マーケティング/マーケティング事例

マクドナルドと109のケースで見る企業成功への分岐点

マクドナルド、ワタミが業績低迷した理由は「人」にあります。一方で、マルキューのように「人」が業績を向上させるケースもあります。今、かつてないほど一人一人のスタッフ・社員が企業の業績に与える影響は大きくなっているのです。その背景とメカニズムを解説します。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

成功企業の代表だったマクドナルドとワタミ

企業が成功するかしないかにはさまざまな要素がある。「人・金・モノ」に始まり、マーケティングの4P(Product・Price・Place・Promotion)などが代表的なものだろう。今回はマクドナルド、ワタミ、渋谷109などの事例を見ながら、企業の成否を分けるポイントについてひも解いてみよう。

マクドナルド、ワタミ。カリスマ経営者が存在し、企業は成長し続け、成功企業の典型として取り上げられて来た両社。今やその面影は感じられない。マックカフェを始め、打つ手打つ手が裏目に出て、メイン顧客層であったファミリー層が離れ、店員からスマイルがなくなったマクドナルド。労働条件の厳しさからブラック企業と言われ、労働条件改善のために営業時間の見直しや店舗閉鎖を迫られて、ついに赤字に陥ってしまったワタミ。以前の両社は、他企業よりも明確なビジョン、コンセプトに加え、料理の作り方だけでなく店頭の販売方法や掃除にいたるまで、どの店にいっても統率の取れた画一的なオペレーションを誇っていた。しかし、この2社が軒並み業績を下げ、企業イメージを落としている。それは偶然の一致ではない。ポイントは「人」にある。

「人」で失敗し続けているマクドナルド

マクドナルドやワタミはなぜ低迷しているのだろうか。まずマクドナルドを見てみよう。マックカフェ以降のマクドナルドを見ていると、店はオシャレになった反面、以前のような活気がなくなったように思われる。魅力的なメニュー開発をいくら心がけようと、店員に魅力のない状況ではマクドナルドの本格復調はない。マクドナルドにとってスタッフの魅力は最重要要素だ。店員教育とともにスタッフががいきいきと働くことの出来る環境を整えることこそがマクドナルドにとって復調のカギなのだ。

ワタミも同じだ。かつては店員がキビキビと働き、フレンドリーで楽しい雰囲気があり、ワタミに行くと楽しくなった。しかし最近では、必ずしも店員がいきいきと働いているようには見えない。ブラック企業と言われることもあるように、スタッフが楽しくイキイキと働くことの出来る環境ではないのだろう。それがスタッフの態度に出て、お客さんの目に明らかになっているのだ。現在、労働環境の改善を進めているワタミ。ワタミの復調も「人」にかかっているのだ。

「人」で成功している渋谷109

「人」で成功した企業の代表例は渋谷109(マルキュー)だ。109が十数年に渡り日本の女性ティーンの聖地のような場所であり続けるきっかけとなったのは、マルキューで働くカリスマ店員たちだ。店の情報以上に、カリスマ店員のファッションや言動に注目が集まった。彼女達が注目されることで店のイメージが高められ、さらに注目が集まり、店の売上げも上がった。一軒一軒は小さな店だが、まさに「人」の魅力が店を左右するようになり、日本のファッションの中心にまでなったのだ。

別の例で言えば、リッツ・カールトンが挙げられるだろう。現場のスタッフ一人一人に権限と予算を与えることで、客に最高のホスピタリティを与えようとするものだ。すべての対応がうまくいくことはないが、長期間に渡って素晴らしいホスピタリティを評価され続けているということは現実だ。現場の一人一人を重視することで成功している企業と言って良いだろう。

「人」が重視され、「広告」が軽視されるようになった背景

テレビが家庭の中心であり、学校や職場での話題の中心であった時代、数々のテレビCMも話題になった。2000年頃からインターネットが本格普及したことで、世の中の情報量は圧倒的に増え、それに伴って人々の興味関心事や趣味嗜好も多様化していった。テレビドラマやプロ野球の話が人々の共通の話題ではなくなった。それだけではない。人々はあまりに多くなった情報をスルーするようになった。

スルーされるようになった筆頭格が広告だ。広告主や広告会社からすれば、スルーされればされるほど、人々に訴えようとインパクトある広告作りをしようとしてしまいがちだ。その結果、いまだに広告はスルーされ続けている。スマホが登場したことで、広告はさらにスルーされるようになった。不可避的に見せられていた電車や駅の広告までもが歩きスマホによってスルーされるようになったのだ。

このような状況において、企業のイメージを決める重要な要素になって来たのが「人」だ。店頭で対応してもらった「人」の印象こそが、人々の企業イメージと大きくリンクする。その企業で働いたことがあったり、よく知っている「人」が発信する情報が、企業のイメージを代表するようになっている。

中小企業が大企業を凌駕出来る時代

こんなはずでは……

こんなはずでは……

店員ひとりひとりが企業の将来を大きく左右することはマクドナルド、ワタミ、マルキューの例を見れば明らかだ。昨今、その傾向がますます強くなっている背景にソーシャルメディアの存在がある。

以前、店頭でわるふざけをした写真を撮影しソーシャルメディアに投稿したバイトがいた企業は、そのことによって閉店したり、客数が大幅に減少することがあった。一人の店員によって企業は大きなダメージを被ったのだ。

別の例を挙げよう。2014年2月の大雪は日本全国に大きな被害をもたらした。地域によっては何日間も家から出ることが出来なかったり、車が道路に立ち往生したケースも発生した。長野県で道路に立ち往生した自動車に乗っていた人々に、持っていたパンを無償で提供したドライバーのいた山崎製パン。その一人の行動によって、企業イメージが大きく向上し、株価まで上昇した。

良い事例だけでなく、悪い事例でも、一人の「人」の言動によって、小さな情報は拡大し、拡散されていく。それが今の時代だ。言い換えれば、ソーシャルメディア登場以前には、企業の認知度やブランドイメージは、多額の広報宣伝費を持っている大企業が有利だった。しかし、ソーシャルメディアが普及した現在、大量の広告をしなくても、一人一人のスタッフの言動一つで大きな広報宣伝効果を得ることの出来る時代に変わったのだ。企業規模ではなく、企業質によって勝負が出来る時代には、中小企業が大企業を凌駕することも可能なのだ。

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