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ダンサーズ・ヒストリー 演出振付家 小野寺修二(4ページ目)

演出振付家として、またダンサーとして、幅広いシーンで注目を浴びる小野寺修二さん。最新作『鑑賞者』にかける想いは、先日お伝えした通り。ここでは改めてそのダンス人生を振り返り、情熱の源を探ります。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

バレエガイド


“小野寺ワールド”を模索して……

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小野寺修二作『異邦人』 
撮影:杉能信介

今や、押しも押されぬ売れっ子として各界から引っ張りだこ。演出作品は ダンス界に留まらず、近年は演劇界からもオファーがかかり、各所で才能を発揮している。多作だけに、時には創作時期が重なることも。稽古場から稽古場へと、休みなく駆け回る日々が続く。

「作品ごとにメンバーが違うからできてるのかもしれません。これが『水と油』みたいに、ひとつの劇団で何本も作るんだったら無理かもしれない。でも『シレンシオ』にしても、『鑑賞者』にしても、キャストが全く違う。とても贅沢な時期を過ごさせていただいています。いろんな人と何かを作る面白さがあるので、それが今のモチベーションとしては一番強いような気がします」

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高知県立美術館 
『ロミオとジュリエット』2011年8月

小野寺作品に登場する、ジャンルを超えたさまざまな出自のキャストたち。彼らが声をそろえて口にするのが、驚くほど密度の濃い創作過程。いわく、“15秒のシーンを8時間かけて作る”“トイレに行く時間すらない”……。

「みんなにそう言われちゃうんですよね(笑)。単に時間の使い方が上手くないだけかもしれませんが……。稽古では本当にちょっとしたこと、例えば全員で一斉に立つという動きを何回も繰り返し試したり。何か上手くやろうとすると、どこかで限界なり納得なりがきて終わるけど、答えがないから面白い。夢中になって答えを探していくので、結果的に時間がかかってしまうんです」

自身も自らの舞台に立つ。とはいえ、日頃からいわゆるトレーニングらしきものはしていない。日々の何気ない生活や意識の在り方が訓練であり、表現者としての糧になる。

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ダンストリエンナーレ2012 『ロミオとジュリエット』 (C)MILLA

「マイムの師匠から、日常を丁寧に生きることがトレーニングだと教えられたんです。ドアを開けるという仕草ひとつにしても、開ける様子を想像してやるのではなく、ドアノブを持つ感触とか、一回一回開けた実感の再生なんだろうなって思う。日常を意識化する。そうすると、面白いことがあって」

ヒントは日常に転がっている。作品づくりにしてもそう。人々の無意識の行動や仕草を通し、垣間見える素顔。それらをひとつひとつ掬い上げては、組み立て、つなぎあわせてゆく。その始まりは、演出ノートから。

「『空白に落ちた男』のときは、“このシーンはこういうイメージで”というのを文章にして見せてました。でも、誰も読んでくれないんですよ(笑)。だから、あまり必要ないのかなって……。でも、自分の中ではやってます。ノートを持ち歩いて、思いついたことを書き出したり……」

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小野寺さんの演出ノート。必ず同じペンとノートを使用しているとか


ピースとピースを積み重ね、ようやく完成するひとつのシーン。混沌とした世界に散りばめられる、たっぷりのユーモアと毒のスパイス……。複雑かつ緻密に築かれるステージは、もはや小野寺ワールドとして確立された感がある。

「でも僕としては、まだまだ確立には程遠いと思っていて。毎回試行錯誤の連続です。実際、確立されたって思うのは間違いだし、そう思った瞬間キツくなるような気がします。ひとつの世界観として、空気みたいなものをちゃんと出せるのが作品だと思う。だから、“小野寺ワールド”と言ってもらえるのはすごく嬉しいんですけど……」

ようやくひとつ完成を迎えても、息つく間もなく次の作品が待ち受ける。オファーは絶えることなく続き、スケジュールは先々まで埋まっている。終わることない創作の日々に、何を思って立ち向かうのか。

「これまでずっと、僕の中ではいつでも辞められると思ってた。でも近頃は、続けたいって思うし、続けるからには、というのがある。今は、『水と油』の最初の5年に近い感じがしています。 “マイムとはなんぞや?”って探してた時期と一緒で、作業をしててもわからないことが多くて、人を変え、場所を変え表現の仕方を探してる。時間をかけて結実したもの、メソッドとなって残っていくものを、日々模索している最中というか……。毎公演、まだまだ途中な感じがしちゃう。またひとつ面白いものができるんじゃないか、どうやったら突き抜けられるだろうかって、ずっと思ってる気がします」

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     ポーランド公演にて



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