マーケティング/マーケティング事例

ワタミは渡邉美樹氏の成功体験を捨てられるのか?(2ページ目)

居酒屋業界の優等生、ワタミの不調が続く。世間では”ブラック企業”と言われることの多い同社。実は、不調の理由は、ブランドイメージの低下だけではありません。ワタミが抱える不調の要因をマーケティング視点で説明いたします。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

従業員・スタッフの成長を阻む渡邉美樹氏の成功体験

次に従業員・スタッフの士気低下をもたらし、成長を阻む渡邉氏の成功体験について触れておきたい。以前、私は渡邉氏にお会いし、直接言葉を交わしたこともある。渡邉氏は、発言も、態度もとても立派で、誰とでも分け隔てなく接する素晴らしい人物だと感じた。実は、そんな人物が作った会社であることが、現在のワタミの業績悪化の要因に繋がっている。

一般的に、ベンチャー企業の起ち上げ時は皆、24時間365日働く気概で働いている。よく言うことだが「何をやるかより誰とやるか」が重要なのは、どんなことがあっても一緒に乗り切る仲間を持つことが大事だからだ。実際、ワタミを創業して成長させていく中で、渡邉氏は本当に苦労した。そして誰よりも努力をしてきたのだろう。創業時はメンバーが一緒になって努力し、支えてくれた。

しかし企業が大きくなればそうはいかない。当たり前の話だが、企業にすべてを捧げようという人はほとんどいなくなる。残念ながら、今のワタミで創業時と同様の気概を従業員・スタッフの全員に求めることは難しいだろう。規模も違えば状況も違う。当時の組織と今の組織を同列に考えることはできない。その意味で、渡邉氏のかつての成功体験がスタッフ自身のモチベーション向上や成長を邪魔している面が大きいのではないか。創業社長は、自分が努力して成功したからといって、それと同様のことを社員に求め続けてはいけない。ワタミ復活のための一つのきっかけは、渡邉氏から親離れをすることだ。

ただ、ワタミ不調の原因はそれだけではない。最後に、競合企業の問題について触れたい。

新たな競合の出現に気づけなかった組織

もともとワタミは居酒屋ではなく居食屋というコンセプトで登場した。前述の通り、ビジネスマンだけでなく子ども連れの家族も老若男女が楽しめる場所だった。しかし残念ながら、それは失敗に終わった。私も今までに何度も「和民」「坐・和民」などを利用した。しかし、行くたびに残念な気持ちになっている。店内オペレーションが悪くなり、店員のホスピタリティが落ちていった。

最近、サクッと、ちょっとだけ飲む「サク飲み」「ちょい呑み」がブームだ。会社帰りに飲む機会が減り、アルコールを飲む人が少なくなり、人々の食や酒の趣味嗜好が多様化した結果、ブームは生まれた。そして居酒屋から人は少なくなり、ファミレスはその人達を取り込むことに成功した。今やファミレスで一杯飲んで帰る仕事帰りのビジネスマンたちを見かけることも少なくない。

創業当時、ワタミは居酒屋にファミレス需要を取り込もうとした。しかし皮肉にも、ファミレス需要の取り込みどころか居酒屋需要まで逃すことになってしまった。

マーケティングの基本用語に3Cという言葉がある。Company(自社)、Consumer(顧客)、Competitor(競合)の頭文字を取ったものである。マーケティング戦略を立てるうえで、これらの要素を整理するために使われる。ワタミは3Cすべてにおいて優位性を失ってしまった。

ワタミが復活するためには、まず渡邉氏の成功体験を捨てることだ。渡邉氏の成功体験に基づいて作られた理念、システムが強すぎたばかりに、自社内の問題が起きた。そして、それ以上にマーケティング戦略を十分に練ることをしなくなり、競合の出現に備えられず、負けることになった。ワタミがやるべきことはシンプルだ。社員一人一人が考える力を取り戻し、行動に移せる状況を作ることなのだ。
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