代理ミュンヒハウゼン症候群

代理ミュンヒハウゼン症候群は、自分の替わりに、子供の病気を装う病気。虚偽性障害の一形態で、児童虐待の一面もあります

「あなたの願い事を何でもかなえてあげましょう」と、魔法のランプの精に言われたら、「自分の子供が健やかに育ち、自慢の息子、娘になりますように……」と願う親は少なくないはず。まさか、「自分の子供が病気になって、末長く入院できますように……」などと願う親はいないでしょう。

しかし、大切な自分の子供の身体を傷つけてでも、子供を病気の状態にしてしまおうとする心の病気があります。

時おりニュースでも問題になる「代理ミュンヒハウゼン症候群」について、以下で詳しく解説します。

代理ミュンヒハウゼン症候群は虚偽性障害の一種

「代理ミュンヒハウゼン症候群」という病名は、母親が自分の血を赤ちゃんの尿検体に混入させるなどして、赤ちゃんが病気だと装っていた症例を、英国の小児科医Roy Meadowが学術誌The Lancet に報告した1977年につけられました。

病名の中の「ミュンヒハウゼン」という単語は、『ほら吹き男爵』のモデルであるドイツのミュンヒハウゼン男爵(1720~1791)から取られています。ほら吹き男爵の物語では、夜中に雪の中から突き出ていたものに馬をつなぎ、朝起きると、雪が全部溶けていて、馬が教会の屋根の先端にぶらさがっていた……といった、荒唐無稽な話が繰り広げられます。これに因んで、本当は健康な自分自身の体によくないことをして、わざと症状を作り出してでも、病気のフリをし続ける病気を「ミュンヒハウゼン症候群」と言います。

一方、代理ミュンヒハウゼン症候群の「代理」は、病気のフリをするのが自分ではなく、自分の代理であるという意味合いです。多くのケースでは、母親が自分の子供(乳幼児)が病気であると装います。代理ミュンヒハウゼン症候群は、精神医学的には「虚偽性障害」の一種に分類されます。

代理ミュンヒハウゼン症候群の特徴・症状

母親が代理ミュンヒハウゼン症候群になってしまった場合、矛先の多くは、自分が面倒を見ることができる子供に向いてしまうことが多いです。その目的は決して金銭的利益などではありません。「子供が病気だと装えば、病気の子供の親というアイデンティで見てもらえる。病院の先生たちから大切にしてもらえる」「子供の入院中は、育児などの負担から開放される」といった歪んだ思いが非常に強くなって抑えられなくなるのが、代理ミュンヒハウゼン症候群を起こす心理的背景なのです。

代理ミュンヒハウゼン症候群では以下のようなものが見られます。
  • 入院歴、検査歴が多数あるが、病気のはっきりした原因が分からない
  • 症状のパターンが奇妙である
  • 症状が検査所見と一致しない
  • 医療機関で適切に治療しているはずなのに、病状がよくならない
  • 母親が子供の側にいないと症状が消失する
  • 母親は医学的知識が豊富で、ひとつひとつの検査や処置の目的を熟知しているように見える
  • 子供の身体に侵襲的な検査をする事を母親に告げても、母親は全く動揺を見せない
  • 母親の話の内容に虚偽が認められる
  • 子供の症状が深刻な時に平静でいた母親が、子供の状態が良くなるとなぜか動揺する

代理ミュンヒハウゼン症候群の治療法・問題点

代理ミュンヒハウゼン症候群の最大の問題点は、他者である「自分の子供」が病気になるように働きかけてしまうことでしょう。母親が医師に対して虚偽の症状を伝えるだけでなく、身体的症状を作り出すべく、さまざまな方法で子供の身体を傷つけることも少なくなく、代理ミュンヒハウゼン症候群には児童虐待の一面があります。子供が憎くて傷つけるのではなく、あくまでも自分の精神的な利益を得ることが目的なので、治療中は第三者から見ても非常に甲斐甲斐しく子供の介護をする親も少なくありません。

治療が必要なのは、子供ではなく、子供に病気を装わせている親なのですが、親が子供の病気を装うということは、他人から見ればナンセンス。また、実際に病気の子供の看病に追われる母親に、そんなひどいことを言ってしまっては大変です。本当に病気の子を抱える母親と同様、この病気でも他人からは一生懸命な母親と思われる行動を取ることがあるため、周りは虐待の事実になかなか気付くことができません。

子供に対する不要な検査、処置、薬物、そして長期間の入院生活は、子供の本来の健康を損なうだけでなく、心身の成長を歪めてしまう恐れもあります。

代理ミュンヒハウゼン症候群は、稀な疾患ですが、気付かれにくい疾患のため、実際の数より過小評価されている可能性があると考えられています。これから社会の担い手となる子供は、何としても守る必要があります。児童虐待の一面をもつ「代理ミュンヒハウゼン症候群」という病気があることは、やはり頭の中に入れておくべきでしょう。

症状が深刻に進んでしまった場合は、自分も他人も気づくのが難しい病気。もし万が一、自分の子供が病気になればと願ってしまうようなことがあった場合は、自分が深刻な心の問題を抱えていないか、精神医学的な治療が必要な状態ではないかをご考慮ください。
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