精神疾患の中でも特に多い病気「恐怖症」

蓮の実・ブツブツ

恐怖感、不快感を感じるものは人それぞれ。何ともない人にはただの「蓮の実」の写真でも、鳥肌が立つほど気持ち悪く感じてしまう人もいるのです。

「できれば見たくないほど嫌い」「見ただけで鳥肌が立つほど気持ち悪い。生理的に受け付けない」といった苦手なものがある方は、少なくないかもしれません。例えば、突然目の前にゴキブリが現れたら、噛まれるような実害はないにも関わらず、気持ち悪さや恐怖感で悲鳴をあげてしまう方は多いのではないでしょうか。

こういった嫌悪感や恐怖感は、日常生活で大きな問題になることは少ないでしょうが、もし仮にそのような不快な気持ちが強すぎる場合、「恐怖症」の可能性も考えなくてはなりません。

実は「恐怖症」は、精神疾患の中ではもっとも頻度の高い病気の1つ。仮に100人の人がいれば、そのうちの5~10人は日常、強い不安や恐怖を覚える何かしらの対象があり、それに対して精神科的な対処を受けることが望ましいと推定されています。

今回は恐怖の対象として、小さな穴の集合体やブツブツなどを怖く感じる「トライポフォビア」について、詳しく解説します。

小さな穴の集まりが怖い? トライポフォビアとは

「トライポフォビア」という言葉は、実は現在の精神科における正式な病名ではありません。「フォビア(phobia)」は英語で「恐怖症」を指す語ですが、その前部分に恐怖の対象となるものの名称を、ギリシア語などの古典的な言葉で入れて使われることが多いです。

例えば、閉所恐怖はクラストフォビア、水を怖がる際はハイドロフォビアと言います。そしてこのトライポフォビアの「トライポ」は「小さな穴」を表すギリシア語由来の語です。

蜂の巣や蓮の実などの小さなブツブツの集まりが苦手だという人は以前からいたはずですが、これを表す「トライポフォビア」という言葉は、10年ほど前、ネット上で誰かがこの言葉を使用してから広まったと言われています。

恐怖症の好発年齢・原因……別のものへの恐怖感が影響することも

恐怖症の発症年齢にはピークが2つあります。5歳から9歳までの小児期と、20代前半の2つです。

5歳から9歳までの小児期に現われやすい恐怖症の対象は、動物や雷、地震など自然現象などが多いです。一方、広場恐怖など社会的な状況に対する恐怖症は20代に発症ピークがあります。トライポフォビアを覚える方は対象が模様なので、子供の頃からそれが苦手だったかもしれません。

恐怖症の発症要因は他の精神疾患と同じく不明な点が多いですが、精神分析などを通じて心理的な要因がはっきり分かることもあります。

例えば犬、猫など動物への恐怖は小児期に現われやすいものですが、その要因として、これから大人になっていくためにクリアしなくてはならない、その時期特有の発達課題が関わっている場合もあります。少し専門的ですが、その有名な例として「馬に恐怖を覚える少年」の例があります。精神医学の大家であるフロイトが、馬に強い恐怖を感じる少年の精神分析をした際に、その年代特有のエディプス・コンプレックスと関連して説明された、というものです。その内容はごく簡単に言うと「少年が本来恐れる対象は実は父親だったが、現実的には父親を恐れることができないので、代わりに(自覚なく)馬を恐れるようになった」といったもので、その少年の恐怖症に関しては精神医学的には大変素晴らしい説明になっています。

この例と同じく、実は違うものこそが本来の恐怖の対象や危険を感じるものであるにも関わらず、それとイメージが関連するものに生理的な恐怖や嫌悪を覚える例もあります。トライポフォビアの場合、その模様の特徴は、視覚的にインパクトのあるブツブツや小さな穴の集合体です。これらの「模様」が直接体に害を及ぼすことはないでしょうが、例えば感染症などが原因で起こる皮膚の症状や、危険を感じさせる動植物など、何かしら自分の身体に害を及ぼすものを想起させている可能性もあります。

小さなブツブツが連想させる「何か」に普段から不安を感じている人の場合、本来そのものの持つ危険性以上に、大きな不安を感じてしまう可能性があるのです。

恐怖症は克服すべき? 治療の目安と治療法

「恐怖症」は軽いものであれば、なるべくその対象を見ないようにすればよいだけで、日常生活に支障をきたすことはないでしょう。

しかし恐怖症の症状が強い場合、うつ病やアルコール依存など他の精神的な問題も伴いやすい傾向があります。実際、言葉では説明できないくらい生理的にひどく嫌いなものや状況があれば、それが生み出すストレスは非常に高いレベルになる可能性があり、ストレスはうつ病やアルコール依存症などのリスク要因になります。また、恐怖の対象を徹底して避けようと費やす労力も、場合によっては大変なレベルになるかもしれません。

恐怖の対象がこのトライポフォビアのように「小さな穴の集合体」といったものならば、日常生活では比較的避けやすいので解決は難しくないと思います。しかしもし、少し目にしてしまっただけで気分が重苦しくなったり、ネガティブな気持ちが抜けなくなったり、飲酒やニコチンなどに逃避しなくてはならない気持ちになったりする場合、注意が必要です。

もし仮に「恐怖症」に近い状態になっていれば、精神科的な対処が事態を解決する上で最も役立ちます。しかし恐怖症は、それ自体で病院を受診される方の少ない疾患です。

恐怖症の治療は「暴露療法(exposure therapy)」「認知行動療法」など、いわゆる精神療法が基本的な治療法になっています。暴露療法はこの言葉どおり、恐怖を覚える対象に段階的に暴露(expose)していくことで恐怖感を克服していく治療法です。一方、認知行動療法は代表的な精神療法のタイプで、当人の精神症状を増幅させる問題を、具体的には頭に浮かびやすい思考内容、心理要素、そして行動面の問題などを理解し、それにストップを掛けることが主な目的です。

また、治療薬も状況に応じて使われます。治療薬の目的は恐怖症として現われてくる不安や恐怖への対処だけとは限らず、この疾患に伴いやすい抑うつ症状への対処なども状況に応じて必要になります。

以上、今回は恐怖症の一つとして、トライポフォビアを取り上げてみました。以前からそのような模様をみると、あまり良い気がしなかった方は少なくないかもしれません。もしかしたら、このトライポフォビアという言葉は、自分が嫌いに思っていた対象を初めて認識するきっかけになったかもしれません。もしそうならば、これまで日常生活に問題は起きていなかったはずで、恐怖症の心配などは必要ないと思いますが、なぜ自分はそれを気味悪く感じるのかという問題については、改めて考えてみると、意外に興味深いテーマになるかもしれません。
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