メンタルヘルス/心の病気の原因・症状・セルフチェック

スランプ状態でやる気が出ない……無気力と心の病気

【医師が解説】何に対しても無気力で、やる気が出ない……。こうしたスランプ状態がもし長引いていれば、場合によっては、うつ病、統合失調症などの可能性もあります。今回はそうした、スランプ状態に関わる心の病気を詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

無気力・スランプ・やる気が出ない……気持ちの問題か、心の病気か

スランプ状態でやる気が出ない……無気力と心の病気

スランプ状態でやる気が出ないのはなぜ?

誰にでも、何もしたくない、無気力な状態になってしまうことが、時にあるかもしれません。例えばもし睡眠時間が全然足りず、ひどく疲れていれば、何か新しいことを始めたくても、そんなバイタリティーは、もうないかもしれません。しかしそんな時でも、とりあえず仮眠を取れば、意外に元の自分に戻っていたりします。でも事態はそう簡単に解決しない場合もあります。もしそのスランプ状態が、理由もなく幾日も続いていれば、場合によっては、心の病気に近くなっている可能性もあります。

一般にバイタリティが何らかの日常ありがちな理由で低下すれば、一時的とはいえ、かなり無気力・無関心の状態になる可能性もあります。その際は、人の日常に起き得る、問題の一つが起きた…といった事になりますが、こうした問題は、実はもしそれが長引いていれば、場合によっては心の病気の症状として現れている可能性もあります。今回はそうした、バイタリティが長期間低下している時、気をつけたい心の病気を詳しく解説します。

<目次>  

無気力・スランプ状態は、心の病気が原因のケースでは気付きにくい?

もしやる気が低下して、ひどいスランプ状態になれば、日常生活に何か支障が出てきます。例えば、やるべき事へのモチベーションをなかなか維持できない。場合によっては、1日中テレビのスイッチを入れたまま、テレビの前のソファでぼんやり時間を過ごしてしまうかも…。もっともそんな事がたとえあっても、それは一時的な話でしょうが、場合によっては、以下に挙げる問題が、幾つか該当する可能性もあります。
  • 顔の表情が普段よりもかなり乏しい
  • 物事に対して喜怒哀楽を覚えにくい
  • 「何かをやりたい」「何かを達成したい」といった、気持ちがすっかりなくなっている
  • 周りの人間や物事への興味がわかなくなっている
  • 当人との会話は、以前と比べると、かなり表面的な受け答えで、当人の気持ちが相手になかなか伝わりにくい
  • 周りの人間から認められたい、といった社会的欲求がかなり低下している
もしもこうした問題が幾つか該当し、その状態が長引けば、日常生活に出てくる支障はかなり深刻かもしれず、その際は心の病気の可能性もあることに、充分注意したいです。でも当人自身は、そうした状況で、自分自身に精神科で相談したい問題があることに、かなり気付きにくいです。一方、他人の目からは、当人に問題があること自体は気付きやすいでしょうが、当人の気持ちのありかたや生活態度の問題だと誤解しがちです。たとえば「あの人は最近、覇気に欠けている」「話をしてもつまらない」などと、まわりにはネガティブな印象を与えるだけで、こうした問題が実は心の病気に関連する可能性には、まわりはなかなか気付きにくいです。
 

うつ病、統合失調症など、スランプ状態には心の病気の可能性も

もっとも、こうした不調が一時的な問題ならば、心の病気がそれに関わる心配は、通常無用です。しかしもしそのスランプ状態が仮に数週間も持続すれば、場合によっては、うつ病や統合失調症など、心の病気が関わる可能性もあります。

それで、スランプ状態の原因になり得る、心の病気の例として、上では第1に、うつ病を挙げましたが、うつ病では、その名の通り、気持ちの病的な落ち込みから、一般に抑うつ症状と総称される問題の幾つかが、はっきり問題化します。その問題の内容や現われ方には個人差がありますが、一般的に現れやすい問題として、意欲の低下や物事への興味の減退など、スランプ状態につながる、いわば精神エネルギーの低下といえるような問題はかなり現れやすいです。

一方、次に挙げた統合失調症は、その発症時には妄想や幻覚などが中心的な問題として現われやすいですが、その経過のなかで、意欲の低下や喜怒哀楽に乏しくなるなどの問題が、一部のかたに出てくる可能性があります。実際、スランプ状態に関わる問題として、上に挙げた、その6つは統合失調症の陰性症状でもあります。それで言葉の説明ですが、陰性症状という言葉の中にある、「陰」という語は、本来、その人に見られるべき情動や喜怒哀楽などが欠落する、その欠落を意味します。ちなみに、この疾患の発症時に現れやすい幻覚や妄想は陽性症状と呼ばれます。その「陽」は「陰」とは真逆で、幻覚や妄想のような、本来現れるべきでない問題が、この疾患を患ったがために出てきた、その出現を「陽」という語は意味します。

なお、統合失調症の陽性症状は治療薬で比較的コントロールしやすいですが、陰性症状に関しては治療薬の効き目は残念ながら、今1つ、といえるような現状です。これを裏返せば、陽性症状の原因になっている脳内の問題は陰性症状のそれとはかなりタイプが違う可能性があります。この疾患のメインの治療薬、抗精神病薬は、陽性症状の問題になっている脳内の問題には、かなりしっかり対処できますが、陰性症状のそれには、充分対処できていないともいえます。この現状においては、陰性症状に充分対処できる治療薬を開発することは、統合失調症の重要な研究課題の一つです。また、統合失調症の基礎知識として、統合失調症の中には、陽性症状はそれほどはっきりしない代わりに、陰性症状がかなりはっきり出てくるタイプもあります。

その他、バイタリティの低下に関わる心の病気として、例えば対人恐怖症もそうです。実際、対人恐怖症では、人と関わる状況を避けやすく、それゆえ場合によっては、「他人から認められたい」といった、社会的欲求が低下していく可能性もあります。また、もしも上で挙げたような問題が、言わば当人の気質のようになっていれば、場合によっては、パーソナリティ障害と診断できる可能性も出てきます。
 

無気力・スランプ状態が長引く場合、精神科受診も検討してみてください

もしも、バイタリティの低下の原因が心の病気ならば、出来るだけ早く精神科(神経科)を受診すべきです。とはいえ、その不調が日常レベルのものか、それとも心の病気に近いのか、その見極めはなかなか難しいかもしれません。一般に、その際のポイントは2つあります。まず、その問題がどの位の期間、続いているか? そしてもう一つは、その問題が原因で日常生活にどんな問題が出ているか? 具体的な目安としては、もしもそうした問題が2週間以上続いていて、それゆれに日常生活上、何か問題がはっきり現れていれば、精神科受診も考慮してみることを、強くおすすめします。

なお、本人がたとえ無気力状態になっていても、周囲の目には、それが病的だとは、なかなか認識できないものです。例えば、子供の学校の成績が急低下したり、自分の部屋に引きこもるようになった場合、その原因に関しては、その年頃で、ありがちな問題と結びつけてしまうかもしれませんが、場合によっては、治療が必要な、心の病気の可能性もあることは是非覚えておいてください。

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