「品薄」観点で比較する、レモンジーナ騒動との違い
次に今春、「品薄」で騒がれたサントリー食品インターナショナルの炭酸飲料レモンジーナと比較してみたい。
レモンジーナと違ってペヤングの品切れがそれほど叩かれていないのは、ペヤングがロングセラー商品であり愛されていたということもある。それ以上に、ペヤングの場合、あえて品薄にすることでの販売メリットがないことを消費者がわかっているからだ。約半年に渡って店頭から消えていたペヤング。今、販売再開に際して品薄商法を取るくらいなら、最初から販売休止にしなければ良いことを賢い消費者はわかっているのだ。
一方、レモンジーナの場合にはこれから売り出そうとする商品だった。消費者からすれば、新発売にあたり、企業はなんとかして商品を売りたいということはわかっている。レモンジーナは、コンビニやスーパーの店頭では商品が山積みにされているのに、ニュースでは人気沸騰で生産休止とアナウンスされた。消費者からすれば、騙して買わせようとしているのかという気持ちにるのも自然な成り行きだろう。
発売2日で年間の出荷目標数量を売り切り、消費者を煽る品薄商法ではないかと言われたレモンジーナ。その直後、やはり発売すぐに目標数量を売り切って品切れ商法疑惑を加速させる形となってしまったヨーグリーナ。一連の流れにより、サントリー食品インターナショナルに対する批判は高まり、あやうくブランドイメージを大きく毀損しかねない状況を招いた。
ペヤングの場合、販売再開によって、予測以上の売れ行きとなった。その結果、品薄となり関東以外の地域での販売再開が延期となる事態に。しかし、ペヤングの品薄に関しては批判の声はほとんどなかった。これはなぜなのか?
この違いは、企業が売りたいという気持ちが前面に出た商品なのか、消費者が望んで売って欲しいという気持ちが前面に出た商品なのかということだ。消費者にとって、ペヤングの販売とは待ちに待ったものであったので、販売再開後に人気が出て品薄になっても不満の声は出てこなかったのだ。ただ、レモンジーナの場合は、消費者が販売を期待していた商品ではなかったので、冷ややかに見られてしまった。ここがペヤングとレモンジーナの決定的な違いだ。
話題性に地域間・世代間ギャップ
最後にペヤングに関して面白い傾向を紹介して終わりたい。
ペヤングが販売再開されると、都内にある多くのコンビニ店頭ではペヤングの陳列スペースが設けられた。ネットを見ても、テレビを見ても、ペヤング販売再開がニュースや情報番組で特集されていた。これだけ見ると、日本人全員がペヤングの販売再開を喜んでいるのではないかと思えるだろう。しかし、そうではないのだ。
地域別に見れば、ペヤングが強いのは関東を中心としたエリアだ。実は関西以西で強いのは競合商品の日清食品の「UFO」であり、東北で強いのは東洋水産の「マルちゃん焼きそばBAGOOOON(バゴォーン)」なのだ。
年齢別に見ても、ペヤングにまつわるギャップは見えてくる。実際にペヤング復活を喜んでいる中心層は40代以上の男性層だ。20代もしくはそれ以下の若年層には、ペヤングよりも明星食品「一平ちゃん」の方が馴染みが深い人も多い。彼らは「ペヤング」のCMよりも「一平ちゃん」のCMを多く見て育った。そして実際にも「ペヤング」ではなく「一平ちゃん」をはじめ新しく登場したカップ焼きそばを食べることが多かったからだ。
味覚は人によって異なるが、一般的に言えば時代とともに新開発された商品の方に食指が動くものではないか。この点からも、若年層にとってはペヤングは選択肢に入りにくい商品だ。40代以上の層がペヤングを愛しているのは、ペヤングがカップ焼きそばの味の原点であるだけでなく、当時の体験と紐づくノスタルジーによるものかもしれない。
ペヤング復活に熱狂的だったのは、実は関東圏を中心にした40代以上の男性。今回はそこにペヤングに強い思い入れはないが、話題に乗ってソーシャルメディアで情報発信したいという層が加わり、話題に火がついた例だといえる。
最後にもう一度まとめておきたい。ペヤングの再販について、大きく二つの点が寄与し、比較的ポジティブなムードが生まれた。一つは、マクドナルドの場合と比較して浮き彫りになった事後対応の妥当性。もう一つは、復活時の品薄状態が、レモンジーナの一件とは違い、固定ファンにとって納得のいくものだったということだ。マーケティングを学ぶ上で、このように異なるいくつかの事例を比較するのも大切だろう。