1960年代のアメリカで、公衆トイレにおける男性間性行為の研究を行った社会学者ロード・ハンフリース。彼の調査資料をもとに国際共同プロジェクト『TOUCH OF THE OTHER』が発足、この年明け新作を発表します。

ジョナサン>ロスにある世界最大のゲイ/レズビアン関連アーカイブ『ONE National Gay & Lesbian Archives at the USC Libraries』で、ロード・ハンフリースの研究論文を目にしたのがそもそものはじまりでした。とはいえゲイの人々、特に我々の世代にとって、ハンフリースは初めて聞く名前ではありません。彼は初めてゲイの性行為を学術的に研究した人物であり、そのリサーチをしようとすれば自ずと彼の書物に行きあたるでしょう。現在アーカイブは南カリフォルニア大学に吸収され大学図書館の一部になっています。そこで彼の書いた資料を見たとき、私にはまるで舞踊譜に見えて。それですぐ川口さんに企画を伝えました。

川口>南カリフォルニア大学が行っている芸術支援プログラムの助成を得て、計3カ月ほど現地へリサーチに行きました。アーカイブで資料を閲覧したり、アーティストなどいろいろなひとの話を聞いたり。実際にハンフリースが研究を行った場所はロスではなかったけれど、そういういわゆるハッテン場と言われる公衆トイレにも何度か視察に行きました。

ph

ONE National Gay & Lesbian Archives at the USC Libraries


出会いの場になっている公衆トイレとは、日本でいう新宿二丁目のような地域にあるのでしょうか?

川口>必ずしも新宿二丁目でもなければ、ゲイバーやゲイの飲み屋街でもない、公共の公衆トイレです。今は少なくなっていますが、日本にも出会いの場になっている公衆トイレは何カ所もあります。

ジョナサン>隠れゲイである場合、かえって新宿二丁目のようなゲイが集まる場所には行きたくないと思うんです。もしそこに行ったことが周囲に知れたら問題ですからね。なのでそうしたゲイを代表する場所ではなく、公衆トイレにこっそり行くことが多いのが実情です。仮に何も知らずにハッテン場となっているトイレに行ったとしても、誰かウロウロしているひとがいればヘンだなと思うでしょう。もしそういう嗜好のあるひとだったら、そこでまず気づきますよね。あとアメリカには『Spartacus』というゲイのイエローページがあって、この州のこの街ならここがそうだというように、各地のハッテン場がリストアップされています。『Spartacus』は60年代のアメリカ映画のタイトルから取っていて、奴隷が解放されていくストーリー。ゲイの弱い立場という隠喩も込められていると思います。

ph

 

飯名>僕は川口さんの作品には何度かドラマトゥルクとして参加していますが、今回はヘテロとしてどう関わっていくか、ということを意識しています。僕自身ゲイのイメージというと新宿二丁目だったり、テレビに登場する女装したオネエタレントの印象が強かった。ほとんどテレビの影響ではないかと思います。夏にクリエイションのためにロサンゼルスに連れて行かれ、ハッテン場のある公園やトイレなどいろいろな現場を見ることで、新宿二丁目がディズニーランドのようなキャラクター化された場所になってきていることを知った。ゲイは新宿二丁目に行けばいるよ、というイメージです。しかしLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)はもっと身近な存在であって、新宿二丁目に行かないひとももちろんいるし、カミングアウトしてないひと、 出来ないひとも沢山いる訳です。大半のひとが未だにゲイという存在に対して、以前の僕のようなイメージしか持っていないかもしれません。今回は公演を観に来るマジョリティ、異性愛者の視線で、かつ自分の感覚も大切にしながら作品に向き合っていけたらと思います。LGBTについて知識として知らないひとたちにどう観てもらうのが良いか、ということを提示するようにしています。

ph