不動産売買の法律・制度/不動産登記の基礎知識

不動産登記は自分でできる!?

不動産の登記申請手続きは司法書士などに任せることが一般的です。しかし、一定の条件を満たす場合にはこれを自分ですることもそれほど難しくありません。どのような登記なら自分でできるのか、その注意点なども含めて考えてみることにしましょう。(2018年改訂版、初出:2015年8月)

執筆者:平野 雅之


土地や建物を購入したとき、住宅を新築したとき、不動産の贈与をしたとき、相続があったときなど、不動産の権利内容が変わればすぐに登記をすることが原則です。最近では、相続の際に適切な登記がされていない不動産の存在も大きな社会問題になっていますが……。

登記申請手続きはたいてい司法書士または土地家屋調査士に依頼しますが、その報酬分を節約したいと考える人も少なくありません。

実は登記申請を自分ですることもできます。不動産登記法は当事者(売主、買主など)の「本人申請」を原則としているため、自分で申請をすることに対して何ら制限はないのです。

しかし、現実には「表題部」に関する登記は土地家屋調査士、「権利部」に関する登記は司法書士に任せないと難しい場合もあります。

それでは、どのような登記なら自分で申請することができるのか、その条件や注意点などについて考えてみることにしましょう。


「自分で登記申請」を認めてもらえない場合もある

住宅とお金

住宅ローンを借りる場合には自分で登記をすることが困難

自分で登記申請をすることが法律上は可能だとはいえ、現実にはほとんど認めてもらえないのが、住宅ローンを借りる際の抵当権設定登記(およびそれに伴う所有権移転登記、新築建物の所有権保存登記など)です。

住宅の売買や新築における決済(残代金の支払い)では通常、その場に立ち会った司法書士がさまざまな必要書類を確認し、「すべて問題なく揃っている」という宣言によって金融機関が住宅ローンの融資を実行します。

司法書士に依頼しないでこの確認作業や登記申請を自分でやると主張しても、そこまで信頼される買主は極めて稀でしょう。

金融機関からみれば、本当に書類がすべて揃っているのか、書類の内容に間違いはないのか、本人に任せて本当に登記をするのか、法務局へ行く途中で書類を紛失したらどうするのか、書類を改ざんされる心配はないのかなど、さまざまな疑念が生じます。

司法書士なら絶対にミスはないというわけではありませんが、たいていは損害賠償保険に加入しており、万一の場合でも金融機関は補償されます。しかし、買主本人などに申請を任せてミスがあったときは、金融機関がそのリスクを負わなければなりません。

金融機関が指定する司法書士ではなく、自分の身内や知り合いの司法書士に頼むというのであればそれを認めてもらえるケースはあるでしょう。

また、本人や身内が法務局の職員で、登記を熟知した者が申請手続きをするなど特殊な事情があれば、司法書士を使わないことに同意してくれる金融機関もあるようです。


住宅ローンが絡まなければ、たいていの登記は自分でできる!

住宅ローンを借りるときの一連の登記を自分でやろうと考えても、金融機関にリスクが生じるため現実的には困難なわけです。

逆にいえば、もしミスがあっても誰も困らない、やり直しに時間が掛かっても大丈夫、いざというときにリスクを負うのは自分だけ、などという登記内容なら、自分で申請をすることに何ら問題はありません。

現金で一括購入したときの所有権移転登記、現金で新築したときの所有権保存登記、相続や贈与による所有権移転登記、住所や氏名の変更・更正登記、住宅ローンを返済し終わったときの抵当権抹消登記、建物を取り壊したときの滅失登記などです。

【自分で申請をすることが比較的容易な登記】
  • 所有権移転登記(現金一括購入、相続、贈与)
  • 所有権保存登記(現金支払いの新築建物)
  • 変更・更正登記(住所、氏名など)
  • 抵当権抹消登記
  • 建物滅失登記

ただし、住宅ローンや事業資金などの返済中で抵当権または根抵当権が付いたままのときに、贈与や財産分与などで名義変更しようとすれば、金融機関の承諾が必要となるほか、場合によっては抵当権の付け替え(他の不動産の担保提供)も必要です。このようなときは登記申請を自分ですることが難しくなるでしょう。

また、相続や贈与に伴う登記の際に権利者が多く、身内の人間関係があまり良好でない場合も、なるべくなら司法書士に依頼したほうが無難です。何らかの手続きミスがあったときに、あらぬ疑いをかけられることにもなりかねません。

相続人の中に本籍を転々と移している人がいたり、必要書類を揃えることがなかなかできない人がいたりする場合も、司法書士に依頼することを検討したほうがよいでしょう。

なお、登記義務者(売主、抵当権者など)の印鑑証明書などが必要な登記では、書類の有効期限が定められている場合もあるのでしっかりと確認することが必要です。

売主が使用した実印の印影にも十分に注意しなければなりません。印鑑が微妙に異なる場合があるほか、印影の一部が欠けていたり不鮮明だったりして登記ができないこともあるのです。どの程度なら大丈夫、どの程度はダメといった判断はなかなかできるものではありません。


登記申請書類の作成はそれほど難しくない

登記申請にあたっては、その目的に応じてさまざまな添付書類が必要となるほか、一定の書式に沿った登記申請書などを作成しなければなりません。

しかし、その内容自体はそれほど難しいものではなく、インターネット上で情報や書式サンプルを集めたり、書店で手引き書を購入したりすれば足りるでしょう。

ただし、不動産や登記、税法などに関する基本的な知識が必要なほか、それなりの時間も要します。勉強することや書類を作成することがそれほど苦にならず、一定の時間を費やせる人であれば、自分で登記申請をすることは比較的容易です。

また、法務局の相談窓口へ行けば、申請書の書き方や必要な添付書類などについて、たいていは丁寧に教えてくれます。

なかには、一般の人に教えることが不得手な登記官もいるでしょうが、ある程度の資料や登記申請書の下書きなどを用意し、「分からない部分」を明確にしたうえで相談に行けば何ら問題はありません。

ちなみに、私自身も以前に何度か登記申請をしたことがあります。しかし、初めてのときは万全の準備をしたつもりでも思いがけない失敗がありました。

登記申請の受付窓口におけるチェックでミスが見つかればその場で訂正することも可能ですが、予定外の日数が掛かるケースもあるため、余裕のある日程を考えておきたいものです。


売買の際の所有権移転登記には慎重さが求められる

住宅ローンを借りずに現金で一括購入した場合の所有権移転登記は、自分で申請をすることにあまり障害はありません。しかし、売主が登記済権利証または登記識別情報を紛失しているなどの事情があれば、自分で申請することは諦めて司法書士に任せるべきです。

売主が権利証などを紛失しているときには、登記官による事前通知、司法書士または弁護士による「本人確認情報」の提供、公証人による認証の提供といった方法があるものの、実際には司法書士によって本人確認をすることが一般的でしょう。

また、不動産の売買では売主(と称する者)が真の権利者かどうか、しっかりと確認することが欠かせません。詐欺に巻き込まれるケースがそれほど多いわけではありませんが、売主が共有のときに一部の承諾を得られていないなど、取引上の問題が生じることは少なからずあります。

不動産の売買にあたり仲介業者も売主の本人確認をしていますが、それだけでは十分でなく司法書士が最終的な確認をしています。取引内容に疑念があるときは、売主との面談だけにとどまらず、さまざまな資料やテクニックを用いて調査をしたり偽造を見抜いたりしているのです。

「登記申請を自分でする」という場合には「司法書士へ支払う報酬を節約したい」という理由も大きいでしょうが、司法書士は単なる登記申請手続きの代理人ではなく、取引の安全を守るための存在だということも理解しておかなければなりません。


表題登記も自分でできる?

住宅など建物を新築したときは、まず初めに表題登記をしなければなりません。これは建物の所在地番、種類、構造、床面積などが記載される表紙のような部分を作成するためのものです。

この表題登記も自分ですることは可能ですが、添付書類として一定の様式による各階平面図や建物図面の作成が必要です。

B4サイズの一定の厚さ以上の用紙を使用して0.2ミリ以下の細線で表示すること、決められた縮尺で図を描くことなど、細かなルールもあります。不動産登記法の規定に沿った求積もしなければなりません。

これらの作業が得意な人であれば、表題登記を自分でやってみるのもよいでしょう。ただし、住宅ローンの借り入れなどで時間的な余裕がなく、万一の失敗も許されないときには、原則どおりに土地家屋調査士へ依頼をすることが賢明です。

なお、新築マンションの場合は建物全体および各部屋の表題登記を一括で申請することになっているため、これを買主個人で申請する余地はありません。


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