マーケティング/マーケティング事例

アイス10万個無料配布 体験型広告で得を取る仕組み(2ページ目)

7月19日(土)・20日(日)、明治は渋谷でアイス「エッセルスーパーカップ」10万個を無償配布しました。これだけ大規模なサンプリングキャンペーンは過去にあまり例がありません。なぜ明治はこのようなサンプリングキャンペーンを仕掛けたのでしょうか。その目的と費用対効果についてマーケティング視点から解説いたします!

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

キャンペーンの費用対効果(ROI)

このキャンペーンの費用対効果をざっくり割り出してみると、テレビCMを始めとする広告展開を行うよりも、ずっと割安なことがわかる。

10万人×50円(原価)=500万円

仮に原価を50円としよう。アイスクリームにかかる費用は500万円だ。そこにイベント運営やPR費用をかけても3000万円あれば十分お釣りが来る(今回は、男女モデルとバーチャルデート出来るコンテンツも用意している。それはキャンペーン結果には直接大きくは影響しないため、ここでは費用外とした)。費用タレントを起用したテレビCMを制作し放映すれば、それだけで1億円をあっという間に超えていく。10年前ならば、新商品の発表会にCM起用タレントを呼んでPRを仕掛ければ、少なくとも1億円、多ければ5億円程度の広告効果が期待できた。ところが最近では、タレントを起用した発表会であっても記事にならないことが増えてきた。高額にも関わらず、広告は無視され、発表会はメディアに取り上げられないというケースはどんどん増加している。その一方、「エッジの立った情報」はソーシャルメディアで拡散される傾向が広まっているのだ。

本キャンペーンによってマスメディアやソーシャルメディアに出た記事やニュースを広告費用に換算してみると約1~2億円程度だ。マスメディアを使った広告展開をするよりも、今回の無償配布キャンペーンの方が費用対効果は高い。これはあくまで露出度だけの話だ。もっと重要なことは、今回のキャンペーンが認知度を向上させること以上に、体験をさせるという点だ。その点まで踏まえれば、マスメディアを使った通常広告の数倍どころか10倍以上の効果の開きが出たことになるのだ。

実はマーケティング先取企業コカコーラも実施していた手法

マーケティングに優れた企業として、P&Gや資生堂とともに名を挙げられることが多い日本コカ・コーラ社。その日本コカ・コーラ社の代表的飲料であるコカ・コーラやスプライトはすでに類似の手法を展開している。

コーラ業界のプロモーションは興味深い。ライバルであるペプシが「味」の比較広告を展開してきたことは記憶に新しい。日本の広告にはなかった完全比較広告だ。そこでは、味でペプシを選んだ人が多かったという結果が出ており、それをCMを始めとする広告に展開した。

一方のコカ・コーラは「味」で対抗したのか。そうではない。コカ・コーラは「味の体験」で対抗しなかった。それには理由がある。誰もがコカ・コーラの味を覚えているからだ。そこでコカ・コーラがやったことは、コカ・コーラを飲んだ時の爽やかな気持ちを伝えるキャンペーンだ。エッジを効かせた「氷のボトル」を使ったキャンペーンだ。実際にビーチで提供される氷のボトルでのコカ・コーラ。さらに、そのボトルに近いものをクローズドキャンペーンやベタ付けキャンペーンのプレゼント賞品として用意した。

同社のスプライトも同じだ。コカ・コーラと同じようにスプライトも誰もが知っている味だ。だからこそスプライトを飲んだ時の気持ち(弾け飛ぶ感じ)をキャンペーンに落とし込むようにした。2013年には6mの高さからスプライトが落ち水が飛び散る自動販売機を設置した。この動画は1ヶ月で170万回再生という国内最高数の再生回数を記録した。これだけ見てもソーシャルメディアの力がわかる。今年は、スプライトをカートに入れると、人の乗ったカートが動きだし水のシャワーに突入するというキャンペーンを展開している。

マーケティングコンサルタントからの提言

このイベントは70%成功だった。残りの30%は何か。欲を言えば、パルコ前だけでなく、スーパーカップを食べる人達が渋谷全体に拡散していけば、リアルにおいてもソーシャルメディアにおいてももっとバズが拡散し話題になったはずだ。また、アイスクリーム配布と同時に行われていたイベント「バーチャルデート」も見せ方や運営方法は改善できたように見受けられた。ただ明治とすれば、このプロモーションの目的は達成し、費用対効果も満足できたはずだ。

今後、情報は今以上に増えていく。またソーシャルメディアはますます強くなっていく。将来的には、このような”エッジの効いた体験キャンペーン”はますます増えていくことになる。これは大企業だけでなく、中小企業にも大きな力になる。広告予算があるから出来るメディアありきの広告ではなく、企画力さえあれば出来るPRだからだ。今回のプロモーションは大企業だけでなく、中小企業のマーケティング担当者にも、ぜひ取り入れてもらいたい好例だ。
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