ラグビーW杯で教え子・五郎丸が躍進した理由

“秘話”早大時代から変わらない 五郎丸の流儀

“秘話”早大時代から変わらない 五郎丸(右から3番目)の流儀

2015年ラグビーワールドカップ。大会の行方を左右する大事な初戦の南アフリカ戦。トライを決めた五郎丸選手は、拳を地面に叩きつけて喜びをぶつけました。

私は五郎丸選手が大学3、4年生のときに、早稲田大学で苦楽を共にして以来の関係ですが、試合中にこうした感情をぶつける姿はほとんど見たことがありませんでした。周到に準備を重ねて得た狙い通りのトライに、思わず感情が爆発したのでしょう。この瞬間、私はこの大会はいける。そう確信しました。

そして喜ばしいことに、この確信は現実のものとなりました。これまでわずか1勝しかできなかった日本が、予選グループで3勝。しかも全て格上の相手から奪った歴史的な勝利でした。五郎丸選手自身も大会のドリームチームに選出され、大きな成功を収めたと言っていいでしょう。

この成功の裏にはいくつかの要因があったと考えられ、メディアが様々な角度から検証しています。初戦では、普段と異なるリアクションを見せた五郎丸選手。一方で、ジャパンウェイならぬ「五郎丸ウェイ」とでも言いましょうか、早大時代からずっと変わらない彼なりの流儀が、今回の成功の一つの要因ではないかと私は考えています。


各自のスタイルを発揮することが組織には必要だ

私が五郎丸選手を評価している点の1つは、「自己認識力」が優れていることです。メディアはこぞって彼のキックにフォーカスしていますが、自分は何ができて、何ができないのかを理解していることが彼の一番の武器だと考えています。

五郎丸選手とは大会期間中もゆっくり話をする時間がありました。彼はチームの中でリーダーグループに属しており、リーダーとしての素晴らしい活躍を指摘したところ、「できないことはやらない。それだけです」と答えました。これはまさに私が早大時代に指導していたことでした。

多くのリーダーは、リーダーとしてのスキルを高めようとします。どうやったらうまくリードできるか、うまくプレゼンできるか、いいプレイをできるかといったスキルにフォーカスしがちです。そうではなく、スタイルを持つことが大事だと私は言い続けてきました。背伸びをせず、自分は何ができて何ができないのかを理解し、できることだけをひたすらやる。これにより自身のスタイルを確立し、組織の中で引っ張る場面(リーダーシップ)と、支える場面(フォロワーシップ)を機能させることがリーダーの役割だと考えるからです。

具体的には、彼は戦略戦術に関してはほとんど口を開かなかったそうです。戦略を考えたり、人前で話したりすることはほかのリーダーに任せ、とにかく全ての練習に怪我なく出て、試合にも全て出場し、言葉ではなく背中で見せ続けることをやりきったと話していました。また、彼はメディアではクールな姿を見せていますが、実は根本的にシャイな男です。彼がこの度の4年間でやったことは、チームの方針を、体を張って一番に実践することでした。

組織としてさらに重要なことは、できることとできないことを、ほかのリーダーにもさらけ出して共有したことでした。「戦略戦術に口を出す必要はないし、体を張って背中で見せることに集中した。やるべきことが明確だったから、リーダーとして心地良かった」。チームというのは、全員が完璧ではありません。相互理解をし、足りないところを補い合うことが、強固な組織を作るための条件なのです。