外から見た感じでは中の様子は分かりません。

外から見た感じでは中の様子は分かりません。


東西に細長い島根県。浜田市はその中でもかなり西側にあります。もう広島や山口に近いほう。周りは見渡す限り山と田園に囲まれています。緑がいっぱいで空が高く、空気がきれい。そんなのどかな風景の中に、その工場はありました。外から見る限りでは、何の変哲もない建物。しかし扉を開けて中へ入ってみると……

入ってびっくり。この機織り機はすごいです。

入ってびっくり。この機織り機はすごいです。


機織りの機械がどどどーっと。
この静かな山の中に、まるで要塞のごとく、ずらっと並ぶ機織り機。28台あるそうです。これは驚きを隠せません。なぜここに、これだけの織り機が!

西陣の技術と、島根らしい豊かな環境で織物を作る

実はここは元々、京都伝統の西陣織の帯を作る老舗「渡文」の工場として昭和53年に開設されました。しかし近年になって着物の需要が伸び悩み、東日本大震災の影響も受け、工場はやむなく閉鎖に追い込まれます。そのとき工場長だった代表の河野裕次さんは一念発起し、西陣織の高度な技術を持ちながらも、この土地らしい、豊かなものづくりを目指したい、という想いで新たにスタートを切りました。「やさか村ワタブンアートファブリック」として独立し、日々奮闘しています。

キビソでタオルを織る職人さん。女性が中心です。

機織りをする職人さん。女性が中心です。


工場とはいってもこれらは手織りの機械。ほっといて自動で織れるものではありません。職人さんが各織り機に座って、ひとつひとつ手を動かして商品を仕上げていきます。もちろん、自動で大量生産するほうが、きれいに整う製品になる場合もあるのですが、人が動かないと手に負えない、微妙な配慮が必要な商品というものもあります。人の手と目で細かく気配りし、丁寧な作業をしなければ作れないもの。そのひとつが、キビソでできたタオルです。

キビソの糸。ややごわっとしてるけど、素朴な風合いがなかなか良いです。

キビソの糸。ややごわっとしてるけど、素朴な風合いがなかなか良いです。

 

「おかいこさん」の力でスキンケアできるタオル

「キビソ」とは、かいこが糸を出すときの最初の頃の部分。(河野さんは、かいこのことを愛情と感謝を込めて「おかいこさん」と呼んでいました。) かいこも始めはまだ糸を出すことに慣れていないようで、綺麗な細い糸が出せません。やや荒削りで不安定な、ごわごわとした硬い糸を出すのだそうです。かいこにとってもまだ「練習」という感じなんでしょうか。その練習部分は、着物の帯にするにはごわごわで綺麗ではないし、織るにも大変で、染色もしづらいことから、本来は捨てられてしまっていました。

しかし、このキビソ、実はセリシンという絹タンパク質成分が多く含まれ、それがお肌にとても良いんだそうです!かいこも最初の頃はうまく調整が効かなくて、ついうっかりたくさんのセリシンを出してしまうみたいです。余計に出してしまったセリシンは、ありがたいことに保湿性に優れ、肌をしっとりさせる成分が多く含まれているらしい。活性酸素を抑える働きや、紫外線防止効果もあるそうです。

キビソを織るには、力加減などコツがいるそうです。

キビソを織るには、力加減などなかなか難しく、コツがいるそうです。


せっかく良い成分なのに、使わないで捨ててしまうのはもったいない、と考えた河野さん。ごわごわした糸を織るのはちょっと大変ですが、手仕事ならやればできる。素朴な風合いもまた味わい深く、手作りならではの安心感があります。いい素材を、しっかりと手間暇かけて作り、欲しい人に届けることは、この土地ならではの元気で生き生きとした暮らし方にも繋がるとして、新しい商品作りを模索しました。そして、顔や身体を洗うスキンケアのためのタオル「キビソ肌友だち」が誕生したのです。

出来上がったタオル。すごくきれい。

出来上がったタオル。すごくきれい。


このタオルの使い方はとっても簡単。ぬるま湯で濡らして石けんを付け、ぬるぬるしたぬめりのようなものが出てきたら、肌を優しく撫でるだけです。ほんとに簡単!このぬめりが肌に良いセリシンです。使い始めの頃は、まだ少しごわごわとして泡立ちも弱いですが、何度か使っていくうちに、だんだん柔らかくなっていきます。シルクといってもツルツルの繊細さではなく、ふわっと大らかな柔らかさが心地よいです。セリシンのぬめりが持続するのは3ヶ月くらいだそうなので、効果を期待したいなら、2、3ヶ月で交換すると良いようです。(セリシンがなくなっても、タオルとしてずっと使えます)。

降ろし立てのもの(右)と数日使ったもの(左)で使い心地を体感。

降ろし立てのもの(右)と数日使ったもの(左)で使い心地を比較。左はくにゅっと柔らかくてぬめりがあります。


高価な化粧品を買うことを考えたら、気軽に簡単にスキンケアでき、天然素材なので安心感もあります。スキンケアって面倒、忙しくてそんなヒマない、という人に向いているかもしれません。また地元では、普段農作業をしているお年寄りが、夜眠るときに背中がチクチクするのを解消するためのグッズとしても役立っているそうです。今では著名人などにも愛用者が現れて人気が高まっています。生産が追いつかなくて品切れのときもありますが、職人さんがひとつひとつ手織りで丁寧に作っていることを思って、少し待ってみて下さい。

いろんな色の糸から、好きなものを選びます。

いろんな色の糸から、好きなものを選びます。


カラフルなシルクのマットを手織り体験

さて、工場では、実際に手織りの体験もすることができます。こちらはキビソではなく、カラフルな絹糸から好きな色を選び、ひとまわり小さな機織り機でランチョンマットを作ります。いろんな色があって、どれを選べばいいのか迷います。

いざ織ってみると、最初は織る手順が分からなくてオタオタしたりしますが、だんだんリズムが掴めてくると、ツートントン、と一定の作業をするのが、まるで音楽を奏でているようで、なんだか楽しくなってきます。どんどん出来上がって来るのが、目に見えるのも嬉しいです。縦糸と横糸の色の組み合せで、それぞれ違った雰囲気になりますが、意外とどんな組み合せも馴染んで、失敗は少ないようです。隣同士でお互いの作品をみて、その色いいね!などと会話も弾みました。小学生でも体験できるそうなので、家族で参加しても楽しいと思います。

みんなでワイワイ、時には黙々と作ります。

みんなでワイワイ、時には黙々と作ります。


この舟のような道具に糸をセットし、右左へ行ったり来たり動かします。

この舟のような道具に糸をセットし、右へ左へ行ったり来たりさせて織ります。同時に足踏みも動かします。慣れるまでややこしい。


代表の河野さん始め、職人さんたちがみんな機織りを好きで、ワイワイと楽しそうに働いている雰囲気であることも印象的でした。Iターンで来ているという若い職人さんもいました。明るく健康的な環境から生まれるものづくりは、使うほうも安心して使え、この土地らしい心地よさを感じさせてくれるように思います。もし機会があれば、ぜひ実際に工場へ行って、この場所特有の和やかな雰囲気を味わって下さい。

できました。メキシコの織物みたいな雰囲気ですが、なかなか満足。

できました!メキシコの織物みたいな雰囲気ですが、自分にしては上出来でなかなか満足。


やさか村ワタブンアートファブリック
島根県浜田市弥栄町木都賀イ514-1
0855−48−2436
OPEN 10:00~16:00  土日祝休
http://yasakawatabun.web.fc2.com/index.html
※手織り体験は事前に電話で申し込みを。


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