エキスパンドメタル(アルミ)で覆われたコンクリート打ち放し
「外装」という表現が、この場合の最適な言い回しになるのだろうか。アルミ鋼板に千鳥格子状の切れ目を入れ、縦に引き伸ばしたエキスパンドメタルを建物が覆っている。厚みを持ったアルミは外側に傾斜を保ち、南面は日射を防ぐ役割があるものと思われ、もちろん角度によって建物が見え隠れすることから、プライバシーを守る効果が期待できる。にしても、そのインダストリアルな出立ち(いでたち)は、斬新以外の何物でもない。外壁はコンクリート打ち放し。地下1階地上3階建て。総戸数はわずかに6戸、うち分譲対象住戸は5戸である。各住戸の玄関はすべて1階に。別々の扉が接道からすぐのところに用意された。したがって、共用のエントランスやエレベーターはない。住戸はすべてメゾネットタイプである。マンション名は「Case」。「箱(case:ケース)」と「出来事(case:ケース)」を掛け合わせたのだろうか。
「Case」曲線で構成された住空間
プリツカー賞は、年に一度ひとり(あるいはひとグループ)の建築家に授与される賞。アメリカのハイアットホテルグループを所有するプリツカー一族が運用するハイアット財団が運営母体である。「アーキテクチャーのノーベル」または「建築家の最高の名誉」と称されている。歴代受賞者には、丹下健三 (1987年) 、槇文彦(1993年) 、安藤忠雄(1995年)といった日本人名が並ぶ。2010年には妹島和世・西沢立衛 (SANAA)が。そして今年、6人目の日本人として伊東豊雄が受賞。アメリカとともに世界最多を誇る(敬称略)。「プロジェクトがスタートしたのは、プリツカー賞を受賞される前だったんです」。そう話してくれたのは、森ビルの長谷川聡子さん(営業本部住宅事業部 事業推進室)。決して大きくはない敷地条件のなかで何ができるか。「ありきたりな空間にはしたくなかった」(同)。そんな思いから「Case」は誕生したという。
「Case」の戸境壁はすべて曲線で構成されている。天井でさえ傾斜の付いた居室があって、想像を超えた異次元な空間だ(すべてフラットなのは床だけ)。なかには一旦、屋外に出なければ別室に移動できないタイプもある。あまりにユニークな作りで間取り図面を見てもイメージはできないだろう(そして、実際とのギャップはさらに大きいものとなる)。一方、平面図ではある一定の規則性に基づいて構造壁が空間を仕切っているのがわかる。おそらく、住めば様々な思いもよらない発見があるに違いない。「陽の当たり方によって、外観の印象が全然違う」(長谷川さん)もそんな予兆のひとつに思えた。
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