労務管理/企業のリストラとその注意点

リストラ面談のための裏マニュアル!3つのポイントを人事プロが解説

リストラを行う企業は、どこもリストラ面談を進めるためのリストラマニュアルを作成しています。リストラで無用のトラブルを発生させないために、マニュアルを用意する必要があるのです。ここでは、リストラ面談のための裏マニュアルを3つのポイントで解説します。

本田 和盛

執筆者:本田 和盛

企業の人材採用ガイド

リストラ面談のための裏マニュアル!3つのポイント

リストラ面談のための裏マニュアルとは

リストラ面談のための裏マニュアルとは


ある会社がリストラを行なうというニュースが報道されると、「またか!」という反応をされる方が多いのではないでしょうか。それだけリストラが当たり前の社会になってしまったようです。

しかしリストラを実施する会社の従業員、とりわけリストラ対象者になってしまった方にとっては、当たり前では済まされません。一方リストラを進める人事部や、リストラ対象者と実際に面談を行なう上司にとっても、辛い体験となります。

リストラの本来の意味はリストラクチャリング、つまり事業の再構築ですが、事業再編や事業縮小を伴うことが常であるため、どうしても人員削減が必至となります。

人員削減の方法は、希望退職の募集が一般的ですが、希望退職者数が人員削減目標に達しなければ、リストラ対象者を選定し、個別に退職勧奨を行なうことになります。退職勧奨に応じない者に対しては、子会社への出向や転籍を強行する場合もあります。

今まで同じ職場で働き、同じ社員食堂でメシを食った仲間に、会社から離れるよう説得することは誰しも辛いことです。また労働法などに不案内な上司が退職勧奨を行なうことで、違法な行為となってしまうリスクもあります。

そこでリストラ対象者に面談を行い、退職を促す役割を果たす上司のために、リストラ面談の手順を解説したマニュアルを用意する必要があるのです。これがリストラマニュアルとか退職勧奨マニュアルと呼ばれるものです。

ここでは、リストラマニュアルがどのようなものなのか、3つのポイントから見ていきたいと思います。
 
<目次>
 

ポイント1:公式メッセージで上司の恣意的判断を排除

リストラマニュアルは、上司がかってに判断したり、会社の方針とは異なる見解を伝えたりしないように、会社の公式メッセージが質疑応答事例として記載されています。何のためにリストラをするのか、対象者はどのように選ばれたのかといった基本的なことから、退職優遇措置(パッケージと呼ばれる)や再就職支援の内容、希望退職への応募期限、退職を拒否した場合の取り扱いまで、想定される質問に対する応答例が細かく書かれています。

リストラは、会社の統一方針のもと、期限を切って実施されるものなので、上司によって対応が異なると、無用なトラブルが生じてしまいます。面談における上司の役割は、会社としてのメッセージをきちんと伝えるところにあるのです。部下を辞めさせることが役割ではないのです。

「このたび当社は、3000人の希望退職を募ることになりました」「予想以上の環境悪化により、会社としては苦渋の決断を行なうことになりました」などが代表的な公式メッセージです。上司は公式メッセージ以上に、自分なりの解釈を伝え、将来予想を述べることは禁止されています。
 

ポイント2:対話の主語は常に「会社」

会社を主語にした対話で、部下の攻撃を回避する

会社を主語にした対話で、部下の攻撃を回避する


リストラマニュアルは、多くの模範解答の主語が、「私が」ではなく「会社が」になっています。

「私が」で始めると、部下の反撃が発言者である上司に直接向かってきます。また上司も「私が」と一人称で話すことで、リストラを実施する側としての当事者意識が強まり、自責の念にかられてしまいます。

対話の主語を「会社」にすることで、上司の気持ちはかなり楽になります。

たとえばこんな感じです。「俺をリストラ対象者に選んだのは、部長、あなたなのか?」と言われると、部長も辛いものです。そこで「リストラ対象者の選定は、会社が行ないました」「対象者はこれまでの人事評価を基準に選定したと、会社からは聞いております」と回答することで、部下の攻撃を回避でき、合わせてリストラの責任を会社に丸投げすることで、精神的にもダメージを受けなくて済むのです。

対話の主語を「会社」にすることは、上司自身の進退を問い詰められた場合でも有効です。「部長、当然あなたも会社を辞めるのでしょうね」と部下から言われると、自分に向き合わざるをえません。自分に向き合った瞬間、気丈な上司といえども気弱になり、部下との面談目的が果たせなくなります。

このような場合は、「私の進退は会社が決めることになります。今は、あなたとの面談に集中させてください」と切り返すことで、横道に逸れそうになった面談を元に戻すことが可能となります。

しかしリストラ面談で、何を聞いても「会社は」「会社は」で返答されると、部下は逆に違和感を感じ、反発したくなります。そこで「俺もお前の気持ちは分かるよ」と、時折、自分自身を主語にして部下の感情を受け止めることも必要になります。

このことはリストラマニュアルには書かれていません。部下の気持ちに共感し過ぎると、上司が気弱になり面談目的が達成できなくなる懸念があるからです。それと安易に共感の言葉を述べると、心がこもっていない場合などで、部下のさらなる反発を招くからです。

退職強要などによる労務トラブル発生を防止することも、マニュアルの重要な役割です。
 

ポイント3:労務リスクへの徹底した対応

リストラ面談は、退職してもらいたい人、会社に引続き残って欲しい人に分けて行ないます。

退職対象者になっている部下には、その旨を確定事項として伝えます。

「あなたに担当して頂く仕事は、残念ながら社内にはありません」「社外で持てる力を発揮して頂くことを、会社としては提案させて頂きます」とはっきり、社内に残れないことを本人に示します。

本人に退職を促す行為は、退職勧奨といって違法な行為ではありません。
しかしこの退職勧奨も度が過ぎると「退職強要」になり、違法性を帯びてきます。

本人が退職を拒否しているにもかかわらず、短期間で何度も面談し、「さっさと辞めろ。給料泥棒!」と人格を傷つけるような言動を繰り返す、長時間にわたって拘束する、数人で取り囲み退職を迫るなどの行為は、退職自体が無効になるだけでなく、損害賠償の対象となりえます。そのためマニュアルには、このような不適切な行為が例示列挙され、注意喚起されています。

手術や入院が必要な重篤な疾病に罹患している部下や、出産・育児、両親の介護のため休暇等を申請している部下など、特別な配慮が必要な方、メンタル不調で自傷他害行為の可能性がある場合は、上司との面談を中止することが一般的です。労務リスクが高いため、現場の管理職には任せられないからです。

同様に、外部の労働組合、弁護士等と接触していることを匂わせた場合も、上司との面談は中止となり、その後の面談は人事部が引き継ぐことになります。

リストラは上司も部下も辛い立場に追い込まれるという点で、できるだけ避けて頂きたいとガイドは考えます。しかし避けられないとなったら、お互い誠実に向き合い、とことん話し合いをし、早期に着地点を見出して頂きたいと思います。

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