ストレス/家庭・育児・嫁姑・義理づきあいのストレス

児童虐待の背景に潜む3つのリスク要因とは?

【公認心理師が解説】児童虐待が起こる背景には、保護者、子ども、環境のそれぞれにリスク要因が潜んでいる場合があります。保護者、養育者本人、そして周りが児童虐待の危機に気づき、追いつめられた気持ちを早めに救うために必要なことについて考えます。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

児童虐待の背景にある3種類のリスク要因

児童虐待の背景に潜むリスク要因とは

身近な人の児童虐待に心当たりはありませんか?


「児童虐待防止法」によると、児童虐待とは保護者がその監護する児童に対して次のような虐待を行うものとされています。その虐待の種類とは、(1)身体的虐待(殴る、蹴るなどの身体に加えられる暴力)、(2)性的虐待(児童にわいせつな行為をする、させること)、(3)ネグレクト(必要な養育を行わずに放置する、食事を与えないなど)、(4)心理的虐待(暴言を浴びせる、子どもの前でDVをするなど)の4つです。

そして、児童虐待が起こる背景にはさまざまな要因がありますが、「子ども虐待対応の手引き」(厚生労働省)では、主に次の3つのリスク要因に分類しており、さまざまな要因が複雑に絡み合うことで起こるとされています。

(1) 保護者側のリスク要因
妊娠、出産、育児を通して発生するもの、保護者自身の性格や、精神疾患などの心身の不健康から発生するもの
(例)
・望まない妊娠で、妊娠そのものを受け入れられない
・生まれた子どもに愛情を持てない
・保護者が未熟で、育児不安、ストレスが蓄積しやすい
・マタニティブルー、産後うつ病、精神障害、知的障害、慢性疾患、アルコール依存、薬物依存等により、心身が不安定になりやすい
・保護者自身が虐待経験を持っている
・攻撃的な性格、衝動的な性格    など

(2) 子どもの側のリスク要因
手がかかる乳児期の子ども、未熟児、障害児などのほか、子どもの側に何らかの育てにくさがある場合など

(3) 養育環境のリスク要因
複雑で不安定な家庭環境や家族関係、夫婦関係、社会的孤立や経済的な不安、母子の健康保持・増進に努めないことなど
(例)
・家族や同居人、住む場所が変わるなど、生活環境が安定しない
・家庭内で、夫婦の不和やDVが起こっている
・親戚や地域と関わりを持たず、孤立している
・失業や仕事が安定しないなどで、経済的に行き詰っている
・母子共に必要な定期健診を受けていない    など

「子ども虐待対応の手引き」(厚生労働省)を基に筆者まとめ
 

複数の要因が重なると児童虐待リスクは上がる

児童虐待の背景に潜むリスク要因とは

子どもを愛していても傷つけてしまう児童虐待

もちろん、これらは虐待の「リスク要因」であり、こうした要因を持つ人がすべて実際の被害者、加害者になるわけではありません。とはいえ、養育環境や保護者自身、または子どもに何らかの課題がある場合には、そうした要因がない場合より、虐待が生じるリスクは高くなるものと思われます。

さらに、要因がいくつも重なる場合には、単一の要因をもつ場合より、深刻な心情になりやすくなるでしょう。たとえば、心身共に疲れ果てた中で、泣かない子どもを制した手がいつしか暴力に変わっていた。子どもの要求にすぐに応えてあげる力が湧かなくなった。追いつめられると、こういったことも起こりうるものと思います。
 

児童虐待防止に重要な、保護者・養育者の気持ちのケア

児童虐待の背景に潜むリスク要因とは

親の気持ちが救われれば子どもの児童虐待を防げる

多くの児童虐待は、保護者の心が追いつめられた故に生じています。したがって、子どもを傷つけずにはいられないほどの心境になる前に、保護者自身の心が救われる必要があります。保護者本人がそのことに気づき、ご自分から保健センターや児童相談所に相談することができれば、早めに親子が安心して暮らし、子育てするための必要なサポートを受けることができるでしょう。

しかし、保護者自身が虐待に至るリスクに気づけなかったり、相談することに躊躇していたりすると、閉塞感のなかで解決策が分からず、心情が追いつめられてしまいます。虐待はそうした状況のなかで、発生してしまうのです。

したがって、児童虐待を防ぐには周りにいる人がそのリスクを察知し、気にかけていくことが必要になります。たとえば、近所にそのリスクを感じた場合、「元気がないように見えますが、私で良かったらお話を聞かせていただけますか?」などとやさしく声をかけてみるとよいでしょう。もちろん、相手はすぐには話をする気になれないものです。「何か力になれることがあるかもしれませんから、よかったらいつでも声をかけてください」と一言伝えてあげるといいでしょう。こうした言葉だけでも寄り添いになり、相手の張り詰めていた気持ちは少し楽になります。そして、やさしい笑顔で挨拶をしたりしていくうちに、ふとしたきっかけから話をしてくれるかもしれません。

とはいえ、虐待をしていると感じたら、勇気を持って地域の児童相談所に通報(通告)をし、行政の支援につないでいくことも必要です。児童虐待防止法では、児童虐待を受けたと思われる児童を発見したときの通報(通告)は、国民の義務と定められています。

通報を受けた児童相談所等では、通報した人が特定できないように、細心の注意を払って対応していきますので、ためらわずに最寄の児童相談所に通報しましょう。
 

児童虐待に気づいたら……声かけ・通報から歯止めを

児童虐待の背景に潜むリスク要因とは

ほんのちょっとした声かけ、気づかいが大きなサポートになる

虐待防止の援助をした人は、当事者の問題にその先もずっと付き合っていかなければならないのでは、と心配する方も多いのですが、そんなことはありません。地域の支援機関につなげた後は、主に支援機関が当事者と共に考え、行っていくことになります。

したがって、周りの人はできる範囲でその人を気にかけ、声をかけたり話を聞いたりするだけでも十分に大きなサポートになるのです。

全国の児童相談所の児童虐待対応件数は年々増え続け、年間6万件を突破しています。児童虐待は、けっして遠い世界の問題、出来事ではないのです。当事者自身が、自分の虐待行為の可能性に気づいて、早めに地域の保健センターなどに相談すること。そして、周りの人が思いやりの気持ちを持って見守りや声かけを行い、虐待だと思った時には早めに通告することで、問題の深刻化に歯止めをかけることができます。

そのためにも、本人や周りにいる人たちが虐待について正しく知ること、そして、早めに虐待の可能性に気づくことが必要になるのです。

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