早大時代から変わらぬ五郎丸の流儀

学生時代のエピソードを少し紹介しましょう。私は彼が3年生のときに初めて会いました。3年生のときから一応リーダーグループに属していましたが、彼の1つ上の代にはスター選手がたくさんいて、委員会と呼ばれる選手だけの会議ではほとんど発言しなかったようです。そして、1、2年生のときは清宮前監督の元で優勝していたのですが、3年生のときに初めて負けるということを経験しました。

彼自身燃えるものがあったと思いますし、副キャプテンにもなったことで、これまで以上に存在感を発揮するようになりました。あるとき、私はディフェンス(守備)のシステムを変えたのですが、最初は彼を含めて誰もが否定的でした。これまでやっていたディフェンス(守備)の成功体験があったからです。

しかし、一度練習で五郎丸選手が新しいシステムを試してくれ、それがうまくハマったのです。すると彼はチームの全員に新しいシステムの良さを伝えてくれたのです。そうするとチームのメンバーも、「五郎丸が言うなら」ということで前向きになってくれました。恐らく私がいくら言ってもメンバーは従わなかったと思います。120人のメンバー全員を変えるより、彼1人を変えるほうが効果的だったのです。

そのときに私は、彼には変なバイアスはかからず、良いものは良いと捉え、それを実行する力を持っていると感じました。先頭に立って周りに話をするのではなく、突っ走っているリーダーを、いかに自分の立場でほかを巻き込むかという点には自信があると、本人も語っています。つまり組織全体としてはリーダーグループの一員ですが、リーダーに対するフォロワーシップを発揮することに長けているということが言えます。


エディ監督が選手に課した“カオス”

こうしたリーダーシップとフォロワーシップを絶妙なバランスで持つには、前述した「自身のスタイル」を確立することが不可欠になります。最後に、この重要さを示す、エディジャパンのエピソードを紹介しましょう。

エディ監督は、練習中に度々「混乱(カオス)を起こす」ようです。例えば選手たちは良い練習だと思っていたところ、エディ監督が突如として激怒することが度々あったようです。選手たちはもちろんパニックを起こします。途中からは選手たちも、「これはもしかしたら、自分たちを試しているのではないか?」と考えるようになりました。

精神的にパニックな状態を引き起こした中でも、正気を保って目の前のやるべきことをやるということを教えているのではないか。結局本人に聞くことはなかったそうですが、五郎丸選手自身も、カオスの中で正気を取り戻して戦うことが今の日本が必要なことで、自分たちリーダーが率先してやるべきことではないかと気づいたようです。話は戻って初戦の南アフリカ戦。練習でのカオス体験を経たからこそ、普通なら全員がパニックに陥る状況で、冷静にラストプレーを選択できた。むしろ彼らからしたら必然の結果であったと言うことができるのかもしれません。

エディ監督が強烈なリーダーシップでビジョンを示し、選手はゴールに向かって邁進します。そしてチームのリーダーたちは、エディ監督が課すカオスに応えてゴールを目指す上での一番の理解者であり、実践者であり、恐らく完璧なフォロワーだったと言えます。そしてグラウンド上では背中を見せてほかの選手たちを引っ張った、完璧なリーダーたちでした。リーダーグループの選手たちが、フォロワーシップとリーダーシップの双方をバランスよく発揮した。これが今大会の成功の一因ではなかったのかと、私は考えています。そしてそのきっかけを作ったのは、もしかしたらずっと変わらない五郎丸選手の流儀なのかもしれないのです。


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。