映画『もののけ姫』にも登場した「たたら」の史跡を訪ねてみましょう

菅谷たたら「高殿」

日本で唯一残った古代製鉄の遺構、菅谷たたら山内の「高殿」。2014年に保存修理工事が終わり、美しい姿が甦りました/写真提供:宇都宮睦登 氏

遥か昔から、日本独自の技術として砂鉄から鉄を造りだした「たたら」。映画『もののけ姫』の中にも「たたら」のシーンが登場していましたので、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。

明治以降の産業革命を機に製鉄の方法は高炉による近代製鉄に主役を譲りましたが、「たたら」による製鉄が盛んに行われていた島根県東部の雲南市から奥出雲町には現代でも「たたら」の遺構が史跡という形で残ります。

産業遺産が注目されるようになった昨今、文化庁から日本遺産に認定されるなど改めて評価が高まり、多数の方が訪れるようになった「たたら」による製鉄の史跡を訪ね歩いてみましょう。

ここに来ると鉄を加工した道具造りの体験や、普段の会話で良く耳にするあの言葉の語源までわかりますよ。(取材協力:島根県 観光振興課/2014年)

 

砂鉄から鉄を造る日本独自の技術「たたら」

「たたら」の炉の構造断面の実物大模型(1)/奥出雲たたらと刀剣館

「たたら」の炉の構造断面の実物大模型/奥出雲たたらと刀剣館(2014年12月撮影)

「たたら」は、粘土で造った炉の中に砂鉄と木炭を入れて、風を送り込みながら炉の中を高温で燃やし続けることにより、鉄を造る技術です。
砂鉄/たたら鍛冶工房

「たたら」による製鉄の原料となる砂鉄。中国山地ではたくさん採れたことで「たたら」による製鉄が盛んになった/雲南市菅谷・たたら鍛冶工房(2014年12月撮影)

飛鳥時代から奈良時代にかけて編纂された「出雲国風土記」にも記載がある千数百年以上前からの歴史を誇る日本独自の技術で、砂鉄が採れる中国地方の山間の多くで行われていました。

一時期は日本で造る鉄の80%以上を占めたこともあった「たたら」ですが、明治時代の産業革命により大量の鉄の需要が発生し、高炉を使った近代製鉄に鉄の製造の主役を譲った後は、静かに姿を消していきました。

現在では、日本刀の材料「玉鋼(たまはがね)」の供給と、技術の伝承目的で全国で1箇所だけ「たたら」の操業が続けられていますが、これは非公開のため一般の人は見ることができません。その代わり「たたら」による製鉄が盛んに行われていた島根県の雲南市から奥出雲町を中心にした地域に「たたら」の史跡が複数残っています。

2016年4月には、文化庁より「出雲國(いずものくに)たたら風土記 ~鉄づくり千年が生んだ物語~」として、「たたら」の史跡群が日本遺産に認定されました。先人が築き上げた「たたら」による製鉄の歴史を間近で振り返ることができる貴重な場所なのです。

それでは「たたら」による製鉄の史跡を訪ねていきましょう。

「たたら」の遺構と町並みが当時のまま残る「菅谷たたら山内」

菅谷たたら山内を望む

「たたら」による製鉄が行われた頃の集落がそのまま残る菅谷たたら山内を望む。「高殿」は一番右奥にあたる/写真提供:宇都宮睦登 氏

「たたら」による製鉄の史跡めぐり、最初は雲南市吉田町の「菅谷(すがや)たたら」へ。
菅谷たたら「高殿」

大きな桂の木のたもとに静かにたたずむ菅谷たたら「高殿」。この桂の木は秋に3日だけ炎のように真っ赤に色づくとのこと(2015年4月撮影)

菅谷たたらYahoo!地図情報)は江戸時代末期に造られた「たたら」の炉を覆う茅葺きの建物「高殿」が残っていて、さらに「たたら」で働いていた人たちが暮らしていた時の町並みもそのまま現代に残った全国で唯一の場所。国の重要有形民俗文化財にも指定されています。
菅谷たたら「高殿」の室内

菅谷たたら「高殿」の室内。天井の高い建物の中央に炉、その左右に吹子(ふいご)があります(2014年12月撮影)

菅谷たたらで鉄を造っていたのは、松江藩が抱えていた鉄師で出雲4大鉄師にも数えられていた田部(たなべ)家。江戸時代の1751年から、途中15年ほどの中断を挟みつつ、大正時代の1921年まで170年にわたり「たたら」の操業を行っていました。

高殿は2014年に保存修理工事が完了し、美しい姿で甦りました。中に入ると天井の高い建物の中に粘土でできた炉と両方から風を送り込む吹子(ふいご、鞴)があり、間近で見ることが可能です。
「高殿」の前から見た菅谷たたら山内

「高殿」の前から見た菅谷たたら山内/写真提供:宇都宮睦登 氏

「高殿」の前にでると、菅谷たたら山内の町並みが広がります。「たたら」が操業していた頃は、この町並みの中を多くの人が往来していたのだろう……という思いに馳せて眺めて見ると感慨深いですね。

 

鉄の歴史博物館で、たたらの製鉄に関する歴史を学ぶ

鉄の歴史博物館

「たたら」の製鉄に関わる資料を展示している雲南市吉田町の鉄の歴史博物館。周囲の町並みもレトロな雰囲気を醸し出しています/写真提供:宇都宮睦登 氏

菅谷たたら山内から、車で10分ほどの雲南市吉田町にある鉄の歴史博物館Yahoo!地図情報)。

菅谷たたらを操業していた田部家が所有していた資料を中心に「たたら」の製鉄に関する知識を得ることができます。

鉄の歴史博物館に至る町並みもレトロな雰囲気を醸し出していますので、時間をとってゆっくり散策したいですね。

 

たたら鍛冶工房では、刃物づくりの体験が可能

たたら鍛冶工房でペーパーナイフ造り体験

たたら鍛冶工房で体験できるペーパーナイフ造り。金槌で真っ赤になった鉄釘を叩き、グラインダーで加工すると出来上がります(2014年12月撮影)

菅谷たたら山内から、車で15分ほどの距離にあるたたら鍛冶工房Yahoo!地図情報)では、1週間前までに事前予約するとペーパーナイフや小刀を造る「刃物づくり体験」ができます。

手軽に30分程度の時間で楽しめるペーパーナイフ造りは、工房の方の指導の下、火にかけて真っ赤になった鉄の釘を金槌で叩いて形を造る鍛造(たんぞう)を体験した後、最後はグラインダーで加工すると完成。

造ったペーパーナイフは記念に持ち帰ることができます。ガイドも体験してみましたが、自分の手で物を造り上げていくのは楽しく、素敵な旅の思い出になりますね。

 


続いては、雲南市の南にある奥出雲町へ向かいます。「たたら」の詳しい構造や、普段の会話で良く使っているあの言葉の語源にも迫りますよ。次のページでご紹介します。