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靴の「底」について深く考えてみる ヒールその5

「メンズシューズ基礎徹底講座」では、ヒールの意匠について様々な考察しております。今回はレザーのトップリフトに付く「ゴム」の形状について考えてみましょう。これ、紳士靴の場合は大まかには3種類に分けられます。シンプルに見せるかそれとも機能最重視で行くかは、靴自体の性格で決められることが多いようです。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

それでも最初に傷んでしまう、悲劇のパーツ!

ここしばらく、紳士靴に付くヒールについてさまざまな考察をしている「メンズシューズ基礎徹底講座」。前回見た「釘の打ち方」については、かつては「ヒールを長持ちさせる頼りになる存在」だったのが、今日では「路面で滑る隠れた原因」へと意識が変わりつつあり、紳士靴を履く環境がゆっくりと、でも確実に変化してきていることを象徴するかのような意匠かも知れません。

と、ここで前回の記事に関しての一部訂正です。このページで「釘なしに変更された」と書いたジョン・ロブ(パリ)のブランドロゴを図案化させたトップリフト(トップリフト)ですが、読者の方から「最近のものは釘付きでは?」とのご指摘を受けました。改めて店頭等でチェック致しましたところ、全体的な形状こそ同じであるものの、現行の商品にはレザー部分の四隅に釘が打たれているのが確認できました。以前のものに比べ打たれる釘の本数は圧倒的に少ないので、「滑り難さ重視」の姿勢は変わりありませんが、記載した「釘なしトップリフト」自体は既に過去のものとなっていた訳です。ここにお詫びして訂正申し上げます。
ダヴテイル

ヒールのトップリフトに付くゴムの形状は、幾つかの種類に分類可能です。これは「ダヴテイル」と呼ばれるもの。鳩の尻尾のように楔状にすることで、レザーの部分との嵌合性を向上させています

さて今回は、その釘と同様にヒール、特に革製のトップリフトの耐久性を格段に向上させる「ゴム(これ単体を『トップピース』と呼ぶ場合もあります)の形状」について幾つか見てみましょう。外くるぶし側の後端に付き、その専有面積の度合いから「クウォーターラバー」とも呼ばれます。大抵の紳士靴で恐らく最初に劣化する運命を背負ったパーツではありますが、これもよくよく見てみるとさまざまな形状があるのです。

例えば、上の写真にあるような楔形のものは、イギリスやアメリカの既製靴若しくはそれを多分に意識したものに暫し見られる形状です。ちょうど鳩(Dove)の尻尾のような形状だからでしょうか、「ダヴテイル(Dovetail)」なる愛称も付いています。楔形にすることで革の部分との嵌合性が増し、ポロっと外れてしまうのを最小限に防ぐ効果があるようです。ちなみに引き出しなどの木製家具や木造建築の角端部をピタッと咬み合わせる際にも、これとほぼ同じ形状の凸部と凹部を作るのですが、それも英語で「ダヴテイル」と呼ばれるので、恐らくこれをヒールに応用したものだと思われます。


シンプルな形状でも、機能は十分!

シンプルな直線状のもの

こちらはレザー部分との境目をシンプルに直線状にしたもの。ゴムの面積をどのくらいの割合にするかや、境界線をどの角度に入れるかにも、靴メーカーや部材メーカーのノウハウが活かされています

一方、外くるぶし側の後端にゴムを楔状ではなく、シンプルに直線で取り付けたものも存在します。絶対数からしたら、ダヴテイルよりこちらの方が多く見掛けるかな? 見た目が美しく、かつ乱暴に履かれることが無い前提があるからでしょうか、イギリス製であっても誂え靴(ビスポーク)の場合には、クウォーターラバー仕様の場合はダヴテイルではなくてこちらを用いる方が多いようです。

かつてはイギリスのPhillipsと言う老舗の部材ブランドのもので、表面に”PHILLIPS SPECIAL”と刻まれたものが、この形状のものではとりわけ有名でした。ゴムが比較的小さな面積の割に削られ難いとの噂も立ち、一時は誂え靴の代名詞的なディテールにさえなっていたほどです。しかし残念ながら数年前に廃盤になってしまい、これを近年の作で見掛けるのは稀になってしまいました。


もっとどっしり構えているゴムもあります!詳しくは次のページへ!
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