愛すべき「ヘン」な人ワールド
この映画、ついついハルの挙動に目を奪われてしまうのですが、いちおう主人公はオリヴァーです。(草食男子系と言うのでしょうか)恋に臆病だったオリヴァーが、父親の生き様に刺激され、自分を見つめ直し、勇気を出して幸せへの一歩を踏み出していく…というのがメインのストーリーになっています。でも、オリヴァーが本当にゲイフレンドリーなキャラクター(しかも『フィリップ、きみを愛してる!』でゲイの役を素晴らしく演じきったユアン・マクレガー)で、アーティストということもあって、そのありようがかなりゲイチックに見えますし、恋人のアナ(フランス人)も変わった女性なので、メインである男女の恋愛もどこか「クィア」な印象です。
さらに、ちょっとぶっ飛んだところのある母親や(『シリアルママ』を彷彿とさせます)、天真爛漫でピュアで天使のようにハルを愛するアンディも素敵ですし、オリヴァーの愛犬アーサーがまた(Softbankの「お父さん犬」のように)イイ味を出していて、きっとトリコになることと思います。
言い換えると、この映画に登場する人物は、おしなべて個性的(もっと言うと「ヘン」)なのです。典型的な(マッチョイズムでゲイ嫌いな)アメリカ人は、全くと言っていいほど出てきません。きっと監督の世界観が反映されているのでしょうが、そうしたところにもこの映画が絶賛される秘密があると思います。(海外でのこの映画のレビューはこちら)
映画全体としては、たとえてみれば、ウディ・アレンの映画のように軽妙な笑いがふんだんにちりばめられ(人間関係のおかしみが描かれ)、まるで『ローマの休日』のように印象的なシーンがたくさんあり(とても映画的)、『ミルク』のようにゲイのことが前面に打ち出されている映画です。オリヴァーが描く絵などはちょっとジョン・キャメロン・ミッチェルの『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』を彷彿とさせます。
淡々としたシリアスめな作品というイメージかもしれませんが、テンポよく次々にシーンが切り替わっていき、それからどうなるの?というワクワク感を感じさせる、なんというか…ある種グルーヴ感を感じさせるような、軽やかで笑えるポップな作品です。
音楽がまたイイ。とても大人で、オシャレです。
(2月4日の「オールナイト2丁目」@ALAMAS CAFEでこの映画の音楽がかかるそうです。ぜひ聴いてみてください)
来週の週末はぜひ、友達や彼氏や家族の方などを誘って『人生はビギナーズ』をご覧ください。
『人生はビギナーズ』Beginners
2011/米/監督:マイク・ミルズ/出演:ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロランほか/配給:ファントム・フィルム、クロックワークス/2012年2月4日(土)より新宿バルト9、TOHOシネマズシャンテほかにて公開
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