マーケティング/マーケティング事例

若者のビール離れは止められないのか?

今の若者はビールを飲まなくなったとよく言われます。ただ、その一方でオクトーバーフェストが人気になるといった状況があります。若者がビールを飲みたいと思うためにはどんなことが必要なのでしょうか。わかりやすく解説します。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

今どきの若者事情

表参道で興味深い求人票を見た。表参道ヒルズのレストランよりも、オシャレなカフェよりも牛丼チェーンすき家の時給の方が高いというものだ。しかも、すき家の方がフレキシブルな勤務シフトになっている。すき家には多くの客が訪れている一方人手不足は 深刻だ。これにより閉店や営業時間短縮に追い込まれている店舗も多数ある。すき家に限らず牛丼チェーンのスタッフの高齢化、外国人化は日々加速している。給料が高くてもキツい仕事を避け、給料が安くても楽な仕事を選ぶ若者が増えているのだ。キツいこと、いやなこと、自分の意思と反することを出来るだけ避ける若者が日本には増えている。

人付き合いでも同じことだ。会社の上司や先輩などとはあまり飲みに行かない。その代わり地元や学生時代の友人、ソーシャルメディア上で知り合った趣味嗜好の合う人とは積極的に会う。自分にとって心地良くない時間や付き合いを避ける若者が多くなった。

若者がビールを飲まなくなったわけ

この若者の変化は、ビール業界にも大きな影響を与えている。多くの人が人生で初めてビールを飲むのは、大学などサークル、クラブやコンパなどか、会社での飲み会の席だろう。私もそうだったが、最初からビールを美味しいと思える人ばかりではない。最初は、苦くて何が美味しいのかわからずに飲んだり、飲まされたりという形から始まった人も少なくないはずだ。先輩や上司から無理矢理すすめられて飲むようになり、徐々にその苦さが美味しさとして感じられるようになる。ビールのきっかけとはそんなものだ。

今の若者がビールを飲まなくなったのは、儀式のような最初の体験が必要ないからだろう。「とりあえずビール」という決まり文句は無く、最初の一杯からそれぞれが飲みたいものを頼んで飲む。それ以前に、そもそも飲みに行くことが少ない。当然だが、居酒屋でアルコールをとことん飲む「飲み放題」というシステムは若者には流行らず、喜ぶのは中高年のサラリーマンばかりだ。ビールを飲む必然性がなくなった若者に、ビールを好きになるきっかけは減っている。

サッポロ「ホワイトベルグ」はなぜ人気になったのか


WHITE BELG

WHITE BELG


最近のビール業界のヒットと言えば、ベルギーのビール賞(iTQi優秀味覚賞三ツ星)を受賞したサッピロビールのホワイトベルグだ。見た目はビールそのものなのだが、従来のビールとはちがった華やかな香りとマイルドな味わいが人気になっている。製造面では、日本の大手メーカーが従来から行っていた製法とは異なり、ベルギービールのような製法を取っている点が特徴だ。人気になった理由は、製法の違いではなく、ビールらしくない味そのものだ。そして、その味を作るように導いたマーケティングの力でもある。

最初に述べたように、若者のビール離れは顕著だが必ずしも止められないものではない。

最近、ビールを飲む若者の中で、地ビールを飲む人達が徐々に増えている。この背景には、地方のゆるキャラブームやB1グランプリの影響によって生み出された地方B級グルメブームもある。地方グルメを食べるならば、地方のビールを合わせたい。最近の若者を見ると、高級フレンチに行くよりも、このような組合わせの方に幸せを感じる人が増えているのだ。

また、外ではなく自宅で過ごす”うち飲み”のような機会や、一人で自宅にいる時間が増加した結果、自宅でゆっくり楽しめるアルコール需要が高まったことも考えられるだろう。そこを捉えてマーケティング戦略を上手に組み立てたのがホワイトベルグだったのだ。ホワイトベルグの香りや味わいは、ビールを飲まない若者の取り込みも明らかに意識している。ビールらしくない味、本場ベルギーのビール賞受賞というニュース性、オシャレなパッケージは、今まで興味の持てなかったビールのイメージとのギャップだ。ホワイトベルグが若者にも人気の一つの理由だと言える。

あらたなビールブームの生まれ方

今の40代以上には、引き続き第3のビールを中心に売れて行くだろう。では若者を中心にした あらたなビールブームはどのようにして起きる可能性があるのだろうか。ブレイクするポイントは以下の3点にまとめられる。

  1. ギャップ&話題性
  2. イベント

ブレイクのためのポイント1:味

まず一つ目は”味”だ。ビールの苦みを良しとしない若者にビールの魅力を伝えることは難しい。マーケティング的に不可能ではないが相当な力を要する。広告代理店には「苦みがあるから人生だ」というようなクリエイティブコンセプトで広告やプロモーションなどを提案するかもしれない。しかし、なんとなく受けそうなギミックを作ることはできても、実際の効果はあまり得られないことは経験上明白だ。

若者に受けるためには、ギミックではなく味そのものが重要になってくる。ホワイトベルグが従来からの製法を変えて、味や香りを独自のものにしたように、他のメーカーも別の製法で味や香りを変えられるはずだ。例えばドイツに行けば各都市ごとに地ビールが存在し、同じビールと言っても味も香りも色もまったく違う。日本でも土地ごとに味の異なる地ビール人気が高まっている。この状況を見れば、既存のビールとは異なる味のビールにはますますチャンスはあるはずだ。

ブレイクのためのポイント2:ギャップ&話題性

二つ目は”ギャップ&話題性”だ。 ”ギャップ&話題性”は今の若者のマーケティングを考える上で重要なキーワードの一つだ。彼らにとって、日々の出来事をソーシャルメディアで発信することは日常茶飯事となっている。特に食事は顕著であり、レストランではそこかしこでパチパチ写真を撮影している。彼らがソーシャルメディアでアップするのは、人に見られたい写真だ。特に”ギャップ&話題性”のある写真や情報はアップしたくなる傾向にある。

ここで外せないのは「口コミ」の力だ。マスメディアを中心とした企業主導の広告が若者に効きにくくなり、口コミの重要度が高まっている。リアルな口コミだけでなく、ソーシャルメディアの繋がりによる口コミも重視される。ホワイトベルグのように、多くの人が思っているイメージとはとは違うというギャップ、本場ベルギーのビール賞三ツ星を獲得したという話題性は、若者にとっては味と同じくらい重要なものなのだ。

その視点に立てば、40代以上のコアなビール好きには受け入れられなくても、若者には一度は飲んでもらえる可能性は高くなる。ストロベリーやマンゴー 風味のビール、本場ドイツでもっとも人気のある醸造所がプロデュースしたビール、レッドブルのようなエナジー系要素を打ち出したビール、ビールに見えないオシャレやカワイイパッケージやデザインのビールなどアイデアの切り口はいろいろあるはずだ。

ブレイクのためのポイント3:イベント

三つ目は”イベント”だ。 2013年は空前のゆるキャラブームが到来した。ゆるキャラが来るイベントには人だかりができた。あまりの人気におっかけまでいるゆるキャラもいるほどだ。地方を代表するゆるキャラだが、地方のB級グルメの頂点を争うB1グランプリの人気も衰えなかった。しかし、このブームもいつかは終わる。2014年になり、ゆるキャラブームもB1グランプリも昨年ほどの勢いをなくす中で、地域活性化に向けて新たなイベントやプロモーションを仕掛けた方が良いと感じている地方自治体もある。

例えば、地方自治体と協力し、全国各地のビールを一同に集めたイベントを行う。そこでは地域地域の料理と地域のビールを最高のマッチングで楽しめるようにしたり、ビールのグランプリをを決める。上位のものはビール会社から全国発売する。それだけではない。ビール会社は公開テストとして開発段階の商品を若者に飲んでもらい、意見をもらえば良い。それを反映して商品化する。若者にしてみたら、自分たちも開発過程で携わったものが世の中に出て行くことは、他の人にも知らせたい情報になるはずだ。

今の若者は”モノ”よ り”コト”を重視する。ビールの味を一生懸命追求することは重要だが、その前にビールを楽しんでもらうことも重要だ。その意味では、若者のビール離れを嘆くにはまだ早く、ビール人気が向上するために出来ることも多いのだ。
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