顧客は品揃えが豊富すぎると却って購入しない
店頭で品揃えが多すぎれば多くの顧客は購入を止めてしまうという実験結果がある
ところが、マーケティングの実験では、品揃えを豊富にすると逆に売上が下がるというデータも存在するのです。たとえば、コロンビア大学のアイエンガー教授が中心となって行われた実験では次のような結果が明らかになっています。
アイエンガー教授は、サンフランシスコのスーパーマーケットでジャムの品揃えの数を変えて、多い場合と少ない場合の売上の違いを実験します。
実験では、スーパーマーケットの入口近くに試食コーナーを設置して、陳列するジャムを入れ替えていきます。6種類だけを陳列した後は、18種類を加えてトータル24種類の商品を並べていくという作業を数時間ごとに繰り返していったのです。
買物に立ち寄った顧客には、どのジャムにも使える1ドル引きクーポンが提供され、使用されたクーポンを集計することによって売上を計測していきました。
また、併せて売り場の近くに調査員を配置し、顧客の行動を観察することも実施しました。
この実験の結果、売り場前を通った顧客のうち、24種類のジャムを陳列した場合はおよそ60%が足を止めて、ジャム売場に興味を示した一方で、6種類しか陳列していない場合には、40%に留まりました。このことから、顧客の注意を引くためには、より多くの品揃えが有効だということが明らかになりました。
分析によってわかった予想外の顧客購入率
ところが、立ち止まった顧客の購入率を分析すると、24種類のジャムを並べた時にはわずか2.8%しか購入に結び付いていないことが浮き彫りになりました。一方、6種類しか並べなかった時には購入率は29.8%に達していたのです。つまり、品揃えによって購入率は10倍以上の差がつくという予想外の結果が導かれたのです。ここで、その原因を探るべく、売場を観察していた調査員の報告を分析してみると、品揃えが多い場合には、商品を見定めていた顧客の多くが選択に迷い、10分以上も考えたあげくに、結局は決められずに買わずに売場から去っていったという報告がありました。逆に6種類の品揃えの場合には、顧客はあまり迷うことなく、一つの商品を手に取ってレジへと向かっていったということなのです。
つまり、人というのは選択肢があまりに多くになれば、却って決められないという状況に陥り、結局は購入しないという消費者心理が実験で明らかになったのです。
この実験結果を踏まえれば、マクドナルドの1000通りもの新メニューは確かにより多くの顧客のニーズに対応することができるかもしれませんが、顧客はどのセットを選択しようか迷ってしまい逆に売上が下がる要因にも十分になり得るということが考えられるのです。