社会問題化した“コンプガチャ”
ソーシャルゲームの“コンプガチャ”が社会問題化している
“コンプガチャ”とは、携帯電話で利用できるソーシャルゲームをクリアしていくうえで、重要な鍵を握る非常にレアなアイテムを入手できるシステムであり、そのレアアイテムを入手するために、仮想の小型自動販売機“ガチャポン”を通して得られるすべてのアイテムを揃えなければいけないことから“コンプリートガチャ”、略して“コンプガチャ”と呼ばれているのです。
そして、この“コンプガチャ”を達成するためには、何回もソーシャルゲーム上の“ガチャポン”に挑戦しなければならず、人によっては何十万円、何百万円をついつい費やしてしまう場合があるのです。
“コンプガチャ”問題は、消費者庁で今年の2月に“コンプガチャ”による高額課金問題が取り上げられると、5月9日にはソーシャルゲーム大手のグリーやDeNAが“コンプガチャ”の終了を表明。そして、18日には消費者庁が正式に“コンプガチャ”を景品表示法に抵触すると発表するに至ります。
それでは、なぜ多くの人がゲーム上の仮想のアイテムを入手するために高額なお金を投じてしまう事態に発展したのでしょうか?
今回は多くの人がはまった“コンプガチャ”の罠について、ソーシャルゲーム企業のマーケティング戦略の観点から問題を掘り下げていくことにしましょう。
“コンプガチャ”のマーケティング上の5つの罠とは?
1.無料の罠消費者が購買に至るまでの活動には多くのハードルがあります。企業はこのハードルを低くするために、数々のマーケティングの仕掛けを考えていくことになります。特に消費者は初めての商品やサービスの購入を検討する際には非常に慎重になります。これまで利用したことがないのですから「この商品やサービスは本当に自分にとって価値があるのだろうか?」と考え、価格と価値を比較することからスタートするのです。
もし、この段階で利用しようとする商品やサービスが無料であれば、利用へのハードルは格段に低くなることにつながります。商品やサービスを利用するのに、お金を支払う必要がないのですから、価値を感じなければ利用をストップすればいいだけの話であり、無料であれば、気軽に試すことができます。
ただ、一旦商品やサービスを受け入れてしまえば、次のハードルは格段に低くなります。たとえば、ゲーム内でアイテムを入手できる無料の“ガチャポン”が1日1回しか利用できないという制限があれば、有料の“ガチャポン”が数百円程度ならばゲームをクリアするために使っても構わないというユーザーは多いかもしれません。一旦受け入れた無料サービスの有料課金に伴う消費者のハードルは、最初から有料のゲームを利用するというハードルに比べてかなり低くなるということなのです。
2.後払いの罠
有料の“ガチャポン”の利用料は、後日携帯電話の料金と一緒に請求される仕組みになっています。代金の支払いがその場で現金であれば、自分の財布の中身と相談しながら、購入を決定することができます。財布の中に1千円しかなければ、それを超える浪費は避けようと自制心が働くはずです。
ところが“コンプガチャ”の支払いはその場で現金を持っている必要がなく、携帯電話料金に上乗せして後日課金されるために、実際のお金を使っているという感覚が麻痺して、知らず知らずのうちに利用料が高額になりやすい仕掛けになっているのです。
3.期待の罠
コンプガチャで非常にレアなアイテムを手にする条件はすべてのアイテムを揃えることです。特に難しいテクニックを要するわけではなく、誰でもアイテム購入を続ければ、いずれは全種類のアイテムが揃って、レアアイテムを入手することができます。このレアアイテムはゲームをクリアするうえで重要な役割を果たしますし、ネット上で高額で取引もされています。ある程度までアイテムを揃えれば、どうしてもレアなアイテム手に入れたいという欲求が高まり、次は恐らく出るだろうという期待を持ち続けて“ガチャポン”に挑戦することになります。
ここで問題になるのは、ゲームを提供する企業側がアイテムの出現率を操作することができるという点です。企業は売上を上げたければコンプリートになる確率を低くして、ユーザーに多額のお金を使わせることが意図的にできるのです。
4.いつでもどこでも手軽にできる罠
ソーシャルゲームは携帯電話がつながる環境であれば、いつでもどこでも手軽に利用することができます。ちょっとしたスキマ時間さえあれば、サイトにアクセスしてゲームを開始することができます。
その手軽さゆえに自由な時間さえあれば、ソーシャルゲームに興じるという悪い習慣が身についてしまうのです。
5.ソーシャルの罠
ソーシャルゲームは一人で行うゲームとは違い、他のユーザーと協力して敵を倒したり、目的を達成したり、他人との交流がゲームの中心要素として取り入れられています。
ゲームを通して友人が増え、助けたり、助けられたりするうちにどんどんゲームにのめり込み、友達が新たなアイテムを入手すれば自分もと段々とアイテム購入に関するハードルが下がって、出費に関する感覚が麻痺してくることにつながるのです。
どうすれば企業が仕掛ける“マーケティングの罠”から抜け出せるのか?
未成年者にはしっかりとした消費行動の教育が必要
そのような場合、消費者は自分で自分の身を守るために、冷静な消費行動が求められます。
私達は『エモーション(感情)』と『ロジック(論理)』で消費活動を行っていますが、「本当にこのような商品やサービスにお金を投じてもいいのだろうか?」と、必ずいったん立ち止まって論理的に考える癖をつける必要があるでしょう。
常に感情を優先して消費を決定するようであれば、企業の“マーケティングの罠”に陥る可能性は高くなってきます。
そこで、ソーシャルゲームを利用する際にも、『月に1,000円』など論理的に予算の上限を決めた上で楽しめば、まったく問題は発生しないのです。
ただ、“コンプガチャ”のように、レアなアイテムを入手するために、すでに多くのお金や時間を費やしている場合は、これまでの投資が無駄になるという気持ちが芽生え、どうしてもコンプリートしなければいけないという強迫観念さえ抱いて、どんどんお金をつぎ込んでしまうことも不思議ではありません。
このような場合、『サンクコスト』という概念に基づいて、これまでの投資は取り戻すことができないのだから、今後客観的に判断して利用を続けるかどうかを決定する必要があります。
この『サンクコスト』の考え方ができるようになれば、無駄な消費を避けることができるようになるでしょう。
このように消費者本人が客観的な消費活動に取り組むことができれば、企業の“マーケティングの罠”に陥る可能性は低くなりますが、“コンプガチャ”が社会問題となったのは、その対象の多くが未成年者だったからです。未成年者がこのような問題に巻き込まれないようにするためには、保護者は企業が仕掛ける“マーケティングの罠”を理解したうえで、しっかりと客観的な消費活動を教えていく必要があるといえるでしょう。