永続的な街づくりに成功した数少ない企業
東急グループは、都市と郊外を鉄道でつなげ、そこに住む(あるいは働く)人たちの暮らしを担う企業体である。バスも含めた交通インフラの充実に加え、商業、住宅、教育とあらゆる分野をサポートし、沿線地域のブランド価値を向上させてきた。東急田園都市線などはその好例である。人気沿線ランキングの類では、1990年代後半から徐々に順位を上げ、いまではトップ3の常連となった。二子玉川やたまプラーザといった主要駅は、大掛かりなリニュアルも終え、活性度は高まる一方。住みたい需要が旺盛ならば、不動産の価値は落ちにくい。駅前には系列の仲介店舗も整い、流通のしくみも市場も十分機能している。
ある都市研究学者は言った。「永続的な郊外の街づくりに成功しているのは、今のところ、東急沿線とユーカリが丘だけ」。極端な2例だが、異を唱える人は少ないのでは。住みはじめた世代が入れ替わろうとする時期を迎え、東急電鉄は「アライエ」を2005年にスタート。建て替え、リフォーム、買い取り保証も加味した売却相談の総合サービスである。これも、安定的な沿線の価値が前提にあってこそ実施できる事業といえる。
高級マンション市場にみる「プレステージ」の強み
東急不動産は、かつて東急ドエル、アルスシリーズでマンション分譲を手掛け、そのハイラインをプレステージと名付けた(1985年)。大量供給に突入した1994年以降の実績をみれば、浜田山(1997年)、鎌倉由比が浜(同)、代々木公園(1998年)、成城(同)、代沢(同)、その他田園調布や野沢、代々木大山町といった山手線外の邸宅街にその割合が多いことが一目瞭然である。これは他の財閥系大手デベと明確に一線を画す。国分寺崖線の自然豊かな世田谷区瀬田。風致地区に指定された同エリアに立つ「東急ドエルプレステージ瀬田」(1999年)は、最小専有面積が80平米超の本格的な低層マンションである。わずか42戸の規模で総合設計制度を活用、有名設計会社をも登用した物件は、分譲当時、市場の注目を集めた。
城南の高額マンションは、都心と違い事業化の難易度が高く、億を超す住戸は売れるまで時間を要すケースが多い。そんななかでも、東急沿線在住者からの住み替えニーズを確実に捉えることができたのは、街づくりで培ったブランド力が頭一つ抜きんでていたから、と見るのがいたって自然である。