労務管理/労務管理に関する法律

パワハラを起こさない労務管理の勘所(2ページ目)

職場の「パワーハラスメント」(以下、「パワハラ」と略します)が、ビジネス社会で大きな社会問題となってきています。問題の放置は職場環境を一気に低下させてしまいますね。どういうケースが「パワハラ」なのか、企業の責任、とるべき措置、予防法、解決法など、疑問点を確認しておきましょう。人間関係=「信頼関係」がキーワードです。快適な職場環境を構築し実践していくことこそ、労務管理の極みなのです。

小岩 和男

執筆者:小岩 和男

労務管理ガイド


パワハラで企業も従業員も大きなダメージ

パワハラは従業員の心の健康を害することにも

パワハラは従業員の心の健康を害することにも

職場環境の悪化は目に見えていますね。また従業員にとっては生産性が著しく低下してしまう恐れがあります。中央労働災害防止協会が行った調査研究の報告書(H17.3)によると、次のようなダメージが挙げられています。

  • 社員の心の健康を害する(メンタル疾患(適応障害など))
  • 職場風土を悪くする
  • 本人のみならず周りの士気が低下する
  • 職場の生産性を低下させる
  • 十分に能力発揮ができない
  • 優秀な人材が流出してしまう(退職に追い込まれる)
  • 企業イメージを悪くする
  • 訴訟などの損害賠償などの金銭的負担が生じる
  • 不正行為などを放置する企業体質をつくってしまう  など

どうでしょうか。取り組みが遅れてしまうと、企業経営を揺るがすダメージになってしまうのです。良好な人間関係(指揮命令関係)作りがいかに大切かが分かりますね。

パワハラと指導の違いを理解しよう!
(何がパワハラに当たるのか判断はここにある)

労務管理上の悩みどころは、業務上の指導との線引きではないでしょうか。企業は営利目的で活動をしている以上、業績を向上させ従業員育成のため厳しい指導は当然必要ですね。パワハラと指導との線引きのチェックポイントを心しておきましょう。

【チェックポイント】
1.人権や人格を傷つけていないかどうか?
2.従業員の成長につながっているのか?


この2点です。人間は機械ではありません。人格をもった存在であることを忘れないようにすることです。成長につながっているかどうかは、「動機づけ」になっているかどうかで判断しましょう。指導とは「動機づけ」なのです。上司は、成長を支援していくことにその存在意義(責任)があるのです。恐怖感や怯え、委縮をもたらしてはもはや指導とは言えません。そういう意味で、多様な価値観をもった各従業員ごとに対応したコミュニケーションスキルの問題ともいえるのでしょう。ズバリそこに、「信頼関係」があるかないかなのです。

【従って、次のような言動は適正な指導とはいえません】
・人権、人格を傷つける・達成不可能なノルマを課す・職場での役割や存在までも否定する・嫌悪感や否定的メッセージを発して心理的に追い込む・能力や努力を否定し、自信を喪失させて、能力発揮ができない状態に追い込む、など。

放置したり対策不十分の場合、企業の責任が問われます!

最悪の場合、訴訟リスクが生じることもあります

最悪の場合、訴訟リスクが生じることもあります

パワハラは個人間の問題だとして、企業が放置していた場合や対策を怠っていた場合などは企業の責任が問われることがあります。次のような3つの訴訟リスクが考えられます。

1.不法行為による損害賠償(民法第709条)
使用者の権限(業務命令権、人事権など)の範囲の逸脱、濫用は不法行為として使用者の責任を問われることがあります。

2.使用者等の責任(民法第715条)
労働者間の行為が、他の労働者への不法行為を構成するとして、その不法行為について使用者の責任を問われることがあります。

3.債務不履行責任(安全配慮義務)
・使用者は、労働契約に伴い、労働者に対し、労働者の働きやすい環境を整える義務(安全配慮義務)があります(労働契約法第5条)
・使用者がパワハラを放置したり、是認したりしていると、安全配慮義務を怠った「債務不履行」責任を問われることがあります(民法第415条)

【その他、パワハラによる精神障害の労災認定】
パワハラを受けたことによる精神障害の発病が、業務による強い心理的負荷(ストレス)によるものと認められる場合、労働災害の認定の対象となる場合があります。

次のページでは、具体的な予防対策の解説をしています。
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