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湯川麻美子『こうもり』インタビュー!

この春上演を迎える『こうもり』を最後に、ダンサーを引退される新国立劇場バレエ団プリンシパルの湯川麻美子さん。新国立劇場が開場した1997年よりバレエ団に在籍し、18年間に渡りカンパニーを率いてきました。ここでは、ラストステージを控えた湯川さんにインタビュー。作品への想いと決断の理由、今後の展望をお聞きしました。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

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この春上演される『こうもり』で、ベラ役を踊る湯川さん。
ベラは湯川さんが2002年に初主演を果たした記念すべき役でもあります。

湯川>新国立劇場が開場した1997年から踊ってきましたが、まさか自分がこの大きな舞台で主役を務めることになるとは思ってもみませんでした。

あるとき先生に呼ばれて、“怒られるのかな、もしかしたら来シーズンからクビかもしれない……”なんてドキドキしてたら、“今度上演する『こうもり』はあなたにピッタリだと思うから、主役を任せたい”と言われて。もう“えっ?”て感じで、何が何だかわからなかったですね。

早速ジジ・ジャンメールの昔の映像を見てみたら、本当にオシャレな作品で、自分がこんな風にできるのか、この大役が果たせるのかって不安でいっぱい。ただこの舞台で主役をいただけたこと自体は、もう嬉しくてしかたなかったです。

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2012年「こうもり」 (撮影:鹿摩隆司)


初演時は振付家のローラン・プティが直接指導に来たそうですね。

湯川>まず振付補佐のルイジ・ボニーノさんからステップを手取り足取り教わって、振りが入った頃にプティさんがいらして、リハーサルをしていただきました。あのときはもう、始終緊張してましたね。

ルイジさんに言われたのが、“これは喜劇なんだよ”ということ。“『ジゼル』や『ロメオとジュリエット』のように悲劇を演じて観客を泣かせるよりも、喜劇でお客さまをクスッと笑わせる方が難しいんだよ”、“泣くシーンも泣き真似をしているだけで、本当に悲しいんじゃないんだよ。これはゲームなんだよ”と……。

『こうもり』って倦怠期の夫婦のお話で、ベラには子供が5人もいるんです。当時20代だった私には人生経験もなければ実際の経験もなく、“今のままでも悪くない人生だけど、退屈だし、夫はこっちを向いてくれないし……”というベラの心理がわからない。リハーサルをしていても、“そうは見えない、シリアスにならないで!”ってずっと注意をされていました。“少し見えてきたかな”と言われたのは二週間くらいたったころ。じゃあこっちの方向性でいいのかなって、本当に手探り状態で始まった感じでした。

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2006年「こうもり」 (撮影:瀬戸秀美)


2002年の上演の際はゲストダンサーとしてアレッサンドラ・フェリが招かれ、やはりベラ役を踊っています。

湯川>小さい頃からフェリが大好きで、彼女が踊った『ロメオとジュリエット』のビデオを擦り切れるほど見ていたくらい。そのフェリさんが、同じ役を踊られるという。はじめて彼女が稽古場にいらしたときは、なるべく邪魔にならないようにと隅の方に小さくなって座りながら、一挙手一投足食い入るように見てました。

ヨハン役の山本隆之さんやウルリック役の吉本泰久さんも、初演のときはいろいろ悩んでましたね。三人で集まっては、“こうなんじゃない? こういう風にすればいいのかな?”と、試行錯誤の繰り返し。

あるときリハーサル後に三人でああだこうだと試していたら、フェリさんがスタジオに忘れ物を取りにいらして。私たちが苦戦しているのが目に入ったんでしょうね。“ああ、そこね!”と言って、“ふたつ目の脚を早く上げないからできないのよ、やってみせるからちょっと隆之持ってみて”と、山本さんにはサポートの仕方を、私には持ち上げられる方のタイミングを教えてくださったんです。私はもう、“これでできなかったらどうしよう!”って緊張でガチガチ。でも実際上手くいくようになり、“ほらね!”ってウインクして去って行かれて。本当に感激でした。



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