マーケティング/マーケティング事例

柑橘系炭酸飲料に代理戦争勃発!果たして勝者は?

ここ最近、海外生まれの柑橘系炭酸飲料の爆発的なヒットが続いています。業界第2位のサントリーがフランスの『オランジーナ』で先行すれば、業界第1位のコカ・コーラ社はイギリスの『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』で巻き返しを図ります。果たして、この代理戦争の背景にあるものは何なのか?マーケティング戦略の観点から分析します!

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

日本で世界を代表する柑橘系炭酸飲料の代理戦争が勃発!

『オランジーナ』と『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』

日本で代理戦争が繰り広げられるフランスの『オランジーナ』とイギリスの『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』

ここ最近、立て続けに海外生まれの柑橘系炭酸飲料がヒットしています。

それが、『オランジーナ』と『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』。

『オランジーナ』はフランス、そして『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』はイギリスで非常にメジャーな柑橘系炭酸飲料ですが、サントリーとコカ・コーラ社がそれぞれのブランドを日本で発売し、飲料の国境を越えた激しい争いが繰り広げられているのです。

日本市場で先行したサントリーの『オランジーナ』

爆発的ヒットを記録した『オランジーナ』

『オランジーナ』はわずか4日間で100万ケースの売上を記録!

まず、柑橘系炭酸飲料の争いで先行したのはサントリーの『オランジーナ』。

サントリーは、2009年に約3000億円を投じてフランスのオランジーナ・シュウェップス社を買収。日本ではほとんど知られていませんが、『オランジーナ』はヨーロッパを中心に60ヵ国で年間2,000万ケースも販売されるヨーロッパでは非常に高いブランド力を誇る歴史ある商品で、炭酸飲料ではコカ・コーラに負けずとも劣らない人気を博している飲料なのです。

サントリーは、『オランジーナ』を日本で販売するにあたって、日本人向けにボトルや味覚を独自のものに変えて投入します。

また、プロモーションではハリウッドの有名俳優リチャード・ギアを起用。普段はクールなイメージのあるリチャード・ギアですが、テレビCMでは「男はつらいよ」の寅さんに扮してユーモラスな演技を熱演。このイメージの大きなギャップによって、日本の消費者の記憶により鮮明に『オランジーナ』が刷り込まれることになります。

加えて、スーバーなどで大々的なプロモーションを展開し、大きな売り場面積を確保して店頭での存在感を際立たせて売上アップにつなげていったのです。

サントリーが満を持して投入した『オランジーナ』は、このようなマーケティングミックスが功を奏して爆発的なヒットを記録し、3月27日の発売開始直後、わずか4日間で年間販売目標である200万ケースの半分となる100万ケースを売り上げるに至ります。

『オランジーナ』を確実に爆発的ヒットに導いたサントリーの戦略

“センミツ”と呼ばれ、1000品投入された商品のうち、わずか3品しか成功しないといわれている飲料業界で、『オランジーナ』が確実にヒットを飛ばした背景にはいくつかの戦略的なセオリーがあります。

まず、一つ目は海外ですでに成功を収めた商品を日本に持ち込んだ点が挙げられるでしょう。

“経営戦略論の祖”と呼ばれるイゴール・アンゾフ教授の製品市場戦略を示した“アンゾフのマトリクス”では、既存製品を新市場で展開する新市場開拓戦略を採用すれば成功の確率は高まってくるとされています。つまり、海外で成功した既存製品を日本という新市場で販売すれば、成功する可能性も高くなるということなのです。

アンゾフのマトリクス

アンゾフのマトリクスを活用して既存製品を新市場で販売するという新市場開拓戦略を採用すれば事業失敗のリスクを軽減できる

続いて二つ目は、差別化された商品を投入した点です。

サントリーは、飲料業界においてマーケットシェア第2位のチャレンジャーであり、競争を優位に展開していくための戦略の定石は“差別化”にあります。つまり、リーダーであるコカ・コーラ社が提供していない商品を市場に投入し、新たなマーケットを切り開いていくことが求められているのです。

柑橘系の炭酸飲料にはコカ・コーラ社の『ファンタオレンジ』を始めとして、すでに多くの商品が存在し、この牙城を切り崩すことはそう容易いことではありません。ただここで、既存飲料とターゲットをずらすことができれば、差別化された柑橘系炭酸飲料が入り込む余地がまだまだあるといえるでしょう。たとえば『ファンタオレンジ』は主に若年層をターゲットにして、甘い飲料に仕上げられているので、それ以外のターゲットに受け入れられる差別化された飲料を開発すればいいということになります。

そこで、サントリーは20代から40代の男女をターゲットにして、『オランジーナ』を“甘さを控え目にした微炭酸”というコンセプトの大人向けの炭酸飲料に仕上げることによって差別化に成功したのです。

リーダーのコカ・コーラ社はイギリスの『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』を投入

シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック

『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』も大々的なプロモーションを展開

サントリーの『オランジーナ』が大きな成功を収めると、リーダーであるコカ・コーラ社は『オランジーナ』を追撃すべく、イギリスを代表する柑橘系炭酸飲料『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』を市場に投入します。

『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』は、レモンの酸味とトニックを効かせた独特の味と炭酸の爽快感が味わえる、これまでにない柑橘系炭酸飲料で、甘さが口に残らず、切れのあるさっぱりした後味に特徴があります。カロリーも100mlあたり12kcalと非常に低いことから、40代以上の“オトナ”をターゲットにした商品といえます。

プロモーションには、映画『007』のジェームズ・ボンド役で著名なピアース・ブロスナンを起用。『オランジーナ』と同じく、スーパーなどでの売り場面積も大きく確保して、かなり力を入れたプロモーションを展開していきます。

これらの重点的なマーケティングミックスが功を奏して『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』は大ヒットを記録し、日経MJが発表する新製品週間ランキングでは飲料部門で1位に輝き続けています。

コカ・コーラ社はリーダーの戦略を忠実に実行

マーケティング戦略の第一人者フィリップ・コトラー教授の『競争上の地位に応じた戦略』に基づけば、リーダーはチャレンジャーが差別化した製品を市場に投入した際に、体力にモノを言わせて、差別化を阻止する戦略を駆使するのが定石です。

つまり、チャレンジャーと同じような製品を市場に投入して、差別化された製品でチャレンジャーが市場を開拓することを妨げていくのです。

かつて家電業界では、『ウォークマン』など革新的な製品を開発し、市場を切り開いてきたソニーに対して、松下電器産業(現パナソニック)はソニー製品をすぐさま研究して同様の製品を安く提供し顧客を奪う戦略を打ち出していました。これにより、“マネシタ”電器産業と揶揄されることもありましたが、この松下の戦略はまさにリーダーとして教科書通りの戦略だったといえるでしょう。

同じように飲料業界でも、コカ・コーラ社は差別化戦略で爆発的なヒットを記録したサントリーの『オランジーナ』の勢いを止めるためにも、同じような製品でサントリーの戦略を包み込んで、無力化していく戦略を採用する必要があります。そこで、コカ・コーラ社はイギリスを代表する『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』を戦略商品として市場に投入し、リーダーの典型的な戦略として“同質化”を図ったのです。


世界を代表する柑橘系炭酸飲料である『オランジーナ』と『シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニック』の日本における代理戦争はこの先どのような結末を迎えるのか?

“オトナ”の柑橘系炭酸飲料の激しいバトルから今後も目が離せそうにありません。
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