緻密かつスピード感のある修理技術!
店長の高井さんがリウェルトの作業を行っているところです。この靴、表向きは非常にカッコ良かったものの、製法としてはハンドソーン・ウェルテッドとノルベジェーゼの合いの子のような修理屋泣かせの代物。このような難物中の難物でも、彼は謙虚かつ真摯に修理に取り組みます
一方、大阪の大学を卒業した後、紳士靴専門雑誌「LAST」創刊号の記事を頼りにロンドンの誂え靴職人Jason AMESBURY(ジェイソン・エイムズベリー)氏の門を叩き職人としてのキャリアをスタートさせたのが、この度OLD HAT – Shoe Artisans –の店長になった高井貴亘さんです。実はJason氏の工房は、石田さんがイギリスに古着の買い付けに行く度に必ず表敬訪問する場所で、高井さんの丁寧であると同時に集中力の漲る仕事ぶりに、石田さんのみならず師匠のJason氏も当初から注目していたとのこと。取材中も、例えば婦人靴のヒールのピンリフト交換のような比較的簡単な修理であっても、全く手を抜いていない気高い姿勢がひしひしと感じられました。
高井さんは2009年に帰国して地元・関西圏の靴修理工房で研鑽を積み、上記のような経緯で知り合った石田さんの後押しもあり、この度自分の店を持つことになったのです。彼の修理の特長は、ズバリ、堅牢さと「仕事の速さ」の双方が備わっている点。一足を創り上げるのに相当な時間が求められるイギリスの伝統的な靴作りと、場合によってはお客様の目の前で作業を完了させなければならない程のスピードが求められる修理工房での作業と言う、方向性の全く異なる修業先の互いの長所を極めて高度にバランスさせているのです。
上記の靴をご覧いただきましょう。近年の靴修理店ではそれほど珍しいメニューではなくなった「リウェルト」、つまりハンドソーン・ウェルテッド製法やグッドイヤー・ウェルテッド製法の靴の「掬い縫い(つまみ縫い)」からやり直す工程ですが、実はこの靴は当初の掬い縫いが特殊、と言うよりもこの部分の修理を作り手が全く想定していない代物でした。本来ならば革のインソールの下部に凸凹を掘ったりリブを取り付けて行うべきものを、その側面で縫い付けているだけ。しかも少しでも細く見せようとしたのか、掬い縫いの糸が出し縫いの糸に内部で干渉しまくっていました。
その構造上、インソールの掬い縫いの跡がアッパーの革で完全に覆われてしまうので、それを探し出すだけでも多くの時間が掛かってしまう難工事中の難工事。しかし高井さんは通常のリウェルトとほぼ同じ時間でサッと仕上げてしまいました。しかも革に余計なダメージを与えないべく、糸は元の縫い目にしっかり納まっている! 他のお店では恐らく断ってしまうか、せいぜいマッケイ縫いで逃げてしまうであろうこのようなこのような靴の修理でも、「より長く履いていただく」を前提に取り組まれている真摯な姿勢こそ、各修業先のノウハウを高度に取り込んでいることの何よりもの証明でしょう。
で、そんな高井さんに仕事の合間に色々とインタビューしたのですが…… 長くなりそうなので次回の記事で紹介します。
【お問い合わせ】
OLD HAT – Shoe Artisans –
住:大阪府大阪市中央区南船場4-9-6 順慶町アーバンライフ101
地図: Yahoo! 地図情報
最寄り駅:大阪市営地下鉄御堂筋線心斎橋駅 四ツ橋線四ツ橋駅から共に徒歩 約5分
TEL:06-6226-8241
HP:OLD HAT – Shoe Artisans -(修理メニュー等はこちらをご参照願います)
営:11時~20時(日曜日のみ19時まで)
休:火曜(祝日の場合もお休み)
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