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ダンサーズ・ヒストリー 演出振付家 小野寺修二(3ページ目)

演出振付家として、またダンサーとして、幅広いシーンで注目を浴びる小野寺修二さん。最新作『鑑賞者』にかける想いは、先日お伝えした通り。ここでは改めてそのダンス人生を振り返り、情熱の源を探ります。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

バレエガイド


フランスで生まれた『空白に落ちた男』

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フランスにて

2006年9月、文化庁新進芸術家海外留学制度の研修員としてマイムの本場・フランスへ留学。ひとり一年間を異国の地で過ごす。ちょうど40歳の年だった。

「フランスでは、マイムの学校に行ったり、劇場の仕事を見せてもらったり……。でも研修したことよりも、自分の中に残っているのは、“生きてくのって大変だな”ってこと(笑)。ある時、横にいた異国風の人が、突如警官に取り押さえられたことがあって。自分自身この国では外国人で、守られていない存在なんだということも感じてました」

異国の地で覚えた、外国人であることの不条理。フランス語は喋れない。 地図も読めず、人に尋ねることもできず、カフェに入ってもコーヒー一杯の注文すらままならない。

「赤ちゃんみたいに何も出来なかった。だからこそ、自分の出どころとか、自分に何が出来るのかということを考える時間になって……。『水と油』が急にグワッと来た後だったので、少し頭を整理したかった。そういう意味では、すごく助かりましたね」

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研修先のフランスにて

フランスでの時間は、もうひとつ大きな転機を生み出した。後に『空白に落ちた男』を共に立ち上げる、バレエダンサー・首藤康之との出逢いである。意外なことに、そのきっかけは、首藤氏からのアプローチだったという。

「『水と油』の休止前最終公演の時、トークショーに首藤さんがいらして、お話ししたのが始まりでした。“何か作品をやりたい”と言われたけど、最初は“僕でいいんですか?”という感じ。でも『水と油』のお芝居的な部分が面白いというので、じゃあ何か考えましょうかということになって……。首藤さんもちょうどベルギーで仕事があって、パリで会ってはよくカフェでお茶してました(笑)」

『空白に落ちた男』の構想もそこで語られた。フランス留学もそろそろ1年が経とうとしていた時のこと。

「僕もいい加減、“また何か作りたい”って気持ちが出てきてた。フランスでの生活も、二次的効果があったってことですね(笑)」

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帰国後のスケジュールは『空白に落ちた男』だけ。『水と油』から離れ、ゼロからの再出発だ。先のことは見えずとも、とにかく目の前にあることをやるしかない。

「ただ無我夢中で作ってました。手応えは全くわからなかったですね。首藤さんがバレエ界の大スターっていうことは知ってたけど、マシュー・ボーンの公演のチラシに載ってるのを電車の中で見かけたな、ぐらいの認識(笑)。一体何をしてもらったらいいのかわからないし、何ができちゃうのかもわからないし……」

『空白に落ちた男』の会場となったのは、今はなき森下のベニサン・ピット。ここで、驚異の53回公演を敢行する。通常5回公演が精一杯というコンテンポラリー・ダンスの世界で、全く異例の出来事である。

「あれは本当にある種事故みたいなもの(笑)。僕も53回公演のスゴさがわかってなかった。何より、どこかで中止になる可能性も感じてて……。だから、夢みたいなことも言えてたんですよね(笑)。首藤さんがいろんな所にあたってくれて、何とか上演できそうだってなった時に、一番ビックリしたのは僕ですよ。“え、やれるんだ!?”って(笑)」

キャストは、バレエダンサーの首藤康之に、コンンテンポラリーの梶原暁子、マイム出身の丸山和彰に藤田桃子、そして小野寺修二という、これまた異色の組み合わせ。クラシックバレエ界の大スターが森下の小劇場に立つというのも、演劇的作品に出演するのもダンスファンには驚きだった。

「幕が開いてもしばらくは不安でしたね。どの作品もそうなんですけど、お客さんの反応を見るとヘコむので、あえて触れないようにしてて(笑)。特に『空白に落ちた男』は53回あるので、最初につまらないって思われたら、残りの52回は地獄じゃないですか(笑)」

結果、舞台は大きな評判を呼ぶ。『空白に落ちた男』は新たな挑戦作として日本ダンス史に刻まれ、小野寺修二の名は一躍ダンスシーンに知れ渡ることに。さらに、本作はバレエダンサー・首藤康之の新たな魅力と可能性を引き出した作品としても大きな意義を持つ。しかし、当人の実感は驚くほど薄いよう。

「大成功? どうなんだろう……。手応えって難しいですよね。自分的には、フランスでふらふらしてた時と変わってなくて。一回一回、“成功した!”って確認できてないというか……」

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ダンストリエンナーレ2012 
『ロミオとジュリエット』 (C)MILLA



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