ストレス/家庭・育児・嫁姑・義理づきあいのストレス

子どもが巣立ったら襲われる虚無感・「空の巣症候群」からの脱出方法

【公認心理師が解説】子どもの成長は喜ばしいことですが、自立して巣立った後に、空虚感に襲われる母親は少なくありません。これは「空の巣症候群」とも呼ばれます。特に、自分のことを後回しにして家族に尽くす「よい母親」タイプの人は要注意。子どもが巣立った後に、親として持っておきたい心構えを解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

子の進学・就職・結婚……子どもが巣立ったら訪れる「空の巣症候群」

携帯電話を使う女性

子どもが巣立った後の心の「ポッカリ感」は意外に大きい


長い育児の後でやってくる子どもの「巣立ち」。大切に育てた子どもが親元を離れていくとき、多くの親は「うれしいのに切ない」「応援したいのに引き止めたい」といった複雑な気持ちになるものだと思います。

生意気ざかりで口応えばかりだった子、世話が焼けて心配の種の尽きなかった子、そんな子どもの世話に追われていた頃には、多くの親が「早く自立してくれないかな。そろそろ自分の時間がほしい……」と願っていたかもしれません。しかし、本当に親元から離れてしまうと、心にポッカリ穴が空いたような感覚を覚えるものです。

このように、子どもの自立後の喪失感から、親の心が不安定になることがあります。これを「空の巣症候群」といいます。ひな鳥の巣立ち後の「空の巣」にたとえられた心の状態です。

<目次>  

燃え尽き症候群にも類似? 子育て熱心な主婦に生じるリスク 

家庭とは離れた自分の「生きがい」を持っていますか?

家庭とは離れた自分の「生きがい」を持っていますか?


「空の巣症候群」は、子育てに熱心に専念している人ほど注意が必要です。仕事熱心なサラリーマンが、定年後「燃え尽き症候群」といわれる喪失感を抱えるように、「子育て一筋」で頑張ってきた母親も、子どもの巣立ち後に同じような心境になることがあります。

例として挙げると、国民的な人アニメ『サザエさん』の母親・フネさんのように、いつでも自分のことを後回しにして家族を第一に考えるような「いいお母さん」ほど、そのリスクは高いと思います。

子育て真っ最中のフネさんは、同居中の長女夫婦、小学生の子どもたち、孫に囲まれ、家の切り盛りに追われっぱなしの毎日です。しかし、いずれは長女夫婦も居を構え、子どもたちも進学や就職で家を離れ、あの磯野家にも急な静寂が訪れるのかもしれません。

そのとき、フネさんはどんな心境になるでしょうか。家庭以外の「生きがい」を持っているなら、その喪失感を薄めることもできるでしょうが、フネさんからは、どうしてもそれが見えてきません。だから、私は「フネさんの将来」を思うと、時折心配になってしまうのです。

生きがいづくりは、一朝一夕にできるものではありません。仕事一筋だったサラリーマンが、定年後の趣味や活動を見つけるのに苦労をしているように、生きがいは、人生の転機を迎える前から育てていないと、なかなか自分のものにならないのです。
 

「一卵性母子」の母ほど強くなる巣立ちの葛藤 

愛する娘が巣立つ時、どんな気持ちになりますか?

愛する娘が巣立つ時、どんな気持ちになりますか?


また「空の巣症候群」になりやすいのは、子だくさんの母親ばかりではありません。大事に育てた「一つぶ種の子」が手元から離れたときの喪失感もまた、苦しいものです。

とくに夫との関係が微妙であると、心のよりどころを子どもに求めて、子どもを「小さな親友」のように思ってしまう方もいます。なかでも娘の場合は、女性同士で感情移入や共感がしやすいため、精神的な距離が近づきやすいのです。このように双子のように仲良く、いつも行動を共にしている母と娘の関係を「一卵性母子」といいます。

そんな愛しい子どもにも、やがて巣立ちのときは訪れます。子どもに仕事や恋人ができれば、そちらの方に夢中になっていくでしょうし、「やがては自分の手で新しい巣をつくりたい」と思うものです。しかし、このときに母親の心が自立していないと、子どもの思いを受け止められなくなります。

その結果、子どもを巣から出したくない、古巣に引き戻したいという気持ちが強くなることもあるかもしれません。そうして外出を制限したり、恋人を厳しくチェックしたりして干渉を強くする。仕事や結婚生活の相談に乗りながら会社や婿を「悪者」にし、退職や離婚を促して実家に引き戻そうとする。無意識のうちに、こうした行動から子どもの自立を阻んでしまうこともあるかもしれません。
 

子どもが巣立ったら、親の「新しい役割」を

見守るのが親の務め

子どもの自立を見守るのが親の務め


時期がくれば子どもは古巣を去り、自分の手で「新しい巣」をつくりたくなるの自然の摂理です。親だからこそ、子どもの巣立ちや巣づくりを見守っていくことができるのです。

「親」の字は「木の上に立って見る」と書きます。少し離れた木の上で子どもを見守る。これが親の役割だといわれています。

巣立った子どもは、古巣を捨てたわけではありません。未熟な子どもたちが外の世界に出れば、道に迷ったり傷ついたりします。そのときに道案内を求めたり、傷ついた羽根を癒せる場所が、「古巣」なのです。さらに、自分自身が巣をつくる際に必要なことを学べるのは、古巣に親がいてこそなのです。

子どもが巣立てば、髪を振り乱して子どもの世話をする忙しさからは、たしかに卒業します。その代わりに、巣立ち後には「新しい役割」を求められます。

一つは、子どもが迷い傷ついたときに、いつでも立ち寄れる「古巣」を大切に守ることです。
二つめは、子どもと大人としての会話ができる、心のゆとりを持つことです。
三つめは、巣立ちを応援できるように、親も自立性を持って生きることです。

子どもが巣立った後にこそ発揮できる、親の仕事が待っています。気持ちを「新しい役割」に切り替えて、これからもずっと子どもを見守っていきましょう。

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