学習性無力感とは……過去の失敗による無気力状態

学習性無力感の克服・対処法

「前も挫折したからどうせ無理」「毎回できないからやっても無駄」……。仕事、勉強、恋愛などに対して全く気力が沸かなくなった場合、「学習性無力感」が原因の可能性があります

何かをきっかけに気力を失ってしまうことは、少なからずあるものです。たとえば定年退職を機に生活に張り合いがなくなり無気力状態が続いたり、大切な人やものを失ってしまったことが原因で無気力状態に陥ってしまったりすることもあるでしょう。

しかし、やってみたい気持ちよりも「やっても無駄」といった諦めの気持ちの方が常に強くなっている場合や、これまでチャレンジしてきたことに対し再チャレンジする意欲が全くわかなくなってしまっていて、それが長期的に続く場合、心理学用語でいうところの「学習性無力感」に陥っている可能性もあります。

学習性無力感とは、過去に何らかの困難な状況に置かれて、それに全く対処することができなかった体験から、「無気力になること」で心理的に折り合いをつけてしまった状態を指します。病名ではなく心理学用語で、英語では「earned helplessness」と言います。「学習性無気力」「学習性絶望感」「獲得された無力感」などと訳されることもあります。

今回は、深刻な無気力の原因になりやすく、うつ病などの心の病気につながるリスクもある、この学習性無力感とその克服法について、詳しく解説します。
 

日常生活から充実感が失われる無気力状態

毎日気力があることは、充実した生活、ひいては充実した人生を送る上でとても大切な要素です。一方で、一時的に無気力になってしまうことは誰にでも経験があるでしょう。一種のスランプ状態もそうですが、ストレスによる一時的な症状としての無気力も多く、ほとんどの場合は少し休んだり、何かリフレッシュしたりすることで元の状態に戻ります。

しかし、無気力が長期間続いてしまう場合はやはり注意が必要です。学習性無力感に陥ると、日常生活レベルでも新しいことにチャレンジしにくくなり、より深刻な無気力に陥ってしまう可能性もあります。また、無気力な状態は傍からはネガティブな態度に見られやすいものです。無気力状態が続くと、自尊心の低下や気持ちの落ち込みといったさらなる問題が起こることも少なくありません。
 

学習性無力感の原因・メカニズム……虐待経験や苦手意識なども

学習性無力感は、籠の中で育った鳥がいざ籠の戸が開かれても外へ飛び出そうとはしない状況などに例えられることもあります。学習性無力感の概念は、この分野の世界的権威である米国の心理学者マーティン・セリグマン(Martin E. P. Seligman)氏などが手がけられた、1960~70年代の動物実験などを通じて確立しました。

この動物実験では、動物を自分では回避する術がないストレス状況にしばらく置くと、やがて無気力状態になり、回避しようとする行動すらとらなくなること、さらにはあたかもうつ病を思わせるような問題が現れ始めたことが報告されています。

これは人間にも当てはまる部分があります。誰でもある程度の期間、回避する術が全くないような状況に置かれると、自分の状況を諦めて受けとめるしかなくなります。

そのため人によって学習性無力感の原因は様々です。自分では解決困難で、対処する術が全くないような辛い状況として、小児期の辛い体験が原因になることも少なくありません。たとえば親からネグレクトなどの虐待があった場合です。具体的には乳児は泣くことで親に自分の要求を伝えようとしますが、もし毎回親から泣き声を無視され続ければ、次第に泣くことすら諦めてしまうことがあります。また、学校で苦手科目に対してすっかり自信を失ってしまい、「自分は何をやってもダメだ。悪い子供だ」といった自己否定のような気持ちまで強まってしまうのも、学習性無力感の一つです。
 

学習性無力感への対処法……まずは認識することが第一歩

気力がわかない原因が学習性無力感のせいかは見極めが必要です。まず日常生活においてチャレンジする意欲が全くなくなっている状態かを考えてみましょう。もし意欲がない状態が続く場合、自分自身のポテンシャルも全く発揮できていないと感じる状況ならば、特に注意が必要です。

まずはその状態がいつから始まったことなのか、そしてそのきっかけは一体何だったのかを考えてみてください。それらをはっきりさせ、自分の無気力の原因が「学習性無力感」によるものだと思ったならば、この点をしっかりと認識することが無気力から抜け出すための第一歩になります。
 

学習性無力感の克服法……無理のない目標で達成感の積み重ねを

学習性無力感から抜け出すためには、新しく何かにチャレンジしていく気持ちを「学習」していくことが大切です。言葉を変えれば、自分の未来に希望を持ち、自分がしていることに、そしてこれからしていくことに自信が持てる状態に自分を変えていくのが克服のプロセスだと言えます。

言葉で説明すると簡単に感じられるかもしれませんが、いざ実践していくためには、その障害になる心理的問題から克服していかなくてはなりません。「どうせやっても無駄」「自分にはその能力が足りない」「どうせ他人に笑われるだけ」といった観念がもし頭に浮かびやすくなっている場合、何かにチャレンジするのは大変なもので、何もしないでいる方が気持ちが楽な可能性もあります。大きな目標を立てて挫折してしまったら逆効果なので、まずは「自分に達成できる何かを行う」ことが大事です。小さな目標を立て、無事できたら少し自信をつける。そしてまた、自分なりの次のチャレンジを考えて挑戦する……といったように、一気に大きなゴールを目指すのではなく、その時自分に可能なレベルで段階的にゴールへと近づいていくことが、着実に頑張り続けるための道です。
 

カウンセリングや認知行動療法なども有効

また、自分の力だけではうまくいかないと感じた場合、カウンセリングを受けるなど、専門家の力を借りることも検討してみてください。自分自身の問題は、自分では気づきにくくても、他人の目から見ればシンプルで分かりやすいこともあります。「どうせやっても無駄」といった心理的な問題に対処するためには、認知行動療法などの心理療法が望ましい可能性もあります。

また、場合によってはうつ病など心の病気のレベルになっている可能性があることにも注意が必要です。もし仮にも死にたい気持ちが強まっているような場合、すでにうつ病が重症化している可能性もあります。至急精神科を受診し、必要な治療を受けることを強くおすすめします。

以上、今回は長く続く無気力の原因の一つとして、学習性無力感を取り上げました。最後に繰り返しますが、もし無気力状態で自分に自信を持てず、何かにチャレンジすることがすっかり減じている場合、過去に無気力を学習してしまったきっかけがないか、学習性無力感が関わっている可能性がないかも、ぜひ一度考えてみてください。

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