ご自身の振付作『LUNA』も注目です。記念すべき初の振付作であり、今回の公演で日本初演を迎えます。
モロー>実はこのソロ作品に関しては、偶然が重なった結果自分がつくらざるを得なくなったという経緯がありました。ニューヨーク公演のプレビューがスイスであり、当初の予定ではふたつのバレエ作品とふたつのピアノ作品でプログラムを構成しようと考えていました。そのうちソロのひとつをバンジャマン・ミルピエに振付けしてもらう約束でしたが、彼が非常に忙しくなってしまい、時間的にスイス公演用に振付けてもらうのが難しくなってしまった。結局、ミルピエに振付けしてもらうはずだったソロを自分で振付けしなければならなくなりました。創作期間も10日間しかなく大変でしたが、非常に興味深い経験になりました。自分で自分を振付けるというのは難しい面があって、自分のダンスと向き合うために少し距離を置く必要がある。今はビデオというものがありますので、ずいぶん助けてはもらいましたけど……。結果的に非常に良い経験になり、私としてもこの機会を持てたことをうれしく思っています。
また初めての経験の発表の場となったニューヨークの公演に、ヴィラドムスという素晴らしいピアニストが共演してくれたのはとても心強いものがありました。スタイルとしてはクラシックではありませんが、今回の作品の中では一番コンテンポラリー色が弱い作品かもしれません。私の公式な最初の振付作となるこの作品を、日本のみなさんに観ていただく瞬間を今から楽しみにしています。
(C)Luis Enrique Rivera Cuyar
振付に対する意欲は? 今後振付家として活動していこうという考えはありますか?
モロー>現在のところ、振付家という道はそれほど頭にありません。振付というのはある日突然やってみようと思ってはじめるものでもないでしょうし、もしその気持ちが私の中にあるとしたら、もっと前から取り組んでいたと思います。今後“この作品を振付けしたら面白いだろうな”というテーマと出会えば、やってみようと思うことはあるかもしれません。けれど、現段階ではさほど振付けをしようとは考えていません。ただ演出にはかなり興味を持っていて、自分のなかで準備しているプロジェクトもすでにあります。『ラスト・ヘブン』リハーサル(C)Kotoko Hamada
新たな展開ですね。プロジェクトの一端をご紹介ください。
モロー>演出といっても、バレエではなくオペラです。私が演出するとしたら、やはり音楽が必要になる。音楽なしの演出というのは、ちょっと自分にはできないですね。演劇や役者の演出といったものはまた別の仕事だと思っていて、歌手の方を演出する方が自分のなかでイメージしやすいんです。私の頭のなかでは具体的にはなっていますが、実際はこれから準備していく感じです。私にとって、演出する際に最優先すべきは作品に対するリスペクト。もしくは作曲家なりつくったひとの気持ちを大切にするということです。演出というのは例えばキャスティングだけすればいい訳ではなく、舞台のセットもそうですし、いろいろな要素が調和され美しい状態になっていることが重要だと思います。美学がとても大事になると考えています。
演出に興味を持つようになってからオペラを観る機会が増えましたが、ときには観ていてびっくりしてしまうこともあります(笑)。演出家の方が自由にやりすぎてしまっているような作品や、どうしてこうなるんだろうと疑問に思うことも多々あって。ある部分を現代的にアレンジするようなことはあってもいいと思いますが、作品の性質そのものを変えてしまうような演出はちょっと行き過ぎではないかと思います。