とマッキュアン氏に提案されたのだった。
そして10人の活動を見守り、様々なフォローをしてくれるようになったのがクリスティーヌさんである。
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