労務管理/雇用側の労務知識

派遣社員から正社員登用で正社員に切り替える時の注意点

派遣社員として派遣先の会社で働くうち、正社員登用として「うちで社員にならない?」「契約社員からなら採用できるよ」などの声をかけられることがあります。正社員になるとどう変わるのか? 声をかけてもらって嬉しい反面、注意点を解説します。

小西 道代

執筆者:小西 道代

労務管理ガイド

 

ずっと派遣社員で働き続けると、リスクもある

派遣社員から正社員登用で正社員になる時の注意点

派遣社員から正社員になるためには?


派遣社員は、派遣先の都合でいつ就業が打ち切られる可能性がある点、不安定な立場とも言えます。反面、会社特有の人間関係のわずらわしさや責任の重さなどから解放された自由さがあります。そのため、正社員の就職活動に失敗して一時的に派遣社員として働いている場合もありますが、実は、適性や生活スタイルから自分で派遣社員という働き方を選択していることも多いようです。

しかし、派遣という働き方は「臨時的・一時的」と位置づけられ、年齢が上がるほど新しい派遣先を確保することが難しいという実態があります。「専門的なスキル」を身につけていても、それだけで給与を上げ続けることは難しく、一定の年齢を超えると管理職としてのマネジメント力が求められます。この点、派遣社員を続けていると身につけにくい能力と言えます。
 

派遣先から採用の打診をされたとき、手順を確認しよう

派遣社員が派遣先で雇用されるためには、以下の方法があります。
 
  • 派遣契約終了後に派遣先の求人に応募する
  • 派遣先の「正社員登用制度」に応募する
  • 派遣契約を「紹介予定派遣」に切り替える

派遣先の上長や先輩から、「うちにおいでよ」「社員になってくれたら助かるな」などの声をかけられたとしても、その言葉だけで採用されるワケではありません。派遣先の他の社員同様、応募→採用試験→合格という手順を踏む必要があります。
 

派遣先から正社員登用で打診をされたら手順を確認しよう

派遣会社と派遣先の間では「派遣契約」が結ばれていて、3ヶ月や6ヶ月などの期間が決まっています。この期間の途中での採用は、「引き抜き行為」として派遣契約違反と判断されて、派遣先が違約金を請求される可能性もあります。

派遣法では、「派遣会社は派遣先が派遣社員を直接雇用(派遣先と派遣社員が雇用契約を結ぶこと)することを禁止してはならない」と定めています。しかし、派遣会社と派遣先が結ぶ「派遣契約」の契約期間は、契約として約束をしている期間であるため、この間に直接雇用をすることは契約違反となるのです。

派遣社員には転職の自由があり、派遣会社と派遣先との契約違反は関係ない!と感じることもあるかもしれませんが、これまで雇用し研修を受講させるなどしてくれた派遣会社とのトラブルになるような行為は、避けた方が無難です。派遣契約の終了後に動きましょう。
 

派遣先「正社員登用制度」の応募資格を確認しよう

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正社員登用制度等を積極的に利用しよう


良い人材を確保するため、自社のアルバイト・パートや契約社員などが正社員にチャレンジできる制度を設けている会社が増えています。法律で決められた制度ではなく、応募資格や試験の内容、登用時期などは、会社が自由に決めることができます。この「正社員登用制度」に派遣社員が応募できる場合があります。派遣先から採用の打診を受けた時は、制度の内容を確認させてもらいましょう。

派遣社員として就業してきた年数や出勤率に制限があったり、上長の推薦を条件としていたり、最初から登用人数が決められていることもあります。少なくとも、以下を確認しておきましょう。
 
  • 制度に応募する権利があるのか?応募時期はいつか?
  • 採用試験の内容は何か?今から準備して間に合うのか?
  • 採用の時期が派遣契約期間の途中にならないか?

採用を打診してくれた派遣先の上長や周りの社員に協力をお願いするとともに、応募するときには、派遣会社にも一言声をかけておくことが礼儀です。しかし、派遣会社によっては、これまで育ててきた派遣社員の退職を快く思わない場合もあります。ある程度、採用が確実となった時点で伝えることをお勧めします。
 

派遣会社・派遣先・派遣社員が三方よし!「紹介予定派遣」

紹介予定派遣とは、「派遣社員が、派遣契約の終了後に双方合意のもと派遣先の社員となる」ことができる働き方です。最初から「派遣契約の終了後」という約束があることから、「引き抜き行為」のトラブルもなく、派遣先から紹介料をもらうことができる点で、派遣会社にもメリットがあります。

派遣社員と派遣先にとっても、派遣社員として一定期間(最長6ヶ月)を一緒に働くことで、雇用のミスマッチを防ぐことができます。派遣社員として働く期間、派遣先は以下のような点を見極めています。
 
  • 派遣先が求めるスキルだけでなく、責任感を持ってやり遂げているか?
  • 派遣先の社員とコミュニケーションをとり、友好な関係を築けているか?
  • 派遣先の会社の雰囲気に合っているか?

派遣社員であれば、必要な能力を持っていれば就業を継続することができますが、派遣先の社員となると、会社への帰属意識が求められ、会社組織に属することとなります。そのため、紹介予定派遣で派遣就業する間には、責任感や人間性をチェックされる傾向にあるのです。

なお、派遣就業後の採用は正社員に限らず、契約社員としての採用となることもあります。紹介予定派遣として派遣就業する前に、派遣会社からもらう「就業条件明示書」の記載を確認しましょう。派遣会社で持っていた有給休暇の取扱いなども記載されています。

また、派遣先の社員になるには「双方合意」が前提ですので、派遣先が提示する労働条件に納得できないときは、派遣社員が断ることもできます。派遣先の社員になったときの給与が、派遣社員のときの給与を下回ることもあり得ますので、事前に確認しておきましょう。
 

派遣先で正社員として採用されても、自分らしい働き方はできる!

派遣法では、派遣という働き方を「臨時的・一時的」と位置づけています。やりたことが見つからず、いろんな仕事を経験したい!という時期や、子育てや介護という家庭の事情に左右される一定の時期においては、派遣という働き方もメリットがあります。

しかし、年齢が上がるにつれて派遣先を確保することが難しくなり、住宅手当や家族手当などの福利厚生が十分でないことや役職に就けないことなどから、同年齢の社会人と比較したときに生涯にもらう給与で差がついてしまうというデメリットがあります。

同一労働同一賃金の議論が進む中、「社員」「派遣」というだけで給与に差をつける現状は是正されつつありますが、まだまだ確実ではありません。派遣先から採用の誘いがあったときには、ぜひ、前向きに検討しましょう。

職種や職場を限定する「限定正社員」や、勤務時間を正社員より短く設定できる「短時間正社員」を設けている会社もありますし、正社員であっても、「フレックスタイム制」や「裁量労働制」などを活用することで、無理のない働き方を設計することができる場合もあります。
 

派遣社員は「3年」「5年」の節目で、働き方を考えよう

派遣会社は雇用する派遣社員のために、研修を受講させて資格取得を支援したり、定期的に面談をしてキャリアコンサルティングを行ったり、福利厚生を用意したりしていて、これらには経費がかかっています。そのため、派遣社員が派遣先に採用されることを快く思わない派遣会社があることは確かです。しかし、派遣法と労働契約法で以下2つの改正があったことから、派遣先に採用されることを推奨する派遣会社も増えてきています。
 
  • 同じ会社の同じ業務で、同じ派遣社員は3年以上働くことができない(個人単位の抵触日)
  • 有期雇用契約を何度も更新して、通算5年を超えた派遣社員が希望すると無期雇用に転換しなければならない(無期転換ルール)
  • 派遣社員として3年、5年の節目になったとき、ちょうど派遣先から採用の誘いを受けたのであれば、派遣会社に相談してみてもいいかもしれません。いろんな選択肢の中から、最適な働き方を選びましょう。

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