音楽はやはりビゼーの楽曲を使用する予定ですか?
金森>音楽は99%、もしかすると100%ビゼーの曲を使うことになるかもしれません。オリジナルの脚本を書く前に、まず原作とオペラの台本を全部読みました。その上でビゼーの組曲やバレエ版の音楽など数多ある曲を聴き、これはこのシーン、これはこのシーンと、シーンごとに見合った音楽を選んでいきました。例えばオーケストラ版にしか入っていない曲もあれば、大もとは同じメロディでもバレエ版としてアレンジされていて聴こえ方が違うものも沢山ある。それらを網羅して使っています。ビゼーの音楽だけを用いたのにはもちろん理由があって、まず聴いていると単純に自分自身の受けるインスピレーションが沢山あった。あと私の脚本と曲を並べたとき、どんどんはまっていったという事実もありました。それは音楽の持つ力、音楽自体が独立した表現芸術であるということを考えれば当たり前だし、曲を聴きながら脚本も変更して行ったので当たり前なんですが、全部はまるとは思わなかった。
19世紀、20世紀、21世紀を通してみなさんがご覧になってきたビゼーの『カルメン』を刷新したり、新たな『カルメン』をあえてお馴染みのビゼーの楽曲で提示することが、今回の私にとってのチャレンジであると考えています。
劇的舞踊『カルメン』リハーサル 撮影:遠藤龍
衣裳デザインはエタブルオブメニーオーダーズが、家具は近藤正樹氏が手掛けます。彼らとのタッグは今回が初めてですね。
金森>エタブルオブメニーオーダーズの新居幸治さんとは私がリヨンにいた20代前半の頃に会っていて、その頃からいつか何かできたらいいなと思っていました。2008年ごろに一度お願いしようとしたんですが、スケジュールが合わず、今回ようやく実現することができました。これは私自身も勉強したことなんですが、衣裳の新居さんも美術の近藤さんも、売るものをつくる方たちなんですよね。売るものをつくるときって、当然のように量産するし、そのために型をつくる。でも舞台芸術の衣裳や美術というのは一点物なので、型はつくらないんです。私も最初は簡単に考えていて、“そこ違うからちょっとこうして欲しい”なんて言ったりしたんですけど、彼らにしてみれば私が何か言うたびにまた新たに型をつくらなきゃいけない。例えばこの型のラインはこっちで使えるとか、私には全然想像もできない作業が必要で、ものすごく時間がかかるらしいんです。だから、毎日毎日言うことが変わると困ると(笑)。
どんなデザイナーであれ毎回そうですが、舞台芸術の現場は彼らが通常やっている作業とは異なるし、我々にとっても何でも言った通りつくってくれる方たちでは面白くない。できる限り彼らの特色を生かしつつ、互いに今回のプロダクションで新たなものを発見し、それをお客さんに提示する。それがコラボレーションの醍醐味ですし、相互関係で刺激し合いたいと思っています。