富士山を望む方角に
番町の街を東西に走る道は、富士に向けてつくったという説がある。少し北に位置する靖国神社の脇道「富士見坂」とは、地図で見る限り、互いが平行の関係にあることから、事実である可能性も十分ありえるだろう。敵の襲来をいち早く見つけるために、家臣に割り当てた高台が御屋敷街「番町」。家路につく家来たちが目にした景色は、さぞかし雄大だったに違いない。この道の角度は、屋敷を建てる際にも、たいへん好都合であったと推察する。なぜなら、南南東に広く間口をとることができるため、日照に恵まれた家ができるからだ。その名残だろうか。番町の街区割りは南北を貫く道は、東西のそれに比べ、あきらかに少ない。
さて、今回のテーマは飯田橋駅前大規模再開発の超高層タワーマンション「パークコート千代田富士見ザタワー」である。なのに、なぜ前段で、長々と番町の土地区画に付いて述べたのか。それは、このタワーマンションを理解する上で、最も手っ取り早い把握の仕方が「地形(じがた)を知ること」に他ならないからである。
地形の効用
住まいの特徴を決める土地の要素には、ロケーションや周辺環境、面積、かかる法令・規制といったものが挙げられるが、意外に影響の大きなものに「地形」がある。またそれが、背の高い建物になればなるほど、そして隣地買収などをしても木造などにくらべ容易に増改築しにくいという点で、マンションの敷地の形は、建物の個性を左右するといっても過言ではない。飯田橋駅前大規模再開発は、おもに事務所棟と住居棟からなるプロジェクトであるが、住居棟の「パークコート千代田富士見ザタワー」は、(この界隈ならではの)長方形の地形の、さらに先がやや窄まった西側を割り当てられた。したがって、40階建てのタワーマンションは、塔状というよりも、平たく大きな板状のプロポーションにならさるを得なかった。
しかし、専有は地形から受ける制約を逆手にとった。60平米台でも8m超の、80平米台ではじつに11m超のワイドスパンを実現したのである。もちろん、ほとんどの居室が開口部に面す。34階以上は、100平米以上の住戸も用意しているが、これなどはリビングダイニングと3つの居室がすべて南東側に開いている。タワーの4LDKで、これはかなり珍しいといえよう。さらに、居住性において注目すべき点がある。階高だ。