マーケティング/マーケティング事例

ゴディバ、バーバリー直営化 変わるブランド戦略の謎

ゴディバ、バーバリー。最近、海外ブランドの戦略が変化している。ライセンスから直営化へと転換する海外ブランドが増えている理由について解説します。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

ゴディバ、バーバリー 続くライセンス契約終了の動き

現在、日本で250店を構えるゴディバ。2015年3月をもって、ゴディバは食品輸入商社大手の片岡物産との契約を終了し、ゴディバジャパン(1994年設立)が全店を運営することを決定した。片岡物産は、1972年からゴディバからライセンスを受け、百貨店内の127店を展開している。

アパレル大手の三陽商会は40年以上に渡って続けて来たバーバリーとのライセンス契約を2015年6月で終了することを発表した。既存の店舗に関しては、別の人気ブランド、マッキントッシュ フィロソフィーのファーストライン、マッキントッシュロンドンに順次差し替えていく予定だ。一方のバーバリーは直営店展開を強化する予定だ。

ゴディバやバーバリー、なぜライセンスから直営店に切り替えるブランドが増えているのだろうか。

かつては「高級チョコ=ゴディバ」だった

かつては「高級チョコ=ゴディバ」だった


海外ブランドがライセンス戦略を進めて来た理由

海外ブランドが日本に進出する際には、直営店よりもライセンス契約を結ぶケースが多い。それには理由がある。一番大きな理由は「流通」だ。外資系ブランドにとって、一から自前の流通網を構築することには長い時間と労力を要する。これは日本市場に限ったことではないが、特に日本の場合には大きい。言語の問題はもちろん、世界の中でも特に流通の力がメーカーよりも強いからだ。アパレルのバーバリー(三陽商会)、チョコレートのゴディバ(片岡物産)、自動車ではメルセデスベンツ(ヤナセ)など、業種はさまざまだ(ヤナセは1990年代までに外国車ブランド日本法人に輸入権を委譲した)。

直営店ではなくライセンス契約からスタートすることで、ブランドが直接得られる利益額は最初は少なくなる。しかし、自前で流通網を築くことを考えれば投資コストが少なく済む。したがって、日本市場で成功するために海外ブランドは日本の大手卸とのライセンス契約からスタートするのだ。そして、日本市場にブランドが定着したと判断した段階で、ライセンス契約から直営契約へと切り替えるのだ。

ライセンス契約から直営店に切り替える理由

ゴディバやバーバリーだけでなくさまざまな業界でライセンス契約が終了する動きが徐々に目立って来た。この動きが加速して来た背景には、以前よりブランドを際立たせなければならないマーケティング理由がある。例えば、かつて高級チョコの代名詞と言えばゴディバであった。しかし今やピエール・マルコリーニなどをはじめ高級チョコ市場にはたくさんのブランドが登場し、高級チョコ市場は激化している。「高級チョコ=ゴディバ」という以前のような盤石のポジションにはない。

高級チョコ市場だけでなく、多くの市場で競争は激化している。アパレル市場もまたしかり。長い間、日本人に愛用され続けて来たバーバリー。女子校生の誰もがバーバリーのマフラーをしていた時代もあったほど、多くの人が一度は所有したことがあるブランドだ。ただ、ゴディバと同じように、バーバリーも以前のようなブランドポジションを失っている。海外ブランドだけでなく、渋谷109に代表される日本ブランドも含めた市場が激化したためだ。

市場での競争が激化すればするほど、ブランド力が重要になってくる。ゴディバやバーバリーが日本企業とのライセンス契約を終了し、直営店化に切り替えている背景には「ブランド再強化」という理由があるのだ。

ブランド再強化のキモは「人」にあり

ブランド再強化のもっとも大きなものは、ブランドイメージをより強く打ち出していくというものだ。ライセンス契約の場合、ライセンシー(ライセンスを受ける企業)は、必ずしもそのブランドだけを扱っているわけではない。競合ブランドも持っていて、売れるものを売っていこうというスタンスだ。そして、ライセンシーがブランドイメージを守るよりも売れることを優先することもよくあるケースなのだ。長期間このようなケースが続けば、ブランドイメージは少しずつ薄まってしまうことが往々にしてある。

イメージだけではない。昨今では「人」の問題も大きい。ここ数年、ブランディングにおける「人」の要素はますます重要になって来ている。店頭の販売員、お客さま相談センターの対応など。年初、関東地方を襲った大雪で山崎製パンのトラックの運転手がパンを無料で配布したことによって山崎製パンはブランドイメージだけでなく、株価まで上昇することになった(関連ブログ:「歴史的大雪で山崎製パンが得たもの、テレビ局が失ったもの」)。
一方、芸能人やスポーツ選手のプライベートをSNSで暴露してしまったり、悪ふざけをする行為によって痛手を被ったケースも出た。広告やPRでブランドイメージを向上させることは重要だが、それとともにブランドイメージ向上における「人」の重要性もかなり高まっているのだ。

一般的に、卸や代理店を使うよりも直営店にした方が、ブランドのビジョン、行動規範、目標などは、強くスタッフに伝わる。ブランドについて思い入れがあったり、特徴を語れる人の話や態度の方が、ありきたりの説明よりも人々の心には伝わっていく。このような状況だからこそ直営店化の流れは加速しているのだ。余談だが、マクドナルドの不調の大きな原因はFC化の推進にある。FC化の推進にスタッフがついて来られず、それが言動でお客さんに伝わってしまっている(関連記事:「マクドナルドと109で見る企業成功への分岐点」)。

ブランド直営化の背景には、ブランド強化の狙いがあり、それを支えるもっとも重要なものとして「人」の存在があるのだ。中長期的に見れば、ますます「人」の重要性が高まってくる。海外ブランドが世界の中でも日本市場を重要だと考えているかぎり、直営化の動きはますます加速していくことだろう。
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