パブリックスペースの快適性を高める
第一印象を担う玄関は、ゲストを出迎える際の「華」が求められる一方で、その家のグレードやテイストといった色んな意味での「象徴」となりうる空間だ。収納面での機能性も求められる。質感を重んじ、過ぎない装飾がポイントになろう。今回のリフォームでは、淡い色目の木調を面材にしたトール型収納に同系色のモザイクタイルを貼りあわせた壁を並べ、向かい合う壁はアクセントウォールに床の間の違い棚にモノ入れ機能を付加したような造作を施した。タタキの上質な大理石は従前のままに、同質の上り框を加えている。
リビングダイニングは緑の借景が見える方向にアクセントウォールを設け、その壁に沿ってダウンライトを3つ灯した。家具がなくても空間上の強弱や落ち着きが生じるのは内装と照明によるものである。この点は、パブリックスペースすべてに一貫するデザインのスキルだ。
最大の特徴は、床と天井の仕上げ。フローリング床への変更が容易でないことはヴィンテージマンションの悩みのひとつだが、この点がクリアできたことは大きい。もちろん他との整合性を取るための工夫あっての実現である。ダイニングスペースの天井仕上げ(下の画像)は空間の仕分け(=役割の切り替え)を意味するものだが、これにも副次的な目的として構造上の段差解消が含まれている。間接照明も効果的だ。
ヴィンテージマンションの醍醐味を失わせないこと
玄関のタタキ同様、浴室においても床石は従前のものを用いている。とはいえ、レインシャワーや浴室暖房乾燥機を導入するなど利用価値の向上は怠らない。洗面もカウンターやボウル、扉框の木は残し、水洗金具と扉面クロスだけを貼り替えている(下の画像)。ストックの質を見極め、受け継ぐべきものを冷静に判断する理想的なリフォーム事例である。隣接美術館の屋根は、丸みを帯びた緑青銅板葺き。時代としてはマンションの後に竣工したらしいが、「芝白金ヒルズ」の雨仕舞い(楯樋)が同材であった(上の画像)。意匠上の統一性を意識したからか、その断面は正方形である。このようなしつらえを見たのははじめてだが、それ以上に後年の建物までを見越していたのかと当時のアイデアに思いを馳せずにはいられない。
ヴィンテージマンションには魅力的な立地を有した建物が少なくない。先進の設備やデザイン性を付加することで新築に勝るとも劣らない上質な空間に仕上げる。良質なリフォームは潜在価値を顕在化し、さらに資産性をも引き上げることができるのではないか、とあらためて実感した次第である。取材協力:カガミデザインリフォーム、大成有楽不動産販売三田営業所
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