世界遺産/アジアの世界遺産

古都ビガン/フィリピン(3ページ目)

東アジア貿易の拠点としてスペイン人が築いた植民都市ビガン。スペインのコロニアル建築をベースに、先住民イロカノ人の木造家屋や中国商人がもたらした瓦を合わせて築いた美しい街並みは、大航海時代の思い出を当時のままに伝えている。この街は太平洋戦争末期、日本軍によって破壊命令が下されたが、ひとりの日本人の決意によって救われた。今回は種々の逸話が残る世界遺産「古都ビガン」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

ビガンの歴史 1.大航海時代と世界の分割

独特の2階部分

ある建物の2階部分。木枠の窓、ステンドグラスのようなガラス、漆喰壁……どこの文化のものともいえない独特の味わい

15世紀にはじまる大航海時代。その黎明期をリードしたのがポルトガルとスペインだ。

木目が美しい木製の扉

木目が美しい木製の窓。やはり2階部分のデザイン

まだ「大西洋の果てには巨大な滝がある」とか「南に行くほど太陽に近づき、やがて海は煮えたぎり、すべてが燃え上がる」といった伝説が信じられていた時代。ポルトガルは命知らずの航海士を集め、アフリカ西部からギニア湾に抜けるアフリカ航路を見つけ、1498年にはヴァスコ・ダ・ガマがアフリカからインドに至るインド航路を発見する。

ポルトガルによって大西洋から東の航路の独占を宣言されたスペインは西回りでのインド到達を目指す。1492年のコロンブスによるサン・サルバドル島発見(いわゆる「新大陸発見」)を手始めに、南北アメリカ大陸を探索。さらにマゼランが大西洋を横断してマリアナ諸島やフィリピン諸島に至る。史上初となる西回りでのアジア到達だ。

この世界が本当に丸いことを確認した両国は、地球を二つに分割して世界征服を画策する。そのためトルデシリャス条約とサラゴサ条約を締結し、大西洋のまん中辺りから東、日本周辺の経度までをポルトガル領、それ以外をスペイン領に定めた。

 

厳密に言えばフィリピンはポルトガル領となる経度にあったが、1521年にヨーロッパの船団としてはじめてフィリピン諸島に到達したマゼランの功績によってスペイン領に編入された。こうしてスペインはヨーロッパ、アフリカ、アジア、中南米に領土を持ち、いつでもいずれかの土地には太陽が照っているという「太陽が沈まぬ帝国」を完成させる。

ビガンの歴史 2.植民都市ビガンの繁栄

フォトジェニックな街並み

何気ない建物がとても絵になる。ビガンはたまらなくフォトジェニックな街並みだ

サルセド広場の池越しに見た聖ポール大聖堂

サルセド広場の池越しに見た聖ポール大聖堂

ルソン島には古くからイスラム商人や中国人商人が来航しており、先住民の街に溶け込んでいた。

1529年のサラゴサ条約でフィリピン諸島の領有を確認したスペインは先住民や中国人等と戦い、占領を開始。1570年には数千人が住んでいたルソン島屈指の都市マニラを征服し、スペイン王フェリペ2世(フィリップ2世)にちなんでフィリピンという名を冠するフィリピン総督府を設置する。

この頃、スペインは中国(明)・台湾・日本(室町幕府)に近いルソン東北部に東アジア貿易の拠点となる都市を必要としていた。この探索に乗り出したのが初代フィリピン総督レガスピの孫ファン・デ・サルセドだ。

サルセドは中国人や日本の海賊・倭寇(わこう)による海からの攻撃を避けるために、やや内陸部で水運に適した川沿いの土地を探していた。そして発見したのがゴヴァンテス川とメスティーソ川に挟まれた半島状の平地で、土手が城壁の役割を果たす要塞のような土地だった。

 

世界遺産のエンブレム

通りの名を記したボードには世界遺産のエンブレムが刻まれている

1574年、サルセドはこの地を碁盤の目状に区画整理して、植民都市フェルナンディナを建設。これが19世紀に名を変えてビガンになる。

ビガンは東アジアと交易を行い、交易品はビガンからマニラへ送られ、マニラから太平洋を渡ってメキシコへ、そしてメキシコからスペインへと運ばれた。18世紀にイロコス地方でタバコやサトウキビのプランテーションがはじまると莫大な富を得て、ルソン東北部の最大都市として繁栄する。

その後フィリピンはアメリカ領となり、日本の侵略を受ける。その様子は高橋大尉の物語で記した通りだ。ビガンの人々は16世紀以来の美しい街並みを愛し、当時のままいまに伝えている。

 
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