公衆トイレをイメージしたセットを設けるなど、舞台上にはハッテン場の様子がリアルに再現されています。
川口>何が面白いかというと、やはりその空間がどうなっているかということですよね。ひとが入ってきて、どう交わって、どう出ていくか。内と外がどう違うのか。公衆トイレというのは公共空間であり、街中にトイレがあって、みんなが普通に利用している。ただ公共空間ではあるけれど、個室に入ったら公共のなかの私的な空間になり、ちょっとプライベート感は高まる。自分がゲイであることを隠しているひとのことを“クローゼット”と言いますが、家のなかで親にも言えずクローゼットに閉じこもっているひとたちが、どうやって他のひとたちと接触するか、その唯一の手段が公衆トイレに行くことだったりした。パブリックな空間とプライベートな空間がオーバーラップするということ。もしくは両者が反転する、なかにいるひと=当事者と、周りのひとたち=一般社会がひっくり返ったとき、周辺にいる立場だったらどうだろうということをふっと想像させうる場としてのパフォーマンス空間を創造できたらと。プライベートとパブリックが逆転する瞬間、そこでは視線が大きな役割を担っていて、舞台上の演者を観客がじっと観ている。視線が反転したり、プライベートな壁すら通過して見られてしまう。そんな立場をぐっと反転させられるような舞台空間をつくっていきたいと考えています。
これまでプロジェクト『TOUCH OF THE OTHER』を行ってきて、反響や手応えはいかがですか?
飯名>2014年10月に彩の国さいたま芸術劇場で開催された「DMJ国際ダンス映画祭」でプレゼンテーション・パフォーマンスを行いました。この作品のコンセプトを紹介するプレゼンテー ションを兼ねたパフォーマンスとして、作品のワンシーンを上演した形です。そのシーンは「公開セクハラ」のような感じで(笑)、お客さんにハッテン場へ参加してもらうという演出でした。それがなかなか評判が良く、“衝撃を受けた”という声を多くもらいました。ほとんどのひとが、ハッテン場のことをあまり知らないということがわかったんです。衝撃的なシーンだったと思うけど、みなさん意外と引かなかった。どちらかというと興味を持ってくれて、やってみて良かったな、という手応えがありました。ジョナサン>このプロジェクトの話をすると、必ずといっていいほど個人的な反応が返ってきます。今の社会ではなかなか語り合う場がないからか、例えば自分は17歳のときにこんなことがあったとか、作品の話をする内に何故か個人の経験談になる。自分が取る行動ではないとは思っても、興味は持ってくれている。似たような欲望はどこかにあって、自分自身とこの作品をつなげてくれているような気がします。
川口>公演としては2015年の4月にONE Archivesでワークインプログレスを行い、続いて8月にロスのREDCAT Theatreで開催されていたフェスティバルに参加しました。実はREDCAT Theatreはダムタイプがこけら落としを行っていて、そのとき僕も出ています。オープニングは2003年だったので、12年ぶりですね。ロスの公演では非常に迷ったことがあって……。ロスでは一般的にもゲイの話は馴染みが深く、知識として知られてる。作品のテーマとして前提となる知識が一般に共有されている場所で、自分がどう語るかというのが難しい部分でした。逆に、日本ではその前提となる知識があまり共有されてない。共有してくれるひとが少ないなかで、それをどう説明しながら言いたいことを伝えるか、という部分がロスとは全く違う。土俵が違う感覚があって、すごく大変だなというのは感じました。